どうなる「首里城の火災保険」評価額100億円、再建費用は150億円超 どこまで下りるのか?

「首里城の保険金額は、損保業界内でも話題になっています。保険会社としても、まさかあそこまで燃え広がり、被害が大きくなるとは予想外だったでしょう。業界内では『自分の会社が受け持っていなくてよかった』と話しています」(大手損害保険会社社員)
10月31日の未明に発生した火災により、首里城の正殿、北殿などが焼失した。焼失面積は実に約4200平方メートルに及ぶ。
「県警は監視カメラ等の映像から、外部犯による侵入の可能性は低いと判断しています。電気系設備がショートし、建物に引火したことが原因と見られている」(地元紙記者)
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発生から10日余りが経過した11月11日、本誌記者は首里城の火災現場を訪れた。通常であれば、守礼門を抜けて城壁内に入るのが人気の観覧コースだ。
だが、火災後は中に入ることはできず、城壁内に向かう階段の前には赤い三角コーンと立ち入り禁止の黄色いテープが張られている。風が吹けば、正殿方向から、かすかにススの匂いが漂う。
これまで首里城は国内のみならず、中国、台湾などからの観光客で、平日、休日を問わず、にぎわいをみせていた。だが、この日は人影はまばらで、ひっそりとしていた。
首里城は重要な観光資源であり、沖縄県民の心の拠り所でもある。一刻も早い再建を望む声は多く、玉城デニー知事も、沖縄の日本復帰50周年である’22年5月までに再建計画の策定を国に求めている。だが、ネックになるのは莫大な費用だ。
再建には一体いくらかかるのか。現在の首里城公園の建設は’86年に閣議決定され、’92年に正殿が完成した。

今回、正殿、北殿、南殿、黄金御殿などの主要な7棟9施設が被害に遭った。当時の建設費は正殿が約33億円、南殿・北殿など3施設が21億円、黄金御殿など5施設が19億円。計約73億円が費やされている。
その再建費の見込み額は、一部では「150億円超」とも報じられている。首里城の復元に携わってきた、沖縄県琉球赤瓦漆喰施工協同組合の代表理事・田端忠氏が語る。
「前回の修復時に比べて人件費や資材費も高騰しています。いま再建しようとすると、200億円はかかるのではという話も出ています」
では、どうやってそのカネを払うのか。その手段の一つが保険金だ。首里城の管理、運営を行っている「沖縄美ら島財団」の担当者が話す。
「首里城は’92年から火災保険に加入しています。美ら島財団から、年間約2940万円の保険料を支払っていました。
首里城の評価額は100億3500万円で、これは保険に加入する際に保険会社が算定したものです。ただ、保険金の限度額は約70億円で、これ以上の金額が支払われることはありません」
「評価額」とは、火災保険に加入する際にまず算出するものだ。保険業界では珍しい、「神社仏閣プラン」という保険商品を販売している日新火災海上保険の広報グループの担当者が話す。
「評価額とは、その建造物と同じ物を再建すると、どのぐらいの費用がかかるかを評価したものです。ただ、文化財や神社仏閣の場合、この評価額を算出するのが非常に難しいのです。
一般の家屋や工場などは、面積や構造でおおよその再建費用を算出できるのですが、文化財などは使っている材質や建築様式などが特殊なケースが多い。統一された業界基準などもないため、評価が難しくなります」

