2019年11月22日、大阪の老舗百貨店・大丸梅田店5階に女性向けアダルトグッズ「iroha(イロハ)」の常設店がオープンした。女性向けのアダルトグッズがデパートに常設されるのは日本初である。
これまで3度のポップアップストアの反響が大きかったことから、この度の常設が決まったというが、老舗百貨店でアダルトグッズが販売されるという前代未聞の出来事は、どのような経緯で生まれたのか。
そして、ネットショップではなく、わざわざ店舗まで出向いてアダルトグッズを購入する女性はいるのか? いるとしたらそれは一体どのような女性で、何を求めているのか?
実際に足を運んで現場の声を聞いてみたら、意外な答えが見つかった。
売り場ではirohaスタッフの女性が接客を担当。明るい雰囲気でカウンセリングを行う
ところで、ラブホテルでいちばん売れているアダルトグッズは、ローターである。
これは、女性心理を考えると非常に納得。
「バイブを敵視する男性もいますからね(笑)」とiroha広報の本井はるさんが言うように、女性の膣内に挿入するバイブレーターは、形状もさながら高機能ゆえ、うっかり女性が感じようものなら「俺のよりもこっちがいいのか……」と男性が落胆してしまうのではないかと案じている女性は多いもの。
アダルトグッズに興味はあるが、男性の自尊心を傷つけてまで冒険はしたくない……。
加えて、元々アダルトグッズは”男性が視覚的に興奮するため”に作られてきたという背景がある。
バイブレーターを手にした男性は、自分自身ではできないような激しい動きをバイブに託そうと乱暴に挿入したり、かき回したりしがちである。しかしそれでは女性は痛いだけで官能には程遠い。バイブで女性を感じさせようと思ったら、実はなかなかハードルは高いのだが、それを男性に伝えられる女性は少ないのが現状だ。
中イキではなく外の方がイキやすいという女性も多い。結果、ラブホテルで彼に「どっちが良い?」と聞かれたら、女性はジレンマの結果、ローターを選ぶという平和的解決手段を取っているのだ。
「iroha」はアダルトグッズメーカーであるTENGA初の女性向けセルフプレジャーブランドとして2013年にスタート。和モダンをデザインコンセプトにし、企画から開発、広報まで全て女性スタッフチームが行なっている。
バラエティショップや一部のコスメショップなどでも販売されているが、やはり人目が気になるのか全体的な売上の8割はオンラインショップによるものだという。
写真は通販人気No.1の「イロハスティック」という名のローター。値段も1200円(税抜き)と比較的安価で挑戦しやすい
ECサイトに力を入れる企業も多い中、なぜ今、あえてデパートという実店舗でアダルトグッズを売ることになったのか。iroha広報の本井さんはこう話す。
「デパートへの出店は大丸さんからお声掛けいただきました。そこには大丸梅田店の男性スタッフ二人の熱い想いがありました。お二人は離婚やセックスレスのお悩みを多く聞くこともあり、そういったことをもっとオープンに話せる場所があっても良いのではないかと考えていたそうです。
パートナーとの愛を深めるためのコンテンツのひとつとして『iroha』を販売したいとのオファーを受け、1回目のポップアップストア開設となりました。周りからはネガティブな反応も多かったそうですが、最終的には経営陣からの後押しがあり、通常1週間の期間限定ストアを2週間に延長しての開催となりました」
「セルフプレジャー」と聞くと、つい「ひとりで行う密かな悦楽」を連想してしまうが、来場者にはカップルも多く、40代、50代、なかには70代の夫婦もいらしたという。
2018年8月、2018年11月、2019年5月と開設されたポップアップストアは回を重ねるごとにリピーターが増えた。ひとりのお客様に対して平均15分ほどの接客時間が功を奏してか、毎回ごとに相談内容も深いものになっていく。
皆、心の奥に、誰にも言えない小さな隙間を抱えて生きている。それを吐き出せる場所が、ここにあった。潜在的な需要があるのではないかと踏んだ大丸梅田スタッフの先見の目はお見事である。
第1回目のポップアップストアには、2週間で1500人の来場者があり、当初の売上目標の3倍である400万円を達成した。WEBメディアはもちろん、新聞やテレビでも取り上げられたことから、幅広い層への周知があった。
