残り3週間!「消費増税で日本沈没」を防ぐ仰天の経済政策がこれだ 「増税しない」が最善手ではあったが…

9月11日の内閣改造は、かなり大幅なものになるようだ。麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官を除く17閣僚が交代する見通しとなっている。
政権はその布陣で秋の臨時国会に臨むことになるが、10月からの10%への消費増税が控える中、本コラムでも再三指摘している通り、国際経済は不安定要因ばかりだ。(1)米中貿易戦争、(2)イギリスのEU離脱、(3)日韓関係の悪化、(4)ホルムズ海峡の緊張など目白押しだ。
秋の臨時国会では、当然景気対策のための補正予算が作られるだろう。安倍首相は、消費増税を掲げた今年の参院選後、万全の景気対策を行うと表明した。消費増税分を吐き出してでも、景気を悪化させないということだろう。
こうした国際経済環境の悪化はずっと前から読めていたので、「増税分を使って景気対策する」くらいなら消費増税自体をやめるべきだったが、政治家の心中は複雑だ。
安倍首相は、盟友である麻生氏の顔にこれ以上泥を塗らないために、消費増税を政治的判断で決めた。と同時に、景気悪化をさせないために、増税分を吐き出す覚悟で経済対策を行う。政治と経済の使い分けという芸当だ。

筆者は、政治家がとるこうした「常人には理解しがたい行動」についても想定していたので、消費増税への経済対策として理論的に最も優れているのは、「10%への消費増税と同時に全品目を8%軽減税率の対象とすること」だと、かなり前の国会意見陳述から申し上げてきた。これなら、消費増税をしたい増税勢力、軽減税率を導入したい公明党、景気の悪化を避けたい一般人のいずれも満足させることができる。
もっとも、これは冗談としか受け取られないので、実現可能性は少ない。ただし、消費増税対策としての経済政策を考える際には、このような考え方がベースになるはずだ。
先立つものは財源だ。消費増税分から吐き出すことも可能だが、教育無償化などへの影響を避けつつ景気悪化を避けるためには、別の何らかの財源をひねり出す必要がある。
一番簡単なのが国債費の減額である。2、3兆円の財源なら簡単にひねり出せる。
そのからくりはこうだ。
国債費は、財務省(理財局)が財務省(主計局)に対して概算要求を行う。来年度の国債費要求額24兆9746億円は、本年度予算額23兆5082億円より1兆4664億円多い。その内訳は、債務償還費16兆1112億円、利子及割引料8兆8259億円、国債事務取扱費375億円である。
まず債務償還費は、減債基金への予算繰入だ。減債基金とは、国債を漸次償還し、その残高を減らすために積み立てる基金とされている。そのため、国債残高の1・6%をこの予算に繰り入れると法律で決められている。
ただし、民間会社の社債発行で、減債基金という話は聞かない。減債基金の積立のために、さらに借金をするのはおかしいというのは、誰でもわかる話だ。民間の社債では、借り換えをして余裕が出たときに償還するというのが一般的だ。これは海外の国債でも同じである。海外の先進国では、かつては国債の減債基金が存在していたが、今ではなくなっている。
なので、債務償還費はナシでもまったく困らないが、時代錯誤の法律があり、その改正が必要なので、おそらく減額・廃止されることはないだろう。
なお余談であるが、日本の大学の財政学のテキストには、国債の減債基金の制度やその重要性が説明されている。ただ、海外では制度自体が存在しないということは言及されない。もし学生にその点を質問されたら、大学教員は説明に困るだろう。
財政学の教員はほぼ例外なく財務省のポチであるので、「減債基金は必要なのだ」と、国際的に非常識なことを教えているのではないかと筆者は思っている。

次に、利子及割引料。日本の債務残高は1000兆円といわれるが、利子及割引料はその0・8%に相当する。そもそも国債金利はそんなに高かったのか。過去に発行した国債の利払いも必要なので、過去10年間の10年国債金利を調べると、平均で0・5%。このことから考えると、せいぜい利子及割引料は5兆円程度あれば十分だ。
それなのに、なぜ9兆円弱も予算を積んでいるのか。それは、例年秋の臨時国会で補正予算が作られるときのための財源を、本予算に盛り込んでいるせいだ。こうすることで、当初の国債発行額も水ぶくれとなり、財政危機を煽る財務省にとっては一石二鳥なのである。
筆者が現役官僚の時は、査定すべき財務省(主計局)は要求する財務省(理財局)に対し、概算要求を水増しするように言ってきていた。同じ財務省内ならではの馴れ合い話だ。
せいぜい5兆円くらいしか利子及割引料は使われないので、3兆円程度減額しても問題ない。それが補正予算での財源になる。
さらに今年は、これらとはまったく違う財源がある。それは、異様なマイナス金利環境だ。
国債金利は期間ごとにあり、その変化をイールドカーブ(期間別の金利)というが、推移を見てみよう。
8月末時点で、1年▲0.268%、2年▲0.307%、3年▲0.326%、4年▲0.353%、5年▲0.362%、6年▲0.378%、7年▲0.385%、8年▲0.383%。 9年▲0.333%、10年▲0.275%、15年▲0.095、20年0.05。
8月末時点のイールドカーブを過去5年間とると、下図のようになる。
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2015年以前、5年ごとで各期間の金利を平均したものを掲げている。1990年代前半、1990年代後半、2000年代前半、2000年代後半、2010年代前半のイールドカーブだ。
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これらをみると、現在のマイナス金利が珍しい状態であることがわかる。
なお、先進国G7と直近時点でも比較してみると以下のとおりだ。
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もっとも、今は先進国でも日本と欧州はマイナス金利が常態化している。日本と欧州はマイナス金利であるとともに、長期金利のほうが短期金利より低いという「逆イールド」になっている。
一般論として、長期金利は将来の短期金利の積み合わせになっている。逆イールドは将来の短期金利が現在より低いと予想されるために起こる。低金利は経済活動が盛んでないことを意味するので、不況の前触れという連想になる。国際経済情勢の先行き不安は、逆イールドになる要因だ。

