【西田浩史】早慶、上智、明治…史上初の学部別「序列ランキング」を全公開する! グーグルデータから大調査

大学の“ブランド力”とは何か。
一般的にそれは人々のイメージによるものだろう。
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大学の総合的なブランド力で言えば、関東の私立なら慶應義塾大学、早稲田大学、上智大学の3大学が高いといえよう。関西なら“関関同立”の中でも同志社大学、立命館大学がブランド力が高く、4大学以外では近年近畿大学のブランド力が急上昇している。
また、中央大学法学部など突出したブランド力を持っている特定の学部もある。
ただし、各大学の個別の学部がそれぞれどれほどのブランド力を有しているのかはこれまでほとんど指標がなかった。

大学のブランド力を知らない受験生は、入試難度(偏差値)、志願者倍率などのデータを見つつ、親や学校や塾の先生の勧めでなんとなく志望校及び志望学部を選ぶしかなかった。
しかし本来なら、入試難度が比較的低く、志願者倍率が比較的低く、しかし入学してから実力が伸び(社会人として活躍できる能力を高められる)、就職実績が良い(企業人事からのイメージがいい)、そして将来、偏差値や倍率も高くなる。
そんな可能性を秘めた、真のブランド力のある学部に入りたいと思うのではないだろうか。
そうした学部はどこなのか。それを知るために今回、インターネットで検索されている言葉を解析し、ビックデータを用いて各学部のブランド解析を行っている学者、井上孟氏に協力を得て、本稿を執筆している。
海外では企業に対し、インターネットで検索される言葉を解析し、株式評価額や売上の予測を行うなど、ビッグデータを使った新しいブランド分析の流れが進んでいる。インターネットで検索される言葉を解析して、関係者の興味や考え、その企業のブランド力を上げるための“ヒント”を探ろうとしているのだ。
この方法を応用して、大学に対して、人事部門を始めとする企業の担当者や、受験生をはじめとする関係者がそれぞれの学部に対して抱いている“イメージ”を可視化することを試みた。
そこで今回は、早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学の3大学と、それに次ぐGMARCHの中で最もブランド力が高いと思われる明治大学の4大学について、学部ブランド力序列マップを作成した。

本マップのポイントは、インターネットでの検索数、言葉の種類の多さからみる、学部の勢い、注目度のブランド序列である。予備校から発表される偏差値、志願者数、倍率からは読み取れない、将来の伸びを、1か月単位の変化から分析している。
マップは、上位に行けば行くほど今後、難度(偏差値)、志願者数、倍率、話題性などが上がり、人気が上昇する可能性が高いと言える。過去複数年のデータから、特に安定して検索数、検索語の種類が多い学部を最強学部とした。
最強学部の数が多いほど、その大学のブランド力が高いことを示す。一方で下位に位置する学部は現在、偏差値や志願者数、倍率、話題性が高くとも、インターネットからの検索数が少ないために、今後それらが下がる可能性があるといえる。
全国130大学について、過去3年にグーグルで検索された言葉の種類と、毎月の平均検索数のデータを利用している。
分析対象のデータは、海外の複数の分析ツールを使ってグーグルから網羅的に取得した約5億件。その中から、全ての大学・学部で共通して検索される言葉、特定の大学・学部でのみ検索される言葉、そしてそれらの検索される頻度や経年変化を分析した。
そこから、大学のブランド力に関係する100以上の言葉を、教育業界の専門家らと共に抽出し、体系化した。

ブランド力ランキング作成にあたり用いたデータは、(1)学部名(略称を含む)の毎月の平均検索数の多さ、(2)難関大学・学部で共通して検索される言葉の種類の多さ(例えば「難しい」という言葉)、(3)上記の言葉の毎月の平均検索数の多さ、(4)第一志望の学部の受験対策を調べる際に共通して検索される言葉の種類の多さ(例えば「対策」という言葉)、(5)上記の言葉の毎月の平均検索数、の5つである。
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では以下、その「結果」を紹介しよう。
ではまず、早稲田大学の学部ブランド序列から。最強学部は3つ。政治経済学部、法学部、社会科学部。
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注目すべきは、偏差値では底辺に位置する学部が、大学全体のブランディングに貢献するなど意外な結果となったことだ。これによって、偏差値や予備校のデータからは知り得ない意外な早稲田の強さが判明した。

