【衝撃事件の核心】ネコ、カッパ…着ぐるみの選挙運動はどこまでOK?

7月の参院選で、着ぐるみ姿で投票を呼びかけた運動員に報酬を支払ったなどとして、大阪府警捜査2課が8月、公職選挙法違反(事後買収など)容疑で、名古屋市の広告代理店や人材派遣会社の社員ら8人を書類送検した。ゆるキャラ人気の中、マスコットキャラクターを用意して親しみやすさをアピールする政党や政治家は増加。SNSなどでの拡散を狙い、選挙運動にマスコットの着ぐるみを使う陣営もみられるようになったが、着ぐるみによる選挙運動はどこまで許されるのか。
7月中旬、大阪府松原市内の駅前で通行人らに握手を求める男性の傍らで、ネコ型の着ぐるみが子供たちと写真を撮っていた。男性は、参院選大阪選挙区に国民民主党から立候補し、落選したタレントのにしゃんた氏。着ぐるみは、同党大阪府連が制作したマスコット「にゃん太」だ。
府連によると、にしゃんた氏が出馬表明したのは1月。府連は3月ごろ、党勢拡大のため、広告代理店にマスコットキャラクターの制作を依頼。提案されたのがにしゃんた氏と似た名前で、同じ水色をイメージカラーとするにゃん太だった。
府連はにゃん太を5体準備し、参院選の公示前に党のPR役として起用。代理店側は着ぐるみに入る「中の人」の確保も請け負い、25人を用意した。府連は制作費など計数千万円を政治資金から支出したという。
報酬の有無が分かれ目
ここまではあくまで党勢拡大の活動で、選挙運動ではないというのが府連の説明だ。公示後も中の人を確保するよう広告代理店に依頼していたが、公示後は無報酬で運動するように伝えていたという。
大阪府選挙管理委員会によると、選挙運動での報酬は、選管に届け出た候補者陣営の事務員、車上運動員、手話通訳者といった運動員にのみ支払うことが可能。着ぐるみの中の人には認められていない。このための「公示後は無報酬で」という条件だった。
だが、代理店側は人を集めることができず、人材派遣会社が雇った女性らに計11万円の報酬を支払っていた。捜査関係者によると、代理店側は、「ボランティアだった」と言うよう女性らに口裏合わせも依頼していたという。
公示日以降、にゃん太はビラ配りなどはしなかったというが、にしゃんた氏と一緒に手を振り、通行人と握手するなどしていた。府警はこうした行為がにしゃんた氏への投票を呼びかける選挙運動にあたると判断。報酬を受け取る約束が買収にあたるとして書類送検した。
重要なのは政策論争
違法な報酬を支払い、着ぐるみで選挙運動をしたとして立件された今回の公選法違反事件。ただ、逆にいえば、ボランティアであれば、着ぐるみで投票を呼びかけること自体は基本的には問題ないということだ。
実際、着ぐるみなどのマスコットを使った選挙運動も増えてきている。平成27年の大阪市長選に立候補した元兵庫県加西市長の中川暢三(ちょうぞう)氏は、選挙戦で三毛猫の着ぐるみとともに活動した。「支援者が無償で着ぐるみで応援するというのでお願いした」(中川氏)が、着ぐるみの活動は一緒に歩いて手を振る程度にとどめ、自らの口で政策を訴えることに重点を置くように心がけたという。
今年8月の埼玉県知事選では、当選した大野元裕氏がカッパのキャラクターをビラやポスターに起用。しかし、県警から公選法で禁じられている「候補者のシンボルマークの表示」にあたる可能性があると指摘され、陣営はキャラクターの露出を減らした。
手探り状態な面も残るキャラクターを生かした選挙運動だが、今後も増えていく可能性は十分にある。
「若い有権者が投票を棄権する傾向にある中で、着ぐるみで興味や関心を持ってもらおうという努力自体は否定すべきではない」。選挙制度に詳しい杏林大の木暮健太郎准教授は指摘しつつ、こうくぎを刺した。「キャラクターも大事だが、政策そのものが選挙にとって最も重要であることは言うまでもない」