CASEは「独自部分だけでも、クルマ1台分の開発費がかかってます」 マツダ藤原副社長インタビュー(1)

マツダの戦略が分岐点にさしかかっている。第2四半期決算の厳しい数字。第7世代の話題の中心でもあるラージプラットフォームの延期。今マツダに何が起きていて、それをマツダがどう捉え、どう対応していくつもりなのか? その全てを知る藤原清志副社長がマツダの今を語る。そのインタビューを可能な限りノーカット、かつ連続でお届けしよう。

池田 まず、最初に今回お聞きしたいことについて、全体の流れを説明しますね。もちろん、お話はいろいろなとこに飛ぶと思うんですが、昨今の状況に、藤原さんも多分言いたいことがたくさんあるんだろうなと思っています。今、ネットを見るとマツダは値段を上げすぎて失敗したといわれているじゃないですか。これは存分に語っていただきたいと。

藤原 (笑)

池田 実は決算結果にざっと目を通してまして、「構成(売れた車種の単価)」のところはすごくいい感じでいっていて、構造改革のステージ2はちょっと遅れたけれどこれ大成功。商品の売上は倍増ですよね?

藤原 そうでしょう?(笑)。みんな書いてくれませんけどね(笑)。

池田 それでも結果が悪いのは、表を見れば一目瞭然、為替で全部やられているわけじゃないですか。で、為替対策としては、たぶん海外工場の稼働が入ってくるので、そこのあたり、まあ2021年に稼働するアラバマ工場が動くと、例えば今回みたいな為替のときにどの程度回避できるのか。それから、このところマツダは北米市場に力を入れてきていますよね? そうすると、第2四半期決算で発表された「ラージプラットフォームの遅れ」の話はとても大きな問題だと思うのです。なのでこのあたりももう少ししっかりお伺いしたいと。

藤原 分かりました。

池田 ということで、まずは、マツダは価格は上げすぎて失敗したと世間で随分言われちゃってますが、どうなんでしょう?

藤原 本当に価格上がってます?(笑)。上がっているのは上がっているんですよね。決算発表のときも言いましたけど、基本的にCASEの対応で絶対みんな(価格が)上がる時代に来ていると思っているんです。コネクティビティ、先進安全技術、それから電動化。こんなことを考えると、必ずベース(価格)が上がる。もう多分どの会社も、これから出てくる新車は、全部それを入れてしまったら上がるというふうに思っているんですね。そこをどう見るかで、それを見ずにして高い高いと言ってるというのが、あるんじゃないかと思ってます。他社で見ても、最低限20万円、ひどいもので40万円も上がっている。それは彼らもコネクティビティを入れているし、先進安全技術などを入れているし。ああやっていくと、どうしてもベースは上がらざるを得ない。

お客様にCASEの値上がり分をどう納得していただくかということです
池田 もう避けられない時代の要請ということですね?

藤原 なんですが、そういう状態でお客さまにその価格分の価値をどう納得していただくかということです。CASEだけで、20万はとても納得していただけないので、そこで我々が何をするかというと、静粛性であったりオーディオだったり、インテリアの質感だったり。この3点は、そのCASEの20万円分商品を良くして、体感しやすい領域で納得していただくためにやってきたんですね。それによって「やっぱりこのぐ

らいするよね。中身で納得できるよね」と思っていただけるようにしたかったというのが本来の狙いなので、価格が上がったと言われると、あなたの比較は何年のどのクルマなんですかと。

池田 今、クルマを普通に買う人って40代、50代あたり、あるいは60代も入るかもしれませんね。その人たちは、もしかしたら新車で100万円の感覚が残っちゃってるんですよね。

藤原 だと思います。

池田 赤いファミリアが100万円で買えたとき。今は軽自動車でも100万じゃ、なかなか厳しいですよね。

藤原 買えないですからね。ちょろちょろっといろいろなものを付けていって、200万超えたりするようなことが平気であるじゃないですか。そういう意味では、皆さんの中にある価格の物差しが、相当ずれ始めているんじゃないかなと思うんですけど。