長期金利のマイナスそれ自体は、金融機関の経営にとっては、利ざやが取れず悪影響を及ぼす。
金融機関は、預金で集めたカネを貸出や有価証券で運用して利ざやを稼ぐのが基本だ。一般的に、運用の金利は同じ期間の預金金利に信用スプレッドを加えたものだ。また、預金の期間は運用の期間より短い。このため金融機関の利ざやは、信用スプレッドと長短スプレッドから構成されている。
これまで、日本の金融機関は、信用スプレッドよりも長短スプレッドに依存して利ざやを稼いできた。信用リスク管理をさほど厳格にしないですんだのは、逆イールドの期間がそれほど多くなかったからだ。
その場合、運用金利がマイナスになると、順イールドでも金融機関は利ざやがとれなくなる。というのは、預金のマイナス金利は、預金者が損をするということになるので、まずありえないからだ。
マイナス金利に逆イールドが加わっている現在の状況は、金融機関にとっては最悪ともいえる。しかし、実態経済にとっては、金利負担なしで長期資金が借りられるので、設備投資の絶好のチャンスだ。実際、不動産投資や住宅投資はかなり良好である。
また政府は、この機会にインフラ整備をどんどん行ったほうがいい。長期金利がマイナスということは、金利コストがゼロなので、費用対効果さえ算定すれば、ほぼすべてのインフラ投資が正当化できることを意味する。
東日本大震災以降、日本列島で地震が活発化しているという意見もある。そのリスクに備え、震災被害を事前に最小化するために、将来投資が必要だ。
この将来投資は物的資産が残るので、建設国債になる。建設国債は赤字国債ではないので、そもそも借金問題を気にする必要はなく、必要であればどんどん発行したらいい。国債市場はマイナス金利なので、よほど酷い公共事業でなければ採算があり、将来投資には良好である。
南海トラフ地震や首都直下地震は確実にやってくるので、今の時期に防災対策投資を行うべきだ。
さらに、インフラ整備に限定せず教育、研究開発や国防などについても、政府は国債をもっと多く発行し、将来投資の観点から積極的に行うべきである。
これらは通常時でも考え得る普通の政策であるが、マイナス金利環境をさらに生かそうと思えば、次のような仰天施策もある。
「金利がゼロになるまで無制限に国債を発行し、何も事業をしない」というだけでもいいのだ。
例えば、10年国債金利は▲0・3%程度だ。これは、100兆円発行すると、年間金利負担なしで、しかも103兆円の収入があることを意味する。マイナス金利というのは、毎年金利を払うのではなく「もらえる」わけで、0.3%の10年分の3兆円を発行者の国は「もらえる」のだ。
ここで、「100兆円を国庫に入れて使わず、3兆円だけ使う」とすればいい。もちろん、国債を発行すれば若干金利も高くなり、このような「錬金術」が永遠に続けられるわけではないが、少なくとも金利がゼロになるまで、国としてコストゼロ、リスクゼロで財源作りができる。

この施策が面白いのは、これまで財務省が国債を「悪いもの」として扱ってきたのと発想が真逆なことだ。
既にマイナス金利が顕在化していた今年2月、NHKニュースは財務省のポチらしく「国の借金1100兆円超」と報道し、「政府は新年度予算案で、国債を32兆6000億円余り、新たに発行することにしていて、財政健全化の道のりは険しさを増しています」と国債発行を戒めている(https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/14051.html)。財務省の言うとおりに報じるNHKらしい。
もっとも財務省でも2016年頃までは、財政赤字の弊害として、クラウディングアウト(民間資金締め出し)論から金利上昇の可能性を主張していたが、さすがに現在ではそうした記述を落としている。
財務省がゼロ金利までの無制限国債発行を行うと、日銀が今やっている金融政策とも相乗効果が出てくる。
日銀は、イールドカーブコントロールといい、長期金利がゼロになるように国債買入を行っている。ただし最近の日銀の国債購入は、異次元緩和が始まった当初の年間80兆円ベースから、30兆円ベースまで落ち込んでいる。これは、市場の国債が品不足であるからだ。このため、金融緩和圧力は高くない。
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ここで、財務省がゼロ金利まで国債無制限発行に乗り出せば、日銀の金融緩和効果はさらに高められる。しかも、得た財源で景気対策を行えば、まさに財政・金融一体政策となり、目先の消費増税ショックを回避できる可能性も出てくる。しかも、金利正常化で金融機関支援にもなる。
逆にいえば、こうした「美味しい」金利環境を財務省が見過ごし、金利ゼロまでの無制限国債発行を行わないとすれば、それは彼らが増税しか頭にない「無能官庁」であることの証明といえる。