AIで採用活動はどう変わる? セプテーニに聞く「HR Tech」の現在

昨今の日本における人事分野では、「HR Tech」が花盛りといわれています。HR Techとは、HR(Human Resources)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、クラウドや人工知能(AI)、ビッグデータ解析といったテクノロジーを駆使し、採用・育成・評価・配置など人事業務の効率化と質の向上を目指すサービス全般を指しています。

提供されているサービスの領域は、給与計算などの労務処理の効率化や、業務改善から採用管理、従業員情報の一元管理と分析によって戦略的な人材育成と配置を実現しようとするタレントマネジメントなど、多岐にわたります。おおまかにカテゴリーで分けると、

・「採用管理」求人・マッチング、オンボーディングなど

・「労務系管」社会保険手続き、勤怠管理、給与計算など

・「人材管理」人事評価、異動ローテーション、タレントマネジメントなど

・「社内コミュニケーション」情報共有ツール、SNSなど

・「人材育成・福利厚生管理」人材育成ツール、ラーニングシステム、組織開発など

といった具合に実にさまざまな分野で活用がなされています。

一方で、ある民間会社の調査では、大手人事担当者の8割以上がHR Techを知らないと回答しており、さらにHR Techを導入しているとした人事においても、活用している業務として「採用におけるエントリーシートの受付、内容確認」といったデータ処理・業務効率化にとどまっているというデータもあります。

上記のカテゴリーでは「採用」や「評価」に関するツールが最も多く提供されており、人事部門が今後利用・活用したいテックとしてもこれらの分野への関心が高いようです。この分野で先進的な取り組みをしているセプテーニ・ホールディングスを例に、どのような意図・背景によって、どのようにHR Techを活用しているのか、同社の採用企画部 採用企画課の斎藤氏と奥迫氏に聞きました。

―― セプテーニ・ホールディングスさんは、6000件の人事データを人材採用に生かしたAI型人事システムの取り組み(※注)で、一般社団法人日本能率協会の「KAIKA Award 2017」の特選紹介事例に選出されています。この採用活動について概要をお聞かせください。

斎藤 セプテーニグループでは独自の人材育成の考え方をベースに、一人一人の個性とその人を取り巻く環境の相性を定量化することに取り組んできました。そして、全ての取り組みの基本概念となっているのが「育成方程式」です。

これは「G=P×E(T+W)」で表され、GはGrowth(成長)、PはPersonality(個性)、EはEnvironment(環境)、TはTeam(チーム)、WはWork(仕事)を指しています。環境(E)が、チーム(T)と仕事(W)から構成されると定義し、その2つの要素と本人の個性(P)との相性によって、大きな成長(G)につながる可能性が高くなるというのが基本的な考え方です。

採用活動における取り組みとしては、上記の考え方を基にして、2009年から蓄積してきたデータを用いて「活躍予測モデル」を設計しました。活躍予測モデルの構築にはAIを活用した統計手法を用いています。応募者の「個性」「取り巻く環境」「行動」を中心とした情報、性格診断テスト・エントリー時のアンケート・経歴・選考プロセスにおける評価など、約100項目の情報を得ながら、応募者の入社後の活躍度を予測し、参考情報としながら選考の合否を判断しています。その手法を活用し、地方在住の学生向けに設けた選考ルートが「オンライン・リクルーティング」です。

―― 一般的な採用プロセスとはずいぶん異なった形になるのでしょうか。またオンライン・リクルーティングを進めることによって、採用に関してどのような成果・結果につながっているのでしょうか。

斎藤 自社独自の基準に基づいてアセスメントを行うため、まず応募者にとってみると、一般的な採用で必要とされている志望動機や自己PRの準備といった、いわゆる「就活対策」の多くが不要になります。

一方で、応募者には、経歴、過去の経験・行動履歴情報、所属コミュニティーに関する情報を入力して頂きます。その後、オンライン・リクルーティングでは選考の過程で周囲の人から他者評価(360度評価)を収集していただきます。そこで行動情報が得られるということになります。これらの情報を基に、入社後の活躍度を予測し、最終的には役員面接、人事面接を通じて、個性の理解と過去の環境・行動の確認を行いながら採用を決めるという流れです。

このように私たちの選考プロセスでは、活躍の判断に必要な情報を取得することを目的に設計しており、その目的以外にかかる工数は極力減らしています。そのため、採用担当が選考マネジメントに費やす時間は従来の選考の十分の一になりました。

オンライン・リクルーティングを開始し3年がたちましたが、地方学生のエントリー数は以前の4倍に、内定者における地方学生の割合も5割以上になり、非常に大きな成果が出ています。

―― オンライン・リクルーティングといっても、特に地方では知らない人たちも多いのではないでしょうか。

奥迫 もちろん、取り組みを始めたからといって自動的に広まるものではありません。特に、オンライン・リクルーティングを開始した2018年卒採用では、広報活動に力を入れる必要があったので、日本全国各地でセミナーを開催してこの取り組みの存在を広めていきました。

