「放射能漏れ」「米軍参加」防災訓練に違い 原子力艦寄港地の横須賀と佐世保

米軍の原子力艦寄港地である神奈川県横須賀市と長崎県佐世保市で20日、原子力防災訓練があった。原子力空母の事実上の母港となっている横須賀では米海軍との合同実施で、放射能漏れなしの想定。佐世保では原子力潜水艦から放射能漏れがあったとの想定で行われ、米軍の参加はなかった。【岩崎信道、綿貫洋】
横須賀市での訓練には国、県、市、米海軍の計196人が、横須賀市の災害対策本部と米海軍横須賀基地に分かれて参加。三浦半島でマグニチュード6・8の地震が発生したとの想定で始まった。
基地内の工場が損壊し、11人の負傷者が出る。停電のため基地への電力供給が止まり、放射線量を測定するモニタリングポストはデータを送れなくなる――。こうしたシミュレーションに対応して、米海軍の医療専門チームが本番さながらの応急処置に取り組んだ。一方、原子力空母ロナルド・レーガン(RR)をはじめ全ての艦船は被害がなく、放射能漏れも確認されなかったとして訓練は進められた。
佐世保市での訓練には市民ら約650人が参加。原子力潜水艦が停泊中の佐世保港で100ナノグレイ毎時の放射線が検知されたとの想定を立て、住民への放射線スクリーニングなどが行われた。訓練は今年で18回目。市は毎年、外務省を通じて米海軍の参加を促しているが、実現していない。
「米国の原子力軍艦の安全性に関するファクトシート」に基づき、米海軍は「原子力艦は安全で事故は想定しがたい」との立場をとる。佐世保市の要請に応じないのはこの「安全神話」に加え、数多くある寄港地のひとつにとどまることが理由となっているという。
RRが前線配備されている横須賀市の場合、米軍は訓練に参加することで地元に配慮しているものとみられる。初の日米合同実施となった07年は、原子力空母ジョージ・ワシントン配備の前年。当時の在日米海軍司令官は「横須賀と特別な関係だから(合同で)実施した」と述べた。
横須賀市での原子力艦がらみの防災訓練は02年から始まったが、06年までは市民も加わって1000人規模で行われていた。想定も「原子力艦船が横須賀基地に寄港中、放射線異常値を検出した」というもの。今回は米軍の見解に押し切られ、原子力艦を念頭に置きながら放射能漏れを前提としない内容となった。
横須賀市の上地克明市長は「今回は自然災害時に初動体制をどうとるかが中心なので問題ない」と述べた。一方、「原子力空母母港化の是非を問う住民投票を成功させる会」共同代表の呉東正彦弁護士は「米軍は好き勝手にやりたいと思っているはず。だからこそ、自治体による申し入れや市民の反対運動などでプレッシャーを与え続けないと、安全が守れない。粘り強く交渉して訓練の想定を引き上げリアルで実践的なものにしていくようにすべきだ」と話している。