昨今よく耳にする「ESG投資」。Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字からなり、これらへの取り組みを考慮して投資先の企業を選ぶという手法だ。しかし投資という観点から気になるのは、ESG投資は本当にもうかるのかという点。ESGへの取り組みは、なぜ企業価値を上げるのだろうか?
株価によって表される時価総額という意味での企業価値は、企業の利益を中心とした財務要素がベースとなる。いわゆる「ファンダメンタルズ」だ。ここに、社長の方針や画期的な新商品や研究成果などのさまざまな要素を加えて評価することで、最終的には市場で企業価値は決まってくる。
ESG投資的な手法は、「規範的な投資という意味では、戦前からあった手法」だと、三井住友DSアセットマネジメント株式運用第一部の森岡寛将部長は説明する。当時は投資のパフォーマンスとは関係なく取り組まれていたようだが、ここ数年で意味合いが変わってきた。
欧州では公的年金などを中心に早くから投資判断にESGを組み込み、社会的な重要性を意識してきた。2006年には、ESG投資に関する責任投資原則(PRI)を国連と共同で提唱。日本でも公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、15年にPRIに署名し、17年から、すべての資産でESG要素を意識した投資を進めると表明している。
ESGへの取り組みは売り上げや利益の上昇につながるのか
GPIFなどの年金基金がESG投資に取り組む理由の1つは、投資額が大きく、市場全体に幅広く分散して運用する点にある。そのため、「資本市場全体が持続的・安定的に成長することが重要。そして、資本市場は長期で見ると環境問題や社会問題の影響から逃れられないので、こうした問題が資本市場に与える負の影響を減らすことが、投資リターンを持続的に追求するうえでは不可欠」だと、GPIFは公式Webサイトに記している。
しかし、個々の企業においてESGへの取り組みが財務状況の改善につながるのかというと、「意見が分かれている」(森岡氏)というのが実情だ。つまり、企業がESGに取り組んだからといって、必ずしも売り上げが増加したり、利益の増加にはつながらない。
ではESGは企業価値の上昇につながらないのか? 森岡氏は、「ESGはビジネスの根幹。取り組むということは土台を強化するということである。企業価値のどこに影響するのかといえば、資本コストに影響する」と説明する。
企業価値の算出に大きく影響する資本コスト
企業価値の算出方法には各種あるが、その代表例がDCF法と呼ばれる方法だ。これは、企業が将来生み出す利益(キャッシュフロー)を合計して、企業価値とするもの。ただし、今年の100万円と来年の100万円では、金利分だけ価値が違うように、将来のキャッシュフローを割り引いて足し合わせる。
このときに使う割引率が資本コストだ。資本コストが大きいと、将来見込まれるキャッシュフローは過小に評価され、企業価値が小さくなることになる。たとえ将来の業績が同じでも、資本コストの大小が企業価値に影響するというわけだ。
これは企業側から見れば、出資した株主が事業にどのくらいのリターンを求めているかを指す。株主視点では、安定した事業ならば低い資本コストでも納得するし、不安定な事業ならば高い資本コストを要求する。定期預金なら低リターンでも預けるが、ベンチャー企業ならば高い利回りを要求すると考えると分かる。いわゆるリスクプレミアムだ。
森岡氏は、企業がESGに取り組むことで資本コスト、つまり割引率が低下すると話す。「割引率が低下するのは、業績が変わらなくても、不確実性がなくなるからだ」。ガバナンスなどへの取り組みから企業の情報公開の透明性が上がり、投資家に安心をもたらす。これが、ESGへの取り組みが企業価値に反映される一つのロジックだ。
ESG効果が現れてくるのはまだこれから
もしESGへの取り組みによって資本コストが低下するならば、似たような業績の企業でもESG評価の違いによって株価に影響が出るはずだ。しかし「理論的にはPER(株価収益率)に違いが出てくるはずだが、出てこない。現状だとESG評価の違いはボラティリティに出てくる」と森岡氏。
その理由として「現在ESGはまだ投資家に認知されていない。最近やっと認知されてきたところ」だと、森岡氏は推測する。今後、ESGの価値が投資家に浸透するに従い、資本コストの低下を介して企業価値に反映されていくだろうという見立てだ。
そのため三井住友DSでは、現状のESGスコアだけでなく、現在ESGへの取り組みが過小評価されている銘柄や、ESGの進展が期待される銘柄を選定し組み込む「三井住友・日本株式ESGファンド」を運用している。
ファンドの現状は、参考指数のTOPIX(配当込み)を上回って推移している。「直近は、(GPIFなど)需給の影響が大きいと思うが、徐々に(各投資家は)ESGの影響を受けだした。マーケットの評価に織り込まれつつある」(森岡氏)
ただしESG投資と一言でいっても、その評価方法は「各社各様で違う。コンセンサスも違う」(責任投資推進室の齊藤太上席推進役)状況だ。「業績予想はだれがやっても似通っているが、ESGは数値に表せない。各社各様のやり方がある」と齊藤氏。ESGへの取り組みが企業価値を上げるとしても、何がESG評価の本質なのかは難しいポイントだ。