愛知県内の児童相談所が、事実上、3人の子どもを養育していた叔父と叔母に対して「接見禁止命令」を出した。命令書によると、児童福祉法に基づくもの。身体的虐待、性的虐待、精神的虐待の疑いがあるとしている。また、子どもが通っている小学校に電話をするなどで安全が脅かされたとしている。
一方、叔父や叔母は虐待を否定する。虐待の根拠については、児相には「根拠を示す義務はない」と言われたという。このため、叔父・叔母は、児相の保護のあり方に疑問を感じている。ただ、「子どもたちが自由に生きて欲しい」。話を聞くことができた叔父のAさんは、そう願っている。
ボーイスカウトを「虐待ではないか」と言う児童福祉司
なぜ、Aさん夫妻が子どもたちを養育してきたのかというと、四国地方に住む叔母の弟夫婦による養育が困難になっていたためだという。実父は他の女性と家を出て、失踪をした。
一方、実母はネグレクト(育児放棄)しており、一時期は祖父母が3人の面倒を見ていた。2010年6月からは、Aさん夫妻のもとで3人の子どもが暮らすことになった。ただし、養子縁組などをしておらず、監護権もない。
養育を始めた頃、長男が小2。長女は幼稚園の年長、次女は年少だった。長男は学校から「精神的に幼い」と言われ、教室で駄々をこねることもあった。そのため、長女とともに児相でのカウンセリングを受けたこともある。児相は養育の経過から虐待を疑ったのか、身体検査を入念にしていたという。
「どちらかというと、身体検査がメインで、カウンセリングはおまけ程度だった」(Aさん)
長男はボーイスカウトに入っていたが、児相の児童福祉司から「なんでそんなところに!」「虐待ではないか」と言われたという。Aさんは「ボーイスカウトですよ? 何を言っているんだろう?」と思ったという。
11月になって、次女は英語のコミュニケーションを重視した幼稚園に入園する準備に取り掛かった。翌2011年4月から転園が決まっていた。しかし、転園1ヶ月前の身体検査で「頭に痣がある」とのことで、次女は児相へ連れて行かれた。
2日後、叔母の母親と実母が児相へ行ったが、痣があるのか確認ができなかったという。しかも児童福祉司が指摘する箇所と、虐待のアセスメントシートに記入されている場所が違っていた。痣の写真もなく、1ヶ月の一時保護の後、次女は実家へ帰ることになった。
「頭の痣は思い当たることがあります。(身体検査の)数日前、防災イベントで地震体験に行ったのですが、そのときに、ヘルメットがなかったんです。子どもと一緒に体験していたときに、子どもが頭をぶつけました。このことは動画にも撮っていましたが、児相は見ようともしませんでした」(Aさん)
祖父が亡くなり、家を売って…
保護の判断が妥当だったのか。Aさん夫妻は行政不服審査を請求した。しかし、このとき、「一時保護」が「解除」されていた。そのため「争点がなくなった」として、審査は結審する。ただ、祖父は次女が児相に保護されたことへの怒りもあってか、脳梗塞で倒れ、亡くなった。
「義父(=子どもにとっては祖父)は児相にクレームを入れようとしていました。しかし、いつもなら起きている時間に起きてきませんでした。そのため、救急車を呼びました。病院に搬送されましたが、数時間で亡くなったんです。葬儀が行われましたが、なぜか、このとき、失踪していた実父が参列していました。誰も連絡をしてないはずなのに……」(Aさん)
その後、祖母は家を売った。祖母と実父、実母の3人が一緒に住むことになるが、2013年1月、四国から愛知県内に引っ越してきた。しかも、Aさん夫妻が住む公営住宅に同居するようになった。年収制限などがあるため、住むことができず、結局、戸建に引っ越した。ただ、この時点で働いているのはAさんだけで生活は苦しい。
「実母と実父は就職活動をしたが、見つかりませんでした。しかも、祖母や実母、実父もそれぞれ生活費などを支払う約束でしたが、支払われることはなかったんです」(Aさん)
ハイリスク認定され、好奇の目にさらされる日々
結局、実父は近くのアパートを借りた。実母は、他の男性と恋仲になり、子ども3人を置いて、失踪する。3人の子の親権は、形式上、祖母が持つ。ただ、生活面のトラブルやしつけ面で対立があったため、祖母は四国へ引っ越した。
次女が小3になった2015年。学校内の学童保育に通っているとき、管理者が「ホッペに傷がある」として児相に通告。次女は一時保護された。
この1週間前、学校の担任から傷について「虫にさされたところをずっとかいていた」と説明を受けた。管理者は「通報しなければいけない」と言っていたが、担任の説明を児相に伝えると、一時保護は解除された。虐待の疑いがあれば、児相への通告が義務であるが、少し調べればわかることではないか。
「長男が小学生になったときに、学校の事情を知りたいと、PTAの役員にもなりました。学童保育の管理者も、うちの状況を知っているはずです。しかし、いつしか、児相にハイリスク認定され、好奇の目で見られていたのかもしれません」
