◆辞任後、雲隠れを続ける菅原一秀前経産相
10月25日の辞任以降、国会を欠席し雲隠れを続ける菅原一秀前経産相。連日何をしているのかと地元有権者の間でも話題になっていたが、ついにその動向が明らかとなった。
菅原はある月刊誌に掲載された記事のコピーを持って地元の後援者の自宅を訪ね、自身の正当性を説明して回っているというのだ。菅原を擁護する内容が書かれたその記事は「経産相辞任の陰に小池都知事 内部告発者の元秘書は都民ファースト陣営」と題されたものだ。
大臣辞任以降、一般の有権者の前に全く姿を見せていない菅原。30年近く地元で続けてきたという”毎朝7時”からの駅頭活動も行っておらず、例年必ず現れていた11月の練馬での酉の市にも姿を見せなかった。「毎日更新」とオフィシャルサイトに掲げているFACEBOOKの他、Twitter、ブログの更新も10月31日で止まったままだ。
そのため、動向について様々な憶測を呼んでいた。
◆支援者回りの日々
支援者のもとを回っているとの情報は得ていた。そこで筆者とジャーナリストの藤倉善郎氏は菅原の動きを追った。
元秘書・柴田幸子練馬区議が11月5日に大泉で行った区政報告会、そこに菅原が極秘登場するのではないかと現地取材を行ったが代議士は現れなかった。
〈参照:菅原一秀元経産相の元公設秘書、柴田さちこ・練馬区議の集会でなぜか取材妨害の大暴れ|HBOL〉
同月17日には、菅原の妹分と目されている小川けいこ練馬区議が練馬駅併設のココネリホールで区政報告パーティを開いたが、菅原は姿を見せず、政策秘書が代理で挨拶していた。
そんな折、最新の目撃情報によって、菅原の動向が判明した。
◆「出る杭は打たれる」弁明に陰謀論?
練馬区内での菅原の動きについてある情報がもたらされた。菅原は後援者の自宅を回って会員制月刊誌ベルダ11月号(11月1日発売)の記事「経産相辞任の陰に小池都知事 内部告発者の元秘書は都民ファースト陣営」のコピーを配り、経産相辞任に至ったのはある意図を持った元秘書たちの策動によるものだったなどと弁明しているというのだ。
筆者は後援者が菅原から受け取ったという当該記事のコピーを入手した。
記事は「告発の動機は正義感ばかりではない」「出る杭は打たれる」と前置きし、菅原が経産相辞任に追い込まれた直接の原因となった公設秘書による香典渡しについて「大手紙の政治部デスク」のコメントとして「前の日に秘書が香典を渡していたことを知らずに、最初から自分で葬儀に行って渡す予定だったと解釈できる」などと擁護、「菅原大臣の指示ではなかったことになる」「ミスはミスだけれども、致命傷とまではちょっと言えない。秘書への教育が足りないという批判はできたとしても、公選法違反だから大臣を辞めろとまで迫るのはなかなか厳しかったはずです」と責任を公設第一秘書のH氏に押し付ける菅原のスタンスに同調する内容だ。
それだけはない。「現秘書にも内部告発者?」との中見出しがつけられ、菅原の「元私設秘書」に、菅原を告発した元秘書2人が「2人とも菅原事務所を退所した後、都民ファーストと縁が深くなっていましてね」と都民ファーストの会の関係者であることを指摘させ「練馬区は、小池百合子都知事が衆議院議員時代の選挙区を一部含んでいて小池色がとても強い。一方、現在の練馬区長は石原慎太郎元都知事の側近だった過去があり、都議会のドンと呼ばれた内田茂元都議とも親しい関係です」「現在の練馬区は小池都知事の対決姿勢が最も鮮明に出ている地域」「2人の元秘書にとって、いかなる形であれ自民党の菅原大臣に傷を負わせることが自軍のポイントにつながっているのです」と”背景”なるものを語らせている。
菅原の辞任劇は元秘書で現在都民ファーストの会の陣営にいる人物たちの思惑によるものというのが記事の骨子だ。
◆記事の内容は、エビデンスに欠けた飛ばし記事レベル
思い起こすのは「7人の侍」事件。2016年の都知事選で自民党東京都連の方針に従わず小池百合子を支援した練馬と豊島の区議計7人が党を除名された。この時の練馬区議の一人は現在都民ファーストの会の都議会議員として活動しており、自民党都連会長代行で練馬の自民党区議を取りまとめていた菅原にとって因縁浅からぬ関係にあることは事実だ。また菅原の元秘書の一人も現在、都民ファーストの会に所属し練馬区議会議員となっている。だがこれらを以って元秘書らが菅原の追い落としを狙ったと匂わせているベルダの記事内容に信憑性があるかと問われれば、その答えはノーと言わざるを得ない。
