「an」終了にみるバイト求人の本当の課題 テクノロジーは人材広告業界の不透明性を解消できるか

日本最古のアルバイト求人情報サービス「an」が、2019年11月25日、52年の歴史に幕を閉じた。アルバイト市場は人手不足を背景に有効求人倍率の上昇が続いており、求人案件数自体も伸び続けているが、anは市場の変化に乗り切れなかった形だ。

リーマンショック以降、求職者のアルバイト探しは有料誌やフリーペーパーなどの紙媒体からWeb媒体へ移行し、今やほぼスマートフォン上に切り替わっている。

anは1967年に「日刊アルバイトニュース」として創刊後、近年はフリーペーパーとWeb媒体の2軸でサービスを提供していたが、Web中心に移行するユーザーのニーズに応えきれず業績が悪化。商品原価がかかる紙媒体の撤退を2017年まで続け、投資戦略を絞りきれなかった。

また、バイトルやindeedなどの新興ネットサービスが、紙媒体への掲載価格よりもはるかに安価なプランを展開したことで、求人広告掲載費用の単価は大幅に下落。anも市場の流れには逆らえず、掲載件数は伸びるものの、広告発注単価が下落し、営業一人当たりの生産性が伸び悩んだ点も大きな要因だ。

しかし、an終了の一方で、同じパーソルグループに属するパーソルプロセス&テクノロジーの社内カンパニーである「SEEDS COMPANY」では、スマートフォンに特化した業界初の採用支援ツール「x:eee(エクシー)」の提供を開始。アルバイト求人市場に新たな風穴を開けようとしている。

カンパニー長である陳シェン氏に、現在のアルバイト求人市場の課題や今後の展望について聞いた。

ドラゴンボールで日本語を勉強
―― サービスの話を伺う前に、陳さんの経歴が気になります。いつ日本にいらっしゃったのですか?

陳 上海生まれですが、1998年の小学5年生のときに両親の結婚の都合で日本に来ました。当時好きだったドラゴンボールを見て日本語を覚えたので、初めて覚えた言葉は「行けー!」でしたね(笑)。その後ずっと日本にいて、2009年にインテリジェンス(パーソルグループの前身)に入社しました。

―― なぜ人材ビジネスに興味を持ったのですか?

陳 正直、最初は働こうと思っていませんでした。当時「マジック・ザ・ギャザリング」というカードゲームのプロをやっていて、賞金や商品をもらって暮らせていたからです。だから就職活動も趣味みたいなもので、いろいろな企業を自由に見て、世の中をのぞける機会だと思って毎日企業を回っていました。

そのなかでインテリジェンスと出会って、人材領域のコンサルティングを知りました。独立して起業するとしても、経営や人材のコンサルティング能力を持っておくと、「自分の会社が病気になったときに治せるお医者さん」のようになれます。面接当時は「修行でもよければ勉強させてください」と言いましたし、今でも自分のスキルを高めるために大学に通っているような感覚です。

―― 入社後はどのようなお仕事を?

陳 2009年はインテリジェンス史上最高の採用人数だったのですが、リーマンショックが起きて、当時親会社だったUSENに全員出向になりました。最初はインターネット回線を個人宅に売る営業でしたね。

当時は平日夜に単身の住宅に営業に行くのがオーソドックスで、ファミリーの家はハードルが高くて誰も行っていませんでした。僕は幼いころから人と同じことをしないタイプだったので、誰も営業に行かないファミリーの住宅を回っていました。家に旦那さんがいる土日だけ働いて、平日の5日間は休んでいましたが、新卒社員のなかで営業成績が全国1位になったんです。その後も結果を出していたら、半年後USENから1人だけにインテリジェンスに戻ることになりました。

―― すごいですね。戻ったあとは何をされたんですか?

陳 それから2年間は大阪・梅田エリア一帯の企業の人材コンサルタントをやったのち、東京に異動して大手企業を担当しました。当時から感じていたのは、企業規模が大きくなるほど採用にかける予算はありますが、その一方で、街の小さな飲食店で人が採れなければ死活問題だということです。

営業回りでお店に顔を出すと、みなさん本当に困っていて、店長さんが寝ないでずっと働き続けていたりするんです。その状態ではその人の自由時間なんてほぼありません。その問題を解消してあげたいとずっと思っていました。かといって、自社や競合の営業を見ていても、みんな小さな店舗に構う余裕はなかなかないなとも感じていました。

―― 確かに営業が自分のノルマを達成するためには、予算のある大企業から受注したいとなりますよね。その後はどうされたんですか?

