ドラッグストアといえば「お買い得」の宝庫。これまでは“安売り”のイメージも強かった。しかし、各チェーンはあの手この手でこのイメージを払拭(ふっしょく)しようとしている。
ココカラファインとの経営統合に向けて協議を開始したドラッグストア業界の雄、マツモトキヨシホールディングスも例外ではない。マツモトキヨシは1994年度から2015年度まで、ドラッグストア業界の売り上げ首位を走り続けてきた。しかし、16年度にウエルシアホールディングスに追い抜かれてからは、王座から遠のいている。
マツモトキヨシでは90年代からオリジナルブランド商品を展開。お買い得感を重視し、幅広い商品ジャンルを販売することで異業種からお客を奪ってきた。お客のニーズに合わせて、06年にはプライベートブランド(PB)「MKカスタマー」を展開。「お買い得感」と「高品質、高付加価値」の2軸から商品を企画している。
そしてさらに15年にはブランド名を社名に統一し、「matsukiyo」ブランドを発信している。同ブランドでは、世界各国のデザイン賞を総なめにしたトイレットペーパーや奇抜な色をしたエナジードリンクなど、ユニークな商品を連発している。
デザインだけでなく、価格面でも存在感を示す商品が多い。例えば柔軟剤の「レプリカノーツ」は600ミリリットル入りの本体が665円(税別、以下同)。480ミリリットル入りの詰め替え用も475円と、普段使いする日用品にしてはやや高い価格帯に位置する。
日常的に使う商品が多いからこそ、それぞれ価格が安いものが支持されがちなはず。なぜ、マツキヨはドラッグストアの“王道”ともいえる戦い方からあえて遠ざかるのだろうか。
コンビニが脅威に
マツモトキヨシの高橋伸治広報部長は、方針転換の理由に「コンビニの脅威」を挙げる。マツモトキヨシがPBを始めた06年からの十数年間で、社会は大きく変わった。特に東日本大震災を機に、コンビニの機能が見直されるようになったのだという。
「これまでのコンビニは多種多様な客層を取り込んでいたが、中でも若年層の男性が多かった。それが、震災によってさまざまな商品が品薄になったのを機に、シニアもコンビニに足を運ぶようになった。コンビニに行ってみると、さまざまな商品を販売していることが身をもって分かる。そうなると、これまでドラッグストアで買っていたものもコンビニで買うようになる」と高橋氏は話す。このようなことを背景に、他業種の参入しづらい「美と健康」という柱を据えてPBをリブランディングする必要性を感じていたのだという。
競合が増えたことだけでなく、消費者の態度変容も影響した。「チョコレートを例に出すと、ファミリー層では量を重視し、袋詰めでいっぱい入ったものを好む。逆にこだわりのある人ならば、『カカオ75%』といった商品内容で商品を選ぶ。当たり前といえば当たり前だが、『総中流意識』を前提に商品開発するのではもう戦えない」(高橋氏)
こうしたことを背景に、matsukiyoでは徹底的にデータを活用した商品開発を行っている。グループ会員6000万人超のデータや、SNS上のコメントを分析。価値観の分析やナショナルブランド(NB)との比較などを行い、MKカスタマーで提供していた商品のリブランディングを中心にここまで商品を展開している。
メンバーの9割を店舗スタッフで構成する「コミッティ」
客観的なデータだけでなく、「生の情報」も企画に生かしている。17年から「PBアイデア創出コミッティ」と称して、全社から商品企画に関わりたい従業員を公募。担当者の櫻井壱典商品企画室商品開発課課長によると、メンバーの9割が店舗で日々お客と接しているスタッフだという。「手を挙げてもらえれば、可能な限り誰でもメンバーに入ってもらっている」と話す。
コミッティは任期を1年として、毎月2回、商品ジャンルごとに分けたチームで企画を出し合っている。それぞれのチームには開発担当者が入っており、アイデアが実現可能かどうか、技術面や法務面からも精査しているという。重視しているのは「ありそうでなかったもの」や「うたっていなかったアピールができるもの」だ。そのために、日々お客と対面して困りごとやニーズを知り尽くしている店舗スタッフを積極的にメンバーとしている。
18年からコミッティへ参加している坂本恭子氏は、マツモトキヨシ松戸新田店の店舗スタッフ。薬剤師の資格も持っている。「今どういう商品企画が動いているかが可視化できるので、会社全体の透明性もより向上したと思う」と話す。「『安さ』で勝負していたところから、高品質高付加価値商品へと注力分野が変化していくのを間近で見てきて、スタッフでありながら自分も1人のマツキヨファン。両方の視点からコミッティに参加できている」。従業員としても、消費者としても開発に携わることで、「痒い所に手が届く」商品のアイデアが日々生み出されている。
まだ立ち上げから期間が短いため、商品化したものはそう多くはないが、代表的なものとしては「日本薬局方 白色ワセリン ワセリンPRO」(第3類医薬品、980円)が挙がった。特に敏感肌の人やアトピー肌の人から、自宅で使用するスキンケア商品に対する要望がよく出ていた。スキンケア商品はこれまでにも販売していたが、より乾燥度の激しい人が使うような成分を含んだものはこれまでになかった。医薬品のプロである薬剤師資格と、日々接している生の声を上手に融合して生み出した商品だ。
matsukiyoはまだ商品数こそ少ないが、マツモトキヨシの新たな路線を支えるブランドとしてさらに注力していくという。インバウンドのお客も多く、海外での認知も広がっている。高橋広報部長はこう話す。「少子高齢社会では、若いファンを作り続けていかなければならない。価格だけを重視して商品を作っても、より安いものがあれば簡単にそちらへ流れてしまう。それであれば、われわれは『価値観』で戦っていく」