菅原と近しく石原慎太郎元都知事の側近だった現在の前川練馬区長や“都議会のドン”内田茂前都連幹事長・現都連最高顧問との絡みなども書かれてはいるが、どれも憶測やある意図をもって書かれた飛ばし記事といって差し支えないレベルのものだ。そもそもコメントをしたという「大手紙の政治部デスク」「元私設秘書」が実在するかも怪しい。
記事の末尾では現在の秘書の中にも内部告発者が隠れていることを匂わせている。この記事を真に受けたのか、現在菅原は公設第二秘書のK氏にも疑いの目を向けており、信用しているのは佐竹京子秘書と政策秘書の石黒輝彦秘書だけだという。
菅原にとって都合のよいストーリーで構成されたベルダの記事について事情通はこう語る。
「おそらく菅原氏が書かせたものでしょう。こんなマイナーな雑誌を普段から読んでいるとは思えないので」
ベルダの記事に使われている菅原の写真は経産大臣就任日の9月11日に経産省の会見室で撮影されたものだ。この日の会見は経産省の記者クラブである経産記者会に加盟していないメディアの取材が制限されていた。
〈参照:統一教会と関係の深い議員が多数入閣。その一人、菅原一秀の経産相抜擢に見る、「菅政権」への布石|HBOL〉
〈参照:「秘書給与ピンハネ」疑惑の菅原経産相会見、ジャーナリスト2名が「永劫に」出入禁止に|HBOL〉
ベルダなる月刊誌の記者が会見の取材をしていたとは思えず、ベルダに掲載された写真が通信社から購入したのであればその旨のクレジット表記があるはずだが……。
菅原に関しては大臣辞任直後、携帯電話の番号を知るメディア関係者に片っ端から電話をかけ、香典を持っていかせた秘書とのLINEのやり取りを開示、全責任を押し付けていたとの情報もある。
◆経産相辞任の翌日の日付で文書を郵送
さらに菅原が支援者に送っていた文書も入手した。経産相辞任の翌日付けで作成され、何故か「事務連絡」と印字されている。
「この度の経緯につきましては、おって皆様にきちんと説明申し上げたいと考えております」
文書にある「経緯」「説明」というのが、ベルダの記事のコピーを手渡しして行う弁明ということになる。
◆甘い後援者たち、見限る動きも
では菅原の弁明を聞いた後援者たちの反応は如何なるものだったか。意外なことに後援者の間では菅原に同情的な意見や擁護する声が多いという。それを裏付けるように11月下旬、練馬区内のある後援会幹部と菅原の話し合いが行われ、これまで後援会がなかった地区に新たな菅原後援会が立ち上げられることになった。
また、菅原の後援者が多い練馬の農協(JA)では「ジャーナリストから問い合わせがあったら一切口を塞げ」と箝口令が敷かれたとの情報もある。
ベルダの記事を配布し秘書に責任を転嫁、陰謀論を説いて回る菅原への後援者の甘い対応、それは菅原が有力後援者に贈っていた高級メロンに負けないほどの甘さだ。
ただし、年末の夜回りなどに秘書がミカン箱などを差し入れしていたと報じられた消防団の分団では菅原を見放す意見も多いという。
有権者買収を公然と行ってきた代議士との共存を続けることを選んだ後援者たち、練馬の民度が問われる事態だ。
◆政治資金パーティも延期、潜伏する代議士
菅原が毎年11月に行っていた新時代政経フォーラム主催の政治資金パーティも来春に延期された。自身の正当性の弁明に奔走する菅原は、ほとぼりが冷めるまで一般の有権者の前に現われることはないだろう。次の選挙、つまり保身のことしか頭にないこの前経産相に代議士としての資質を問う声が挙がりそうだ。
この件に関し、菅原の事務所に質問書を送信したが、回答は得られなかった。(文中一部敬称略)
<取材・文・撮影/鈴木エイト>
【鈴木エイト】
すずきえいと●やや日刊カルト新聞主筆・Twitter ID:@cult_and_fraud。滋賀県生まれ。日本大学卒業 2009年創刊のニュースサイト「やや日刊カルト新聞」で副代表~主筆を歴任。2011年よりジャーナリスト活動を始め「週刊朝日」「AERA」「東洋経済」「ダイヤモンド」に寄稿。宗教と政治というテーマのほかに宗教2世問題や反ワクチン問題を取材しトークイベントの主催も行う。共著に『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩選書)