文化財の評価額の算出の際、保険会社によっては、文化財の評価に詳しい鑑定人や、ときには宮大工などの意見をもとに決めるという。だが、算定できるのは材質や建築様式だけだ。
前出・日新火災の担当者が続ける。
「評価額の算出の際に歴史的な価値というものは含まれません。柱を1本建てるのに1000万円かかるという場合、『この柱には歴史的な価値があるので1億円』とはならない。あくまで評価額は1000万円なのです」
他にも装飾などの美術的価値も評価額には関係ない。首里城の評価額は、こうして約100億3500万円と算出された。
この評価額に、各保険会社内の基準である「保険料率」を掛けて、保険料が決まる。保険料率は所在地や、その建物の防火設備の機能などによっても上下する。
首里城の場合、消火設備の代表格であるスプリンクラーは設置されていなかった。ここまで火事が燃え広がった理由の一つだ。
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これは、首里城は’92年に再建された建物のため、重要文化財の指定を受けておらず、消防法で定められている防火対策義務の対象外だったからだ。
他にも、スプリンクラーの誤作動により、展示してある美術品や文書などが被害を受けるリスクを避けたかったという理由もあるようだ。
そもそも上限70億円という保険は首里城の規模と比して適正だったのか。
「建物の評価額が1億円で、月に100万円の保険料を払っているケースがあったとします。この場合、建物全体が損害を受けると、1億円の保険金が支払われ、半分の損害なら、5000万円が支払われるというのが一般的です。
しかし、評価額は1億円でも、支払いの限度額は5000万円という形で契約される方もいる。その場合、それに応じて、保険料も半分の50万円など、減額されます」(前出・日新火災の担当者)
首里城のケースで、保険金の限度額が70億円と評価額(100億円超)に達しなかったのは、保険料を抑えることが目的だったとみられる。
まさか本当に火災に見舞われるとは思ってもいなかったのだろう。保険料をケチった結果、評価額の満額を受け取ることができなくなってしまった。
首里城はこのような火災保険に加入していたが、他の国宝級建造物はどうなっているのか。
城郭の場合、公益社団法人の「全国市有物件災害共済会」の保険に加入しているケースが多い。
この団体は、災害によって公有財産に損害が出た際の救済を目的として設置されたもの。犬山城、熊本城、名古屋城などが、この団体の保険に加入していると回答した。
保険料は、犬山城の場合、「管理地内の建造物すべてで、年間約25万5000円」(犬山市教育委員会歴史まちづくり課)だという。かなり割安だが、この災害共済会の保険の場合、地震は対象外だ。
そのため、’16年の熊本地震の際に熊本城は損壊したが、保険金は支払われなかった。約600億円と推計されている修復費用は、国からの補助金や、30億円を拠出した日本財団を始めとする団体・企業や、個人からの寄付などで賄うしかない。
一方で、奈良の東大寺のように「リスクに備えて相応の保険はかけています。それ以上については回答を控えさせて頂きます」と詳細を明らかにしないケースもあった。
また、天守閣や門、塀などが国宝や重要文化財に指定されている、兵庫の姫路城は、他の史跡とは一線を画している。
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「姫路城は火災保険には加入していません。保険というのは失ったものを修復したり、復元するために、加入するものだと認識しています。しかし、私たちとしては、文化財は一度失われてしまったら取り返しがつかないものと考えています。
ですので、スプリンクラーなどの消火設備はもちろん、600台以上の火災報知器など防火対策に重点を置いています。失わないようにすることが大切であって、保険に入ることが本当に適当なのか。そう判断しています」(姫路城管理事務所の担当者)
近年、損保会社の負担は高まる一方だ。台風など多くの災害に見舞われた結果、’18年度の自然災害による保険金は1兆5000億円強と過去最高額を記録した。
そのあおりを受け、損害保険会社大手4社は’21年にも企業向けの火災保険料を上げる方針だという。
ただでさえ損保会社を取り巻く状況が厳しいなか、首里城に「最大70億円」もの保険金を払うことができるのか。
「まだ消防や警察、県が現場の被害状況の調査を行っている段階で、保険の査定に入れないと聞いています。調査後、査定に入ると思います」(前出・美ら島財団の担当者)

前出・日新火災の担当者はこう語る。
「一般的には、保険会社から委託された鑑定士が現地に赴き、被害の程度などを判断したうえで、補償額を算出します。本来機能するはずの消火設備が機能しなかったということがわかった場合、契約内容によっては補償額に影響が出ることもあります。
補償金が支払われるまでの期間は、通常ですと数週間程度ですが、今回のように大規模だと、1ヵ月程度かかる可能性もあります」
首里城の再建を、どういった形で進めていくかもまだ何も決まっていない。しかも、今回の火災では、建物だけではなく、財団が所有していた約500点の美術工芸品や文書なども焼失したと見られている。
これらの品にも火災保険はかかっていた。この保険金も支払わなくてはならないのだ。
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’89~’92年に再建された際は、国の直轄事業として、旧建設省などに予算がつき、建造された。一方で、文化財が損壊した場合、文化庁から補助金を受けながら、保険金や寄付で費用を賄うという道筋もある。
すでに那覇市がクラウドファンディングなどでの寄付を呼びかけ、6億円近くが集まっているといい(11月12日時点)、沖縄県にも約6700万円が集まっているという(11月8日時点)。だが、150億円から200億円という再建額にはまだまだ足りない。
首里城近くに住む、70代男性が語る。
「私は20年ちょっと前にこの辺りに住み始めたのですが、首里城はあって当たり前の存在になっていました。まさか正殿が焼けてしまうなんて思ってもみませんでしたし、本当に悲しいです。名実ともに沖縄のシンボルであり、県民の心の拠り所だったと思います」
今回の火災は、沖縄県民にとって青天の霹靂だっただろう。しかし、保険会社にとっても、まさかの事態だったのだ。
「週刊現代」2019年11月23日・30日合併号より