陳 東京で大手企業を1年半ほど担当し、2014年に企画開発に移ってアルバイト採用管理システムの「HITO-Manager(ヒトマネジャー)」のプロダクト責任者になりました。

ちょうどそのころからオウンドメディアが流行し始めたので、1カ月ほどSEOやWebマーケティングを勉強し、SEOの知識が詰まった採用ページを開発しました。他にもいろいろと施策を実施したら、1年後には導入者数が増え、黒字化してうまくいったんです。ただ、当時のヒトマネジャーのメイン機能は、採用後の効率化だったんです。しかし、現場が1番困っているのは、入口となる人材募集の段階です。ここをどうにかしたいという気持ちをずっと持っていました。

人材業界の採用プロセスを透明化したい
―― バイト求人のなかでは具体的にどんな課題があるのでしょうか。

陳 1つ目は人材業界の不透明性が高いということです。例えば、僕が採用担当者で、「人が辞めたので足りないけどどうすればいいんだ」とGoogleで検索しても、具体的な方法が分からないんです。

タウンワークなどの求人媒体に広告を出すのはオーソドックスな方法ですが、いざ出そうと思っても、どこに出したらいいのか分からない。出そうと思っても広告の価格が分からない。さらに、広告業界では“あるある”かもしれませんが、来る営業によって販売価格が変わってしまうんです。

―― 定価が決まっているなかで、そんなに変わってしまうのでしょうか?

陳 例えば、チェーン店などでよく聞くのが、駅の北口と南口にそれぞれ同じ店舗がありました。違う営業が2人来ました。同じ商品を売ります。定価10万円ですが、片方は5万円、片方は2万円で使っています……みたいなことがあるような業界です。この不透明性の部分も解決したいですし、すごく時間かかったり面倒くさい作業をやっていたりする現状もあるので、そこもITの力を使って、エクシーでもっと簡単にしていきたいなと感じています。

―― 人材広告業界の不透明性を解消するために、「人と違うことをやる」が哲学の陳さんがエクシーを生んだというわけですね。新サービスを形にするときの難しさはありましたか?

陳 人材業界は労働集約型で既存のビジネスモデルが50年間も続いている業界なので、いい反応とよくない反応が半々だと思っています。エクシー上ではいろいろな求人媒体に実際に発注できるのですが、他社の営業からしたらアカウントを取られたくないですよね。エクシーができたことで採用側は営業を呼ばなくてすむ一方、エクシー上であればいろいろな求人媒体に出稿する選択肢が生まれます。そのあたりを是とするかどうかだと思います。

―― エクシーのような仕組みが浸透したら、求人広告の営業そのものがいなくなる可能性がありますか?

陳 いなくなるというより、減るか、役割が変わると思っています。テクノロジーが進化したら、営業がやらなくてもいいことは絶対に出てきます。ただし、一方で企業の採用戦略を立てたり、人と関わる安心感だったり、システムやデータではできない部分もあります。そうしたスキルを持つ営業は残るでしょう。

―― 採用戦略となると、営業というよりコンサルに近くなるのでしょうか。

陳 はい、なので営業自身のレベルも上がると思います。僕も営業の経験を通してすごく限界を感じていました。顧客が抱える課題を本気で解決しようと思ったとき、自社のサービスだけだと解決しきれなかったりするので。

お風呂に入りながら求人活動
―― 現場で得た知見が生きているのですね。エクシーを立ち上げて、導入した企業からはどんな反響がありますか?

陳 顧客によく言われるのが、「本当に簡単に採用活動ができます」というものです。アンケートを取ると、募集を「移動中にできる」「お風呂に入りながらやっている」といろいろな声をいただきます。

―― 「来月辞めたいんですけど」ってアルバイトから急に電話がかかってきたら、お風呂に入りながらスマホでポチポチと募集を始められるという。

陳 また、採用Webサイトが作れるのも強みです。今までは1求人あたり1回広告を出すのに平均4万円ほどかかっていましたが、自社の採用サイトやオウンドメディアならもっと安価にできます。「店舗にポスターを貼る感覚でできて、応募が入ってくるのですごく助かる」と言っていただけます。

―― 採用サイトはエクシー側がプラットフォームを用意されていますよね。しかも、現在は無料で使えます。そこからの収益化はどのように考えているのでしょうか。

陳 求人媒体の版元と法人企業のツーサイドプラットフォームあるわけですが、どちらから収益を上げていくかは正直今は決めきれていません。いくつかのビジネスモデルの可能性がありますが、それぞれの一部に対してユーザー調査やテストをやっているので、それらを経て最終的に決めていきます。

―― エクシーは現場の問題を実際に目にしてきた陳さんだからこそできたサービスかもしれませんね。

陳 働く側はいろいろなものが整ってきて幸せになりつつあると思うのですが、雇い手側はなかなか考えられていません。小さなお店の採用担当や店長の可処分時間はほぼなくて、みんなが苦しい状態なので、そこもハッピーにしていきたいですね。