「日本経済新聞ソウル特派員の男性が行方不明になり、警察が捜索に乗り出した」
韓国の公共放送局KBSなどが報じたのは、8月1日のこと。日経社員が話す。
「社内は大混乱に陥り、騒然となりました」
「Aさんは7月31日の午後2時半頃にソウル支局を出てから、連絡がつかなくなったのです。支局長はじめ数人に『仕事がつらい』などとメールを送っていたといい、同僚が地元警察に届け出ました」(在韓記者)
日経新聞東京本社
A記者はどんな記者か。
「企業報道部出身で、大人しく真面目なタイプ。最近では朴槿恵前大統領や徴用工関連などを担当していました」(日経記者)
失踪のきっかけは、その直前に書いたサムスン電子の決算記事だった。
「彼が記事を出稿したところ、東京で当番編集長をしていた国際部長が『書き直せ』と注文をつけてきた。彼が記事を修正すると、今度は部長の上のNE(ニュースエディター)が原稿に文句をつけてきたそうです。上司2人の主張が食い違っていて、『もうやってられない』と行方をくらましたのです」(同前)
失踪報道の後、本人が無事を知らせてきたそうだ。
「『安全だから探さないでください』『申し訳ない』と会社に電話をかけ、ソウル支局は捜索解除を求めた。だが、Aさんの携帯の電源は切られ、警察も所在をなかなか確認できず、自殺を試みたという情報もあった」(前出・在韓記者)
A記者は無事見つかり、現在日本で静養中とのこと。
「本人は退職の意思を示してるが、会社は慰留しているといいます」(前出・日経記者)
社内では、失踪の原因はパワハラだと見られている。
「50代の国際部長は04年にUFJグループと三菱東京FGの統合をスクープして新聞協会賞を取った敏腕記者。ただ、以前からパワハラ体質が有名で、酔って部下に電話をかけて『国際部の記者は全員クビだ』『これから戻ってこい』と言い放ったり、『お前は使えねえ』と詰められた記者もいました」(同前)
別の日経記者が続ける。
「国際部長はソウルに電話をして、『お前がやらなきゃ誰が取材するんだよ』とフロア中に響き渡る声で怒鳴っていました」
しかし、今回の失踪騒動で、国際部長は編集局長から“注意”されただけ。
「敏腕記者の経歴に傷がつくのを避けたからだと囁かれています」(同前)
国際部長の携帯に電話し、A記者失踪の原因はパワハラではないかと聞いたが、
「広報を通してください」と答え、取材拒否。
日経新聞広報室は、
「ソウル支局員と一時連絡が取れなくなったが、現在は無事が確認されています。社員のプライベートに関わる質問の回答は控えます」
と回答し、パワハラの有無については答えなかった。
東京本社の国際部長とソウル支局の特派員。日経社内の険悪な日韓関係も修復の兆しは見えないようだ。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年8月29日号)