早稲田大の看板学部といえば、偏差値で見れば政治経済、法、理工、文学部である。面白いのは、そこに社会科学部が並び、大学全体のブランドを牽引していることだ。
30歳代以上の人ならば、社学といえば、元・夜間学部だったこともあり、ブランド力は低いイメージがあるかもしれない。しかし2009年に昼間学部に変更になり、10年間でブランド力は上昇。現在は政経と並ぶブランド学部となった。
これら学部の検索語を調べると、過去問題などの入試対策目的の言葉が多く並び、第一志望者が多いことがわかる。世間の評判などで地位が変わりにくいポジションで、いわば“最強学部”といえる。
なお、同大内の地位は低めの教育学部であるが、“最強学部”のポジションに入りそうな勢いとなっていることにも注目されたい。社学とともに、近年急速に地位を上げた“大出世学部”になりそうだ。
一方で、意外な結果なのが、受験生の間でも人気が高い国際教養学部である。
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偏差値で見ると同大では上位に位置するものの、ブランド力では教育、商学部以下であり、中堅に甘んじている。
いわば、世間の評判によって、今後人気やブランドが左右される可能性があるポジションである。偏差値は高いが、ブランド学部にはまだ至っていない。

なお、偏差値では政経と並ぶ最難関の理工学部ではあるが、2007年に学部を3学部に分割されてから認知が下がっている。文学部も2007年の改組から同様のことがいえよう。
よって、早稲田の全体的なブランド力をさらに上げるためには、以下の大きく2つが必要であると考える。
●理工学部の総合力を打ち出す学部広報●国際教養学部、文学部と文化構想学部の違い(教育の内容など)のさらなる認知向上
慶應義塾大学の最強学部は6つ。医学部、理工学部、経済学部、文学部、商学部、法学部である。
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早稲田に比べて最強学部が多く、これが私学最強である源泉といえる。さらに伝統学部である6学部全てが“最強学部”となっている。

偏差値上ではよく経済と法学部が比較されるが、グーグルの検索データでは、経済学部が法学部を上回っている。
さらに、文学部への興味関心が近年増加しており、法学部や商学部を将来上回る勢いであることも注目されたい。
最強学部が早稲田に比べて多く、これが慶應の強さの源泉であるが、一方で、課題は早稲田より学部認知度で差が激しいことだ。
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まず、SFC(湘南藤沢キャンパス)の各学部のポジション低下が顕著であり、さらに認知が下がった場合、将来慶應義塾大全体のブランド力に影響が出ると予想できる。
また、早稲田大の教育学部のように、将来大学全体のブランド力を押し上げる可能性を秘めた学部が存在しない。

よって、慶應義塾大学の全体的なブランド力をさらに上げるためには、以下方法が必要であると考える。
●SFCと、薬学部の認知●上記の学部と伝統学部の差を縮める取り組み
早慶上智といわれ、早慶と並ぶ最難関私学ではあるが、早慶と比べた時、実は圧倒的な差が見られる。
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それは、世間の評判などで地位が変わりにくいポジションに位置する “最強学部”がないことである。
さらに深刻なのが、上智の看板学部とされる外国語学部や英文学科のある文学部の認知の低下であろう。

外国語学部や英文学科のある文学部の検索語を分析すると、早稲田大の国際教養、立教大学の異文化コミュニケーション、国際教養大、東京外国語大学などの影響が考えられる。これら大学の台頭により“語学の上智”の地位の低下傾向が見られる。
また、外国語学部への国内の興味関心が薄い一方で、近年国際教養や総合グローバル学部のポジションは上昇している。そのため、検索者は外国語学部や文学部との違いに迷っている可能性も高い。
よって、上智大学の全体的なブランド力をさらに上げるためには、以下の方法が必要であると考える。
●外国語学部と文学部、国際教養と総合グローバル学部の違いを明確に打ち出す●早稲田大などのライバル大学との違い、強みの積極的なアピール
近年、早慶上智に明治大学を含めた“早慶上明”という言葉が一部で使われるほど、明治大学の人気が上昇している。その強さは何か。
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大きな理由の一つが、早慶上智、MARCH(明治大、立教大、中央大、法政大)にない農学部が看板として君臨し、さらに比較的創設が新しい情報コミュニケーション学部が、時代の波に乗って注目を集めていることである。

同大と偏差値で比べた時、上智大学に軍配があがるものの、学部など大学の注目度でいえば、明治大学の方に勢いがあり、将来的に一部の学部で逆転もありうるだろう。
よって、明治大学の全体的なブランド力をさらに上げるためには、以下の方法が必要であると考える。
●早稲田、上智、立教などの国際系学部との違い(特色など)を全面に押し出す●2013年に新設された総合数理のブランディング強化を行う
このように、インターネットのビッグデータは、これまで使われてきた偏差値などとは全く違う、新しい情報を与えてくれる可能性を秘めている。ゆえに、こうしたデータを積極的に大学経営に活かしていくことが求められる時代に入ってきているといえるだろう。
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