そういった地道な活動や、大学の先輩からの口コミなどの効果もあり、就職活動の前段階から当社の取り組みを知っていただいているという学生さんも多くなってきました。また当初、首都圏の学生と地方の学生では大きな情報格差や機会格差があるという印象が強かったですが、ここ数年で大きく変わったという実感もあります。例えば、社会全体のITリテラシーの高まりや、働き方やキャリアに関する多様性と意識の高まりなど、数年だけでも劇的な変化を感じています。

―― オンライン・リクルーティングと聞くと、人間が関与せずに機械的に採用の可否を判断していくというドライなイメージを持つ人もいるのかもしれませんが。

斎藤 当社の選考ではAIを活用した活躍予測は行っていますが、それを客観的な参考情報として、人が最終判断を行っています。また、確かに採用のプロセスマネジメント工数は劇的に減りましたが、効率化によって捻出された時間を、これまでよりも応募者に向き合う時間やコミュニケーションの機会に費やすことができるという好循環を生んでいます。

例えば、選考通過者には人事担当者から一人一人に「キャリアフィードバック」を行い、会社への理解を深めていただくとともに、AIを活用し算出した入社後のキャリア予測を参考情報としてお見せし、入社後のキャリアをイメージできるような機会を設けています。一方、不採用の方にも、不採用の通知のみで関係を絶つのではなく、個性に関する情報をフィードバックするなど今後のキャリアに役立つ情報を提供することを心掛けています。

―― そのフィードバックが決め手になって入社を決める人も多いのでは。

斎藤 そうですね。ただ、フィードバックは入社を促すために自社の良い部分ばかりを伝えているわけではありません。私たちは採用数をただ増やすために採用活動をしているのではなく、いかに採用のミスマッチを減らし、当社にとっての活躍人材を増やすのかを重視しています。

従って「キャリアフィードバック」も、入社してもらう材料としてではなく「活躍をイメージしてもらう」ということが重要だと考えています。その資料は100ページに及ぶこともあり、「ウチに入ったらこうなるよ、こうするよ」という説明を丁寧に行っています。また、入社後のキャリア予測を算出しているのですが、内定者ご自身のキャリア形成の方向性はさまざまですので、その方向性を当社で実現できるか、副業や社内起業の選択肢も含めてお伝えしています。

こうしたフィードバックによって、就職活動を始めた当初は当社にそこまで興味がなかったり、異なる業界を志望していた学生の方々でも、当社に入社を決めていただいた人もいます。そういう方々は、自分の個性を分かった上で配属や育成などの環境を決めてもらえるという「分かってもらっている」という感覚が決め手になっているように思います。

AIで効率化 最終的に判断するのは人間
―― テックあるいはAIの活用に関して、人事のスタンスというのは社内や人事の中でよく議論されるのでしょうか。

斎藤 これまでご説明したように、最終的に判断するのは「人間」であって、活躍予測モデルやデータはその判断材料であるというスタンスを強く持っています。また、AIの活用は応募者にとって有益なものでなければならないと考えていて、オンライン・リクルーティングやキャリアフィードバックもその一環です。

日本能率協会のKAIKA Awardsで取り上げていただいたように、採用の手法や採用の効率化という話にとどまらず、今後もAIを活用することで、より社会的意義のある採用活動に取り組んでいきたいと思っています。

今回のセプテーニ・ホールディングスのHR Tech活用例は、お伺いするほど人事のポリシーとスタンスが重要であることが分かりました。本来の目的とテックで扱う領域をしっかりと決めているので、逆に人の判断や意思決定の重要さが際立っています。また、候補者(あるいは従業員)と人事・組織との信頼促進ツールにもなっているという印象も持ちました。

HR Techという言葉から入ると、そのメソッドやツールそのものに目が向きがちです。確かに、人事の機能の中で大きな工数削減、効率化に寄与する可能性は高くなります。しかし、そのようなテックを導入すること自体が目的になり、かえって業務フローや手続きが煩雑になってしまったり、あるいはツールやアプリは存在しているものの活用されないままになっている、などはよく聞く失敗事例です。

そもそも人事分野において、評価や給与、昇進昇格、人材育成などは、単体で機能しているものではなく、相互に連動して運用され、機能しているものです。短期的な視点で、部分最適的な手段としてHR Techを導入して、失敗することのないよう、長期的・全体最適の視点から、本来の目的を明確にしたうえで導入することが重要でしょう。

著者紹介:一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所 山崎賢司(やまざき・けんじ)

大学卒業後、英国国立ウェールズ大学経営大学院 経営学修士課程MBA(日本語)修了。地方銀行を経て社団法人日本能率協会(JMA)入職。リーダー育成、経営者選抜育成等の教育研修のほか、企業の組織診断、風土改革、教育体系・人事制度構築など300社以上をサポート。現在は研修・講演会講師や各社の組織サポートとともに、個人の成長・組織活性化・組織の社会性をベースとした次世代の組織の在り方「KAIKA(開花・開化)」の普及・啓発を行っている。