池田 それを書いちゃって大丈夫ですかね。

藤原 いや、わかりません(笑)。

一同(笑)

池田 広報的にはどうなんですか、ここは? ストップかけないと書いちゃいますからね。藤原さんは、いつも大体いろいろ言っちゃう人なんで、私のほうでも真意が誤解されないようにブレーキはかけますが、マツダとしてまずい場合は、それは広報がちゃんと止めてください。

広報 了解しました。

藤原 すいません、いつも言いすぎる。

池田 (笑)。さて、価格感のズレみたいな話は当然あると思いますし、CASEって今すごく多様なものを一気に開発しなきゃならない状態になっていて、研究開発費がどうしても増えるわけですよね? そのあたりは、設備投資も含めて増えていく感じなんですか。

藤原 私の感覚で言うと、今までの自動車開発の人たちとは異なる人たちと、異なる開発をしなくちゃいけないんですよ。なので、適正な開発投資がいくらで、どのくらい人員を配置するのが正しいのか、そこを把握しかねている状態です。

池田 今までの自動車を作る人たちの所帯の外側に、さらに新しい種類の人たちが加わって、その適正コストがまだやってみないと分からない。

前のマツダコネクトで大変失敗しましたので
藤原 だけど、やらなくちゃいけないので、例えば今回のマツダコネクト2なんていうのは、前のマツダコネクトで大変失敗しましたので。

池田 (笑)

藤原 あれはあれでやっていてよかったなと思うのは、やらなくちゃならないことを相当理解したんですね。ソフトウェアの中がもうスパゲティ状態になっているやつを、1つずつ解いていくという、きれいにしていく活動もやってきたので。

池田 あれ、どっか変わったところで作りましたよね? 東欧のどこでしたっけ。

藤原 あの当時、一緒に開発してくれる人がいなかったんですよ。13年に出したもんですから、10年、9年くらいから始めたんですけど、「コネクティビティを一緒にやってください」って言っても、誰もこういう未来になると思っていないので、助けてくれる人がいなかったんです。当時の感覚としてはそれをやるっていうことは、ナビゲーションだとかその他の領域のアフターマーケット需要を自分でなくすことでもあるんですよね。

で、唯一引き受けてくれたのが北米の会社で、実際作るのがハンガリー。そういう状態だったんです。そこも最終的には買収買収でM&Aがあって、ビステオンになっちゃうわけですけどね。そのときにすごく勉強したので、今回はちゃんとやろうと。油断して掛かると後で大変なことが起きるので、しっかりとしたCPUの容量も持たなくちゃいけないしっていうんで、いろいろなことを検討した結果、今のマツダコネクト2は、トヨタさんと一緒にやらしてくださいということでお願いして、電気自動車や電気系の方も入っていただいて。やってみると、実は80数パーセントはトヨタさんのシステムと一緒なんですよ。共通なんですね。で、残り十何パーセントは、GUIとかその他のグラフィックとかにはブランドと関わる部分もあるので。

池田 今の80数パーセント一緒のところ書いていいんですか?

藤原 いや、どうかな。これは多分言ってないからね。多分カットでしょうね。あ、言ったか。言ったな。中計(中期経営計画)で言っちゃったよ、俺(笑)。

池田 じゃあ。

独自部分だけでも、クルマ1台分の開発費がかかってます
藤原 言っても大丈夫(笑)。なのでユニークにしたところは残り十数パーセントだけなんですけど、この十数パーセントでさえ、実は1つのクルマのモデルが作れるほどの投資がかかってます。

池田 クルマの開発費並み!? うーん、もうどんどん膨大になってるわけですね。

藤原 なおかつ、人員も弊社の一開発本部並みです。だから、もうあのマツダコネクト2をやるだけで、相当な開発投資と相当な人とが掛かっていて、モノ自体のコストも高いわけですね。

