戦車はなぜ集団戦が基本? 運用単位「小隊」「中隊」の意味と戦場での実際のところ

実際の戦場では、戦車の単独戦闘は自殺行為といえます。これを「小隊」や「中隊」単位で運用しますが、それぞれどの程度の規模なのでしょうか。また、戦車中隊だからといって戦車だけで戦闘に入るのが無謀なのはなぜでしょうか。
映画や創作物において戦車は、敵の砲弾をはじき、戦車砲や機関銃を四方八方にバラ撒いて、単独で動き回る自走砲台のイメージで描かれることがあります。しかし実際には、戦車もチーム運用が基本です。なぜなら戦車は、自ら発する音やその目立つ姿から、逆に大きな的になり、見つかればすぐやられてしまうからです。それでは戦車の運用は、どのようにするのでしょう。
富士総合火力演習で行進射撃を行う90式戦車。実戦でこのような戦い方をすると敵の集中砲火をくらう(2012年8月、柘植優介撮影)。
そもそも軍隊は集団組織です。たとえば「軍団」、これは「師団」と呼ばれる約1万人規模の部隊や、「旅団」と呼ばれる約3000人から6000人規模の部隊が複数集まって編成される戦闘単位です。この「師団」や「旅団」というのも複数の部隊からなる戦闘単位で、細かく分けていけば「連隊」や「大隊」となり、「中隊」、さらには「小隊」と細分化することが可能です。
この「小隊」や「中隊」の規模は、国や陸海空の各軍によっても異なるため一概にはいえませんが、たとえば他国での歩兵に相当する陸上自衛隊の普通科部隊を例にとると、小隊は約30人、中隊は約150人から200人規模の部隊です。

陸上自衛隊員は最低ふたりいれば部隊を組みます。2人から4人程度で編成されるのが「組」というチームです。それが複数集まれば「班」や「分隊」となり、「班」や「分隊」が複数集まれば「小隊」、そして「小隊」が複数集まれば「中隊」と大きくなっていきます。
では、複数人で動かす戦車はどういう編成をとるのでしょう。2019年現在、陸上自衛隊は74式、90式、10式という3種類の戦車を運用しています。74式戦車は乗員4人ですが、90式と10式戦車は乗員3人です。この乗員4人ないし3人で「組」や「班」を組むかというと、そうではなく、戦車の場合は戦車単位で、何両か集まって部隊となります。
戦車の場合は4両で「小隊」を組み、これが部隊単位の基本となります。小隊よりも小さな戦闘単位として、小隊4両を分割し2両からなる「班」というものもありますが、これはあくまでも戦闘時に小隊をふたつのチームにわけるためのもので、基本は小隊で行動します。
富士総合火力演習で小隊集中射撃を行う90式戦車(2011年8月、柘植優介撮影)。
4両1個小隊というのが原則で、これが3つ集まると中隊になります。これに中隊長が乗る戦車、すなわち中隊長車が加わり、1個戦車中隊は13両で編成されます。中隊長車は、中隊長が進撃しながら指揮をとる戦車という意味合いのほかに、中隊の予備車という位置付けも兼ねています。予備車があれば、故障や戦闘喪失にも現場で対応可能です。ちなみに中隊になると、拠点となる中隊本部に装甲車やトラックなども配備されています。

この中隊が複数集まると戦車大隊や戦車連隊となります。ただし、戦車大隊や戦車連隊ともなると、戦車や装甲車以外にも救急車やブルドーザー、レッカー車など支援用の車両も編成に入るため、装備の種類は一気に広がります。
なお、陸上自衛隊の場合、戦車大隊が複数集まって戦車連隊になるわけではありません。両者は指揮下にある戦車中隊の数の違いで、部隊規模が異なるだけです。2019年現在では、2から3個戦車中隊を持つのが戦車大隊、5個戦車中隊で編成されるのが戦車連隊です。ちなみに冷戦直後の1990年代半ばには、北海道の戦車大隊で約100両の戦車を集中運用した例もありましたが、これはあくまで特例です。
しかし、これだけ大量に戦車があるからといっても、戦車だけで敵陣に向かっていけば、これまた格好の的になります。戦車は一見すると強そうですが、実はハッチを閉めてしまうと、小さな小窓からしか外界を見ることができず、視野は非常に狭くなります。そのため、まとまった数で攻めても、戦車だけだと地雷や落とし穴(対戦車壕)などの障害物に阻まれたり、見えないところから対戦車砲やミサイルで集中砲火を浴びたりして一気にやられるリスクがあります。
木陰の中をゆっくりと前進する74式戦車。後ろには協同行動をとる普通科部隊の軽装甲機動車が続いている(画像:陸上自衛隊)。
戦車よりも戦場の周囲が見渡せて、小回りが利くのはやはり歩兵(普通科隊員)です。歩兵は戦車に比べれば敵弾に対して脆弱ですが、戦車のように目立つことなく静かに進撃することが可能です。

戦車と歩兵が協同行動をとり、お互いに短所を補いながら戦うのはそのためです。歩兵が先回りして、敵の状況を戦車に報告することもあれば、戦車とともに進み、戦車が討ち漏らした敵を歩兵が掃討していくこともあります。
一方で、歩兵としては、戦車はエンジン音やシルエットで遠方からでも目立つため、敵弾を集めてしまうことから、近くにいてほしくないという声が上がることもあります。
繰り返しますが、戦車はエンジン音や走行音、大きな図体などで実際は目立つため、実戦では戦車は歩兵と同じように物陰に隠れ、歩兵部隊などと集団行動をとります。戦車といえど、目立つような派手な動き方は自殺行為につながるのです。