店舗内にはirohaセレクトのライブラリーもあり、誰でも2週間無料で本を借りることができる
元々、デパートのメイン顧客層は40代、50代、60代以上と高めである。それもあってか、これまでの売り上げ実績としては40代の女性がいちばん多い。セックスレスや性交痛、濡れにくい、といった悩みを抱える年代である。
売り上げ低迷、存続の危機と叫ばれる百貨店業界であるが、これは相性の良い思わぬ金脈と言えるのではないか。性的なことも含めて、ヘルスケアである。
こういった反響の高さを受け、大丸梅田店は今回、5階に女性向けの新フロア「michikake(ミチカケ)」を開設。「iroha」以外にも、センスの良いルームウエアやランジェリー、コスメのほか、女性特有の悩みにも応える商品としてサプリ、漢方、生理用品なども扱う。
今回の常設店では、意外なことにバイブ系、しかも1万円近い高額商品「iroha FITみなもづき」が売り上げNo.1だという。「やはり、実際に手に取って、質感や大きさを確認できることが購入に繋がっていると感じます」(店舗スタッフ・佐々木さん)
売上No.1のバイブ。充電式で繰り返し使用可能。中身が見えない専用ケースに入れたまま充電できる
売上No.2は「iroha RIN+(うめひすい)」というバイブで、先端には柔らかい玉飾りが付いている。
「奥まで挿入すると全体に振動が行き渡って気持ち良さそう」という女性客に「私は入り口あたりをこするようにするのが好きです」と明るく自身の感想を交えながら接客するスタッフの笑顔が印象に残った。「中イキに憧れているんです」という女性の相談も寄せられるという。
実際に手に取り質感を確かめられるのも実店舗の強み。スタッフのアドバイスで安心して購入できる
和モダンがテーマの明るく落ち着きある店内では、さりげないパーテーションで人目を気にせず製品を手に取ることができる。和菓子屋さんと間違えて入ってくるお客様もいるそうだ。
それでも正面から入りにくい人のために、店舗横の通路にあるお手洗いに行く途中に「暖簾をくぐるようにヒョイっと入れるよう」(iroha広報・本井さん)勝手口のような小さな入り口を設けている。こういった細かな心配りも、女性スタッフならではだ。
女性向けのフロアでありながら、カップルが2割、男性客も訪れるという大丸梅田の「iroha」常設店。
男性2人で来て彼女へのプレゼントを選ぶケースもあるようで、「20代30代の爽やかなカップルが思いのほか多く、おしゃれな感じ」(iroha広報・本井さん)「ポップアップストアに70代のご夫妻がいらしたときは、二人で一緒に使うんだとおっしゃっていて仲睦まじい様子に思わずほっこりしました」(iroha広報・犬飼さん)ということからもわかるように、女性だけに限定しているわけではない。
一般社団法人「Lean In Tokyo」の調査によると、男性が生きづらさを感じることについて、20~30代で最も多かったのは「デートで男性がお金を多く負担したり女性をリードしたりすべきだという風潮」であった。セックスにおけるリードにも、男性はプレッシャーを感じているのではないだろうか。
実際に売り場に足を運んでみて見えてきたのは、パートナーがいてもいなくても、「もっと気持ちよくなりたい」「セックスで一緒に気持ちよくなりたい」という素直な気持ち。セックスレスに対して「男性、女性、どちらかの問題」と決めつけて逃げるのではなく「共有するべき大切なこと」と捉えている男女が多い、ということがわかった。
そこには、アダルトグッズを使って、自分自身の寂しさを慰める女性はひとりもいなかった。
最後に、ポップアップストア時代から店舗スタッフを務める佐々木さんに、印象に残っているお客様のエピソードを聞いてみた。
「80代のおばあちゃんがいらっしゃって、子供の頃、机の角が気持ちよくてひとりでしていたが罪悪感があった。結婚した夫に先立たれ、この年になって初めて、周りの友達とセルフプレジャーに関して話すことがあった。そこで初めて皆もひとりでしていることを知り(自分もしてもいいんだ)と思えた。それでお店に来てくれたと言うんです」
常設店には、ふらっと立ち寄れる気安さがある。幅広い年齢層が訪れるデパートに常設となった「iroha」が贈る、性に対しての明るいポジティブなメッセージが今後どのように広がっていくのか。注目していきたい。