池田 しかも予算の予想ができない。

藤原 分からないんですよ。昔の失敗があるので、こんなもんじゃ済まないよなと思いながらやってみると、やっぱりさらに(コストが)上がっていって、ここまでかかるのかみたいな。今までやったことがない職種の人たちとの仕事で、違う業界とのつながりなんです。コネクティビティの通信一つ取っても全く知らない世界なんですよね。

池田 今回、トヨタと同じDCM(Data Communication Module:車載通信端末)も使うっていうこともありますもんね。

藤原 そういういろいろなことを含めて、ものすごい不明瞭な道を歩みながら、でもやらなくちゃいけなかった。で、これだけかかったと。なおかつ、これはバックエンドがいるわけですね。サーバがいて、ビッグデータの解析も必要。だから、本社側のIT系への投資、つまり先ほどおっしゃった設備投資もまた大きく増えるんです。

池田 コネクティビティの領域は、もっと統合して5社連合にしちゃったほうがいいかもしれませんね。もう基礎的な部分は全部トヨタアライアンス全体で割り勘にする方向。

藤原 トヨタさんとも今は2社でやらしていただいて、このあと誰かが入ってくるらしいんですけど、まあ、そうなっていくでしょう。

池田 どこかは言えないでしょうけどね、さすがにね(笑)。

藤原 言えないです(笑)。入ってくるでしょうけど、だけど、こういうとここそ、トヨタさんという大きな方々との連携がすごく重要になってくるんです。それにしてもマツダブランドとして避けられないユニークな領域だけは、どうしても変えざるを得ない。というとこだけでもものすごいお金がかかるのです。

池田 それは想像をはるかに上回っていました。

藤原 じゃあ、これをいかに効率的にするかって、次のステップにもう入っていかなきゃいけない。ですから、今まで「ハードウェアの物作り革新」ってやってきたけど、次はこういう異業種の方々とのやり方を変えていかないといけない。今もう次の世代に向けては、この領域をモデルベースでやるにはどうしたらいいかっていって動いてますけどね。

自力でやらないとメガサプライヤーに牛耳られるわけじゃないですか
池田 とはいえ、マツダの中にその領域のスペシャリストは多くないですよね?

藤原 だから、今、電動化もあって、電動化もインバータだいっていると、もうみんな頭パニックですからね(笑)。基本的に所帯がちっちゃいせいで、今までは丸投げですから。電動化といった途端に、電池だとかインバータだとかが重要になってきます。もう異業種の世界ですよ。そこの知識や知財を持ってるメンバーって少ないですから。だから、何か1つ作ると、もうそこに人材が張り付いてしまって、次の何かを作ろうと思うと、こいつが終わらない限りできませんみたいな。メカニカルな領域のエンジニアはたくさんいるんですけど。

池田 ちなみに、CASEって、Connected(つながる)、Autonomous(自律走行)、Shared(共有)、Electric(電動化)の4つありますね。シェアは直接関係ないでしょうけど、一番工数がかかるのは、やっぱりコネクティッドなんですか?

藤原 今はコネクティッドですね、一番感じているのは。もちろん、Autonomousにつながっていく先進安全や運転支援のところも、センサーだカメラだ、あのへんをどういうふうにコントロールするかっていうと非常に大変なんですけど、あれはまだクルマを動かす方向に近いので、それに近いエンジニアはたくさんいるんです。けれど、コネクティッドだけは想定を超えてますね。

