弱者のマーケティング戦略が育てたサイボウズの生存術 VUCA時代に求められる考え方とは?

こんにちは。サイボウズチームワーク総研のなかむらです。

このコラムでは、第1回で「“楽しくない職場”には人が集まらない」と述べました。第2回では「仕事の意味や目的を意識することが仕事に楽しさをもたらし、チームで成果を上げることにつながる」と伝えました。第3回は「“ブラックな職場”を変えた具体的な事例」、第4回は「仕事に没頭するためのヒント」。そして今回は、「遊び心と楽しさがアイデアを生み出すこと」について考えてみたいと思います。

弱者のマーケティング戦略
サイボウズは設立して20年ほどの会社です。自分たちの製品を売るため、創業期やベンチャー時代のマーケティング戦略は「目立つこと」でした。

当時でいうと、IBMやMicrosoftといった大手が競合にあたります。職場で使う法人決済が必要な製品で、かつ設立間もない会社の製品を誰が買うでしょうか。

とはいえ、製品力には自信がありました。マニュアルなしで使える、だから職場の高年齢層も使える、まずは無料でお試ししてみてください、と今では当たり前の無料試用期間ありのソフトウェアダウンロード形式で試用者を増やしていき、価格も差別化することで顧客を増やしていったのです。実は、企業向けソフトウェアがクリック1つでダウンロードできることは、当時(1990年代)では画期的なことでした。

目立つためのマーケティングをたくさんしました。グループウェアを購入する決裁者層が好きそうなキャラクター「ボウズマン」を生み出す、限られた予算で出せる

広告はメール広告くらい……そこでとにかく目立つ、目を引くキャンペーンをする。過去の事例をみたら枚挙にいとまがないほどです。

こうした戦略のなかで、価値判断の基準は「それ、面白いの?」でした。この創業時のDNAは今でもさまざまなところで受け継がれています。「ふざけているの?」と思われる方もいらっしゃるでしょう(笑)。はい。真面目にふざけています。でもそれが、自分たちが生き残るすべだったのです。

ただ、「真面目にふざける」って、とっても大変です。お笑い芸人が普段は真面目にネタを作っているように(実際は知りませんが)、人を不快にすることなく、「これ面白い~!!」と直感的に思ってもらえるものを創り上げるために、裏では相当な労力がかかっていることがほとんどです。

目立つ「意味の変化」と人材市場
この「目立つ」という考え方は、商品やサービスのマーケティングだけではなく、最近では人材採用マーケティングにおいても適用され始めています。昨今ではあらゆる分野で人手不足といわれ、特に中小企業ではその影響が顕著になっているといえるでしょう。

当然ながら人材採用の場においては、星の数ほどある企業のなかで、自分たちの会社の存在感を出すことが求められます。分かりやすくて身近な商品やサービスを持っている大手企業に比べると、B2B企業や中小企業が認知という点で不利になりやすいのは明らかです。

一方で、大手企業であることや、商品やサービスの認知があるからといって、それに安住できるわけでもありません。認知度の高い商品やサービスであるからこそ、SNSを含めた評判が企業イメージに非常に影響しやすい昨今です。そう考えると、結局はどの企業においても、新卒やキャリアを含めた採用だけではなく、幅広く見れば顧客やパートナー企業や株主など、あらゆるステークホルダーの価値観において「いい会社」であること、つまり「この会社はイケている」かどうかが問われるようになってきているのです。

VUCA時代に求められる考え方
昨今では、「アート思考」という言葉も出てきました。その発端になったともいえる山口周さんの著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』(光文社新書)では、経営を「アート」「サイエンス」「クラフト」の3つに分けて説明し、この3つをバランスよく共存させて意思決定することが、質の高い経営につながると指摘しています。

つまり、これまで重要視されてきた分析や論理といったサイエンスのみでは、現在を含めたこれからのVUCA時代(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguityの頭字語。予測が難しい不確かな時代といった意)において正しい判断ができないということです。

これに異を唱える人はあまりいないでしょう。10年先が、いや5年先がどうなっているかも分からない時代です。そこにおいて緻密な過去の分析数値がどこまで役に立つのか、まさに不確かです。そこで大事にすべき感覚が「直感」、自分なりの「真・善・美」だということです。

特に情報が溢れすぎている昨今では、「人の直感を刺激して認知してもらう」ことが必要です。どの業種・職種においても、他社との差別化のためのアイデアが求められますが、「やらされ感」はそれを阻害します。「真面目にふざける遊び心」がアイデアを生むのです。「遊び」はまさに「直感」そのもの。子どもは「直感」的に遊んでいるでしょう。仕事に「ふざけ」や「遊び」を入れることが大事であり、当然ながらそれが「楽しさ」も生むのです。

ひらめきを生む「遊び心」
仕事に「遊び」を入れることで、より共感する人が増えます。若手から意見が出ない、のではなく、真面目で面白くないから意見が出ない、意見してもしょうがない、と思ってしまうのです。過去の情報を分析・理論化することは大切ですが、それを判断の基軸にするのではなく、それをもとに「遊び」を許容して、さまざまなアイデアや発想に結び付けることが大事です。

また、人事や製品企画職だけがアイデアを求められるわけではありません。経理や法務であっても、不確かなものに「ルールだからできない」と対応するのではなく、「この部分では適用できるのではないか」といった柔軟な発想が必要ですし、それが他社との差別化にもつながります。サイボウズの株主総会は、株主以外も招待してワイワイ楽しくやるようになりました。これも「他社との差別化」につながり、こうした1つ1つが会社のブランドイメージを形成していくのです。

社員のリテンションや採用が難しくなっている現在、「遊び」の許容は思った以上に重要な要素になっているかもしれません。正解はありません。ただ、自分の貴重な時間を使うなら「楽しい」ほうがよいですよね。なぜなら、人間は高度な脳を使って「遊べる」動物ですから。

これまで5回にわたって、「組織の生産性を上げる『楽しさ』の作り方」を書いてきました。これからの時代に求められるのは「楽しいがあふれる会社」。楽しい職場には人が集まります。そのためには「遊び」や没頭を許容する環境づくりが欠かせません。

私たちサイボウズチームワーク総研とスコラ・コンサルトは、ひとりひとりの楽しさを起点にして組織を活性化する環境づくりを支援しています。この連載がみなさまの組織運営のヒントになれば幸いです。

著者プロフィール・なかむらアサミ
サイボウズチームワーク総研 シニアコンサルタント。サイボウズに人事として入社。その後、広報・ブランディングを経て、現在は、企業や教育機関など幅広い層にチームワークを伝えている。

離職率高い時期の人事経験など、組織の風土が変わっていく様子を体感してきているため、風土改革の沿革やチームビルディングの話をする機会が多い。