人生100年時代の到来 「30年ぶり現場復帰」の美容師が活躍する急成長美容院

店舗数が多く、競争も激しい美容院業界。各店がしのぎを削る一方で、業界を取り巻く課題として挙げられるのが、資格を保有しつつも美容師として従業をしていない「休眠美容師」の存在だ。

美容院業界は、指名客の奪い合いや売り上げのノルマ、また終業後に開かれる勉強会といったさまざまな要因により、労働環境が厳しい業界とされる。やや古いデータにはなるが、厚生労働省の資料によると2013年度末時点で美容師免許の登録者数はおよそ124万人。理容師美容師試験研修センターが発表している「過去の試験実施状況」を見ると、美容師国家試験は毎年1万8000人~2万人規模で合格者が出ているため、現在では合格者数を足し上げていくと、18年度までで130万人超が美容師免許を保有していると考えられる。

一方、美容師として従業している人の数は、厚生労働省発表の「平成30年度衛生行政報告例」によれば、2018年度末時点で全国に53万人ほど存在している。つまり、80万人超の人が、美容師免許を持っていながら美容師以外の仕事をしていることになる。

こうした休眠美容師を活用し、売り上げ拡大につなげているのが「チョキペタ」だ。同店は、美容室大手のアルテサロンホールディングス(横浜市)のグループ会社であるC&P(横浜市)が運営する美容室。11年の創業以来、9年連続で店舗数と売り上げが拡大しており、売り上げにいたっては100倍近い成長を見せている。

(参考記事:口コミ・チラシで集客する「おしゃれ過ぎない」美容院 驚きの立地戦略で売り上げ爆増中)

C&Pの置塩圭太社長によると、チョキペタで働いている美容師の半数以上が休眠美容師だという。現場から離れた期間が長く、再び美容師として働き始めることに不安を感じる休眠美容師も多そうだが、チョキペタではどのような支援を行っているのだろうか。

カットとカラーを分業
まず、チョキペタではカットとカラー、そしてクレンリネスの3チームで分業制を敷いている。休眠美容師には「ワンストップで施術を行うことには不安があるが、どちらか一方であればできる」という人が多いためだ。他にも、オートシャンプー機を導入したり、一部メニューでは希望するお客に対してヘアドライヤーをセルフ化したりと、業務を小分けにしつつ、効率化を進めて負担感を軽減している。

業務時間についても配慮をしている。休眠美容師となるきっかけには出産や結婚が多く、デザイン系の美容院にありがちな長時間労働では十分に活躍できない。そのため、時間単位で就業できるパートタイマーとしての採用を多く行っている。デザイン系美容院が長時間労働となってしまう背景には、営業終了後の「勉強会」があるが、チョキペタでは行っていない。

だからといって技術面をおろそかにしているわけではない。その分、希望者に対して月2回ほどの講習を実施。給料自体は発生しないが、交通費を支給し、少しでも通いやすくなるように工夫している。置塩社長が「休眠美容師の方に、いち早く“勘”を取り戻してもらうことが重要」と話すように、研修制度を充実させている。動画を活用した研修制度も構築し、コンテンツを160ほど用意している。しかも、その多くが本部が用意したものではなく、現場主導で作成されたものだというから驚きだ。チョキペタでは「現場主義」を重視している。それぞれの現場も「多くの人が似たような理由で休眠美容師となり、境遇や年齢も似ていることから雰囲気がいい」と置塩社長は話す。

また、休眠美容師の採用に積極的だからといって、美容師免許の有無だけで採用をしているわけではない。年齢や経験こそ不問として募集しているが、カットの経験が浅い人やブランクが長い人が応募してきた際には、カットのテストを実施する。改善が必要であれば、カット講習への参加などを経て技術を身に付けた後、スタイリストとしてデビューする。その間はカラーのみを行う。逆に、カラーリストを希望していてもシャンプーやカラーの技術が心配な人であれば、採用試験でこれらの技術をチェックする。

30年以上を経て現場復帰した休眠美容師も
チョキペタユーコープ白根店で働く浦田なお美さんは、30年以上を経て復帰した休眠美容師の1人だ。

浦田さんが美容師免許を取得したのは20歳になる少し前。結婚するまでの数年間を美容院で働いていたというが、結婚を機に退職。長時間労働や、今でいう「パワハラ」などの過酷な環境が1つのきっかけにもなったという。その後、介護の仕事や飲食業を経て、数年前からチョキペタでカラーリストとして復帰した。

年齢や技術は不問としているところや、入社後の講習が充実している点、さらには勤務体系の柔軟性などに魅力を感じて応募を決めたという。美容師として最初に働いていた一般的な美容院とチョキペタとの違いを「終わる時間がきっちりしているところ」と話す。「一般的な美容院では、お客さまが来れば来るほど、閉店時間に関係なく対応して働く時間も長くなってしまう。チョキペタでは、カラーを午後5時まで、カットを午後6時までと時間を決めているので、遅くても午後7時には終わる」(浦田さん)。

復帰する中で困ったこともあったという。「講習を受けて自信が付いたと思っていたが、いざ現場に立ってみると緊張して手が震えてしまうこともあった」と浦田さんは話す。特にお客との会話は、いくらオリエンテーションで教えられても実際に立ってみると戸惑うこともあったという。ただ、徐々にコツをつかんでいった。同僚やお客に同じような年齢層の人も多いことから、「今では少しずうずうしいくらいかも」と笑う。「人生100年時代ともいわれているし、まだまだ数年は頑張りたい」と話す浦田さん。カットの講習を受けながら、今後はより技術に磨きをかけていきたいという。

美容師だけでなく、スキルはあるが労働条件が合致せず働くことを断念している人は数多くいるはずだ。人生はいよいよ「100年時代」ともいわれ、企業はこうした“眠る”人材を活用していくことが求められている。