9日未明から昼にかけて関東を縦断した台風15号。千葉市や羽田空港などでは観測史上1位となる最大瞬間風速を観測し、関東に上陸した台風の中でも統計開始以来、最強クラスとなった。来年の東京五輪は台風襲来でも競技日程はキツキツ。「お・も・て・な・し」とは真逆の“強行軍”となりかねない。
気象庁によると、台風15号は9日未明に千葉市で最大瞬間風速57・5メートルを観測。記録的な暴風雨の影響で、千葉県君津市では送電線の鉄塔2基(57メートルと45メートル)が倒壊した。東京電力によると、千葉や神奈川などを中心に1都6県で最大約93万軒の停電が発生。全面復旧は10日以降にずれ込む見通しだ。
首都圏の在来線は、始発から午前8時ごろまで運休。運転開始後も、ダイヤの乱れにより、入場規制が相次いだ。成田空港では一時、交通機関が全面ストップして利用客1万3000人が足止め。「陸の孤島」と化した。
■大会期間中に台風が上陸したら?
史上最強クラスの台風の猛威をまざまざと見せつけられたが、台風直撃のリスクは来年も変わらない。問題は、台風が来年の東京五輪を直撃した場合だ。
大会期間は7月24日から8月9日、パラリンピックは8月25日から9月6日だ。台風の発生・上陸のピークが7~9月であることを考えると、台風が五輪を直撃する可能性は十分ある。
「1951年の統計開始から7月と8月に首都圏に上陸した台風は7個です。9月が3個なので、7~9月にかけて首都圏に上陸する台風の数は平均してそんなに変わりません」(気象庁天気相談所)
大会期間中に台風が上陸したら、首都圏のインフラがマヒし、観戦目的の訪日客らが右往左往することは間違いない。実際、台風15号で鉄道ダイヤが乱れたことにより、日本語の構内アナウンスが理解できずに途方にくれる訪日客もいた。
最悪の場合、台風による停電で熱中症のリスクが高まり、観戦客やボランティアがぶっ倒れる恐れがある。競技日程にも影響する可能性が高い。
五輪憲章は原則として、<オリンピック競技大会の競技実施期間は16日間を超えてはならない>と明記している。台風が近づいても競技日程を消化するため“強行軍”に突っ走ったら、陸上競技において猛烈な嵐の中、追い風参考記録で世界新記録が続出する前代未聞の五輪になるかもしれないのだ。
■日本の気候環境を考慮していない
台風が五輪を直撃した場合のシミュレーションについて、大会組織委に問い合わせると次のような回答だった。
「スケジュール進行に影響を及ぼす事象がある場合、個々の状況にあわせて、組織委員会、IOC・IPC、国際競技団体などで協議を行い、遅延、延期、前倒しなどを判断します。閉会式前に競技を再設定することができない場合には、IOC・IPCが中止を決定します」(戦略広報課)
要するに、具体策は想定の範囲外で、競技の中止についてはIOC・IPCの判断に丸投げというワケだ。五輪に詳しいスポーツライターの谷口源太郎氏が言う。
「IOCも組織委も日本の気候環境を全く考慮していません。問題は、台風だけではなく、暑さや福島原発事故による放射能汚染まで多岐にわたります。日本の気候環境を考えれば、7、8月に五輪を開催する方がおかしい。選手やスタッフの生命をないがしろにしている証左ですよ」
自然の猛威を甘く見ていると痛い目に遭う。