池田 限りなく電気の部分ですからね。

藤原 そうです。

池田 最終的にメカトロニクスみたいに機械に信号が入って、機械を制御する話だったら、信号さえ出てきてくれれば、あとは分かるけれども。

藤原 まだそこに近い人間はいるんです。例えば電動パワステでやってきたやつとか、ABS(アンチロックブレーキ)とかDSC(ダイナミックスタビリティコントロールシステム)をやっていたりする連中は専門が近いですから、そっちのほうにいけるんです。あとは、カメラの画像処理のところは、ちょっと難しいとこはあるかもしれませんけど。領域によって、われわれの会社の中でもピースがところどころ抜けているんですよね。でも、これを全部丸投げしちゃうと、もう何もできなくなるので、とりあえず理解をしないといけない(笑)。

池田 必ずしも現時点の効率だけでは考えるわけにはいかないと。中長期で見たときに、例えば自動運転が本当に自動車メーカーにとってキーに、生命線になってきたときに、それを全部外部でやってたら、内部に何も残っていないと。

藤原 残ってない。そうするともうメガサプライヤーに牛耳られるわけじゃないですか。何にもできなくなるわけですから。ですから、できる限り分割して、メガサプライヤーじゃなくて別々のサプライヤーに外注して、統合してつなげるところは自分たちでやっておかないと。そうしないと、もうメガサプライヤーに、「ああ、そんなこと言ったらやめるよ」って言われた途端に白旗を掲げることになっちゃいます(笑)。

オールジャパンでちゃんとつながっとかないとやばいよ
池田 これでも、みんな100年に一度って言いますけど、実態の本当の大変さはここで初めて説明されたんじゃないですか。

藤原 え?(笑)。

池田 多分誰も説明していないですよ、そこ。もちろん決算のときも、CASEの対応は大変なんですということはおっしゃってましたが、どう大変なのか誰も分かってなかったと多分思うんですよ。

藤原 分かってないと思います。今回はしかもそれが同時に来ているじゃないですか。今までだと環境規制があって、衝突安全があってと、割と順番に来るようなところがあったんですね。大きな波が1個ずつ来てくれたんですけど、今回は違う。これが本当に大変なところだと思うんです。これをメガサプライヤーに全部投げて、おまえらフルで任せるからやってと言うのもやり方なんですけど、やったら多分、のちのちボディブローで効いてくるんで。

池田 しかも時代の先も読んでいかなきゃいけなくて、それこそ5G通信が本格化したときなど。しかも本物の5Gって、だいぶ先らしいじゃないですか、まだ。それこそインフラ側に何十メーターおきにアンテナがないと、実際に作動できないとかっていう領域らしいので、その領域に入っていくときのことを考えると、今の時点で出遅れてしまうと、そのときに急に参入しようといってもできないですよね。

藤原 そう。それも知っておかないといけないじゃないですか。それを任してしまうと、ずっとその相手におんぶに抱っこになるんですよ。もし彼らが間違ったら、もう全部間違ってしまう。だから、ものすごい怖いことになる。ただ、メガサプライヤーから見ればチャンスなんですよね。全部トータルでできますよって持っていくと(笑)。

池田 分からないですけど、デンソーならまだいいけれども、ボッシュとかに任せた日には……。

藤原 ノーコメントで(笑)。

池田 それは私が勝手に言ってるだけですから。

藤原 だからこそ章男さん(トヨタ自動車社長豊田章男氏)が言われているように、オールジャパンでちゃんとつながっとかないとやばいよ、ということは感じております。そういう意味では、今のマツダコネクト2も、トヨタさんとやらしていただいているのは非常にありがたいですし、実は16年ぐらいから、もう実は2人ほどトヨタに出向させたりしています。

池田 これはじゃあアライアンスを策定した時点では、もうこうなるだろうという予測が完全にあったわけですね。

藤原 はい。アライアンスといったら商品の協業をやっていないとおかしいとか言われるんですけど、われわれは、それよりもコネクティビティをどうしましょうかとか、EVどうしましょうかとか、基盤のところをちゃんとやっておかないとダメだというのがあるので、他の業種の方々とは違う協業なんですよ(笑)。

明日のその2へ続く

(池田直渡)