一時保護通知書には「虐待の疑いがある」
同年の夏休み。長男は中1になっていたが、学校内で問題行動を起こす。学校の昼休みに無断で音楽を流したり、ありもしない噂話を広めた。そのため、学校から連絡が入った。その後、担任と連絡帳を交換することになる。長男は「学校の指導が気に入らない」と、近くの交番に「助けて」と逃げ込み、児相に一時保護をされた。
「児相から『警察から連絡があった』と、話がありました。長男は、妹が一時保護を受けていたので、楽園かと思っていたようです。でも、テレビは見られないし、毎日、作文を書かなければならない。長男は『児相はいやだ。帰りたい』と言っていたようです。結局、夏休みの終わりには戻ってきました。ただ、このとき、『(子どもを)早く返せ』とは言っていないんです。親権者じゃないので」
翌年。次女が小4になった。このとき、近所に強盗が入ったため、警察は緊急配備をかけていた。学校は「子どもを引き取りに来るように」とする一斉メールを配信した。3人の子どもを迎えに行く。ただ、授業が早く終わったため、宿題が出ていた。
宿題を見ていると、次女がいつの間にかいなくなっていた。警察官や担任も自宅に来たが、深夜11時30分ごろ、児相から「保護しています」と連絡が入った。「理由は言えない」と。あとから、児相から一時保護通知書が届く。虐待の疑いがあるというのだ。
「妻(=子どもにとっては叔母)が子どもの面会に行くと、次女は『宿題が多かったので、逃げ出した』と言ったそうです。学校に行くと校門が閉まっていた。そこで近所の女性に会い、女性は家に引き入れたが、周囲に警察官がおり、子どもを返せなくなったと。このとき、食事をさせたといいます。それまでも、女性は賞味期限切れの食べ物を子どもたちにたべさせたことがあったんです」
なぜか、こうした流れの中で、「虐待の疑い」となっていた。しばらくすると、長男は施設から戻っていた。10月ごろ、祖母が「気分転換」と称して、愛知県にやってきた。ただ、四国へ戻るとき、長男を連れ帰った。叔母が気付き、祖母に電話をすると、「今は新幹線の中」と言った。親権者は祖母。法律上はどうしようもない。
2017年6月。次女も祖母に引き取られた。児相とのやりとりの結果だった。しかし、次女は、Aさんや叔母に連絡を取ってきた。「服がない」「食べ物がない」「買い物にやらされるが、遠いし、自転車もない」などと電話してきた。
警察に「誘拐された」と通報する祖母
夏休みになり、Aさん夫妻は、四国へ長男と次女に会いに行った。次女は「一緒に住みたい」と言い、愛知県に連れて帰ろうとした。そのとき、祖母が警察に電話。「誘拐された」と通報した。結局、次女は四国に戻った。そんな中、長男は、実父が九州にいることを知り、会いに行ったきり帰ってこない。
「義母(=子どもにとっては祖母)の情報ですと、実父の家には子どもが4人いたという。そのため、食事を出してもらえない。継母からは性的な目で見られているので怖いと言っていた、と言います。このことを愛知県内の児相に伝えたんですが、濁しています。介入がないのでしょう」
9月になってから、Aさんは児相の児童福祉司との面談で、「長女に関しては、養育実績があるので、親権を取りましょう。その上で、次女の親権をとりましょう」と助言された。しかし、翌10月、児童福祉司から「長女を一時保護します」と連絡が入った。「性的虐待の通告がある」とのことだった。
誰が通告をしたのかは目星がついた。祖母ではないかとのことだった。しかし、児相は「とにかく調査します」との一点張り。児相へ行くが、「担当者がいない」と面会できず。その後、児童福祉司は顔を合わせなくなった。話を聞いている人はメモも取らない。2018年3月からは、次女とも連絡を取れなくなった。
子どもが自由な生き方をできるように
取材をしていると、児相との関係が悪くなるケースを耳にする。虐待の疑いがあれば、一時保護したり、施設入所が検討されてもいい。しかし、両親が育てる意思が希薄で、親権者である祖母と事実上の養育者であるAさん夫妻の関係も良好ではない。子どもの取り合いになり、その手段として「虐待通報」が利用されているようにも見える。
Aさんたちはツイッターで同様の経験をした人と繋がった。子どもたちの居場所がわかり、所在確認をしたところ、2019年7月、児相から「接見禁止命令」が出された。
「子どもがどこにいるのかは確認することができました。そして、どこから情報が流れているのかを確認するため、所在確認をしたことを妻から義母に流しました。そのあとに児相から連絡があったんです。虐待通報しているのは、きっと義母です。不当な一時保護だとは思いますが、弁護士も降りたため、審査請求をしたり、情報開示請求しても無理だと思います。しかし、子どもが選んだ生き方ならいいです。子どもには自由な生き方をしてほしいです」
(渋井 哲也)