先日の韓国の日韓GSOMIA延長についての米国メディアの反応は、冷静かつ好意的なものだった。各社とも、米国の安全保障政策の文脈で日米韓の安全保障協力が、対北朝鮮のみならず、対中国政策、対ロシア政策に影響の強いものであるという強い意識が反映していた。
例えば、ニューヨークタイムズ(NYT)紙の11月22日付「Under U.S. Pressure, South Korea Stays in Intelligence Pact With Japan」(米国の強い圧力により、韓国は日本とのインテリジェンス協定を維持)は、GSOMIAの延長は、「少なくとも短期的には米外交の勝利」と評価している。
NYT紙は、これまで日韓の関係悪化の理由に、トランプ大統領の多国間協力への無関心と北朝鮮への肩入れを指摘していたが、今回は、トランプ大統領の動きには触れずに、エスパー国防長官・ポンペオ国務長官以下の政府の担当者の外交努力を評価している。
しかも、同紙は、安倍首相が、今回の韓国の行動を「戦略的」と評価していることを掲載している。
実際には安倍晋三首相は「北朝鮮への対応のために、日韓、日米韓の連携、協力は極めて重要だ。韓国もそうした戦略的観点から判断をしたのだろう」と発言している。
これは、ワシントンポスト(WP)紙が、11月22日付の「Under U.S. pressure, South Korea holds off ending intelligence pact with Japan」(米国の圧力で韓国は日本との情報協定の破棄を撤回)で、インターナショナル・クライシスグループのデュヨン・キム氏のコメント、「韓国がGSOMIAを破棄すれば、それは北朝鮮と中国、ロシアを利する行為だ」という認識と共通するものであり、日本からの発信としては、正鵠を得たものだ。
筆者は、この時期に米国出張中だったこともあり、保守系のワシントンタイムズ(WT)にコメントが引用された。
11月21日付のガイ・テーラーによる「South Korea-Japan tension undercuts U.S., emboldens China and North Korea」(韓日の緊張は米国の影響力を削ぎ、中国と北朝鮮を大胆にさせる)の記事は、趣旨としては前述の記事と変わらないが、より中国の影響を意識した記事になっている。
まず、筆者(渡部)の分析として、中国が最近、自由貿易の重要性を強調し、韓国と日本それぞれに、保護主義を強める米国から引き離すような動きをしていることが掲載された。
また今回、米政府は、韓国にGSOMIAの延長を要求するだけでなく、米軍の駐留経費を5倍要求する交渉を行っており、こちらのほうは米韓で決裂したことが記されている。
テーラー氏は、匿名のアナリストの分析として、韓国政府は、米政府が日米GSOMIA破棄のほうが、駐留経費削減よりも深刻だと考えていることを十分に認識して、今回の決定を行ったと分析している。
また筆者(渡部)のコメントとして、トランプ大統領は、北朝鮮との何かしらのディールをすることを優先しており、また、民主主義だからあまり強い批判はできないが、米国の経費を削減させるために駐留コストのより大きな負担を求めていることへの批判が掲載された。
このように、保守のワシントンタイムズ(WT)とリベラルのニューヨークタイムズ(NYT)とワシントンポスト(WP)の論調が一緒であることは重要だ。
これは、11月22日に、米上院が全会一致で日韓GSOMIAの重要性を確認する決議をしたこととも符合する。トランプ政権の高官たちも、議会からの超党派の支持を受けて、動きやすかったと考えられるし、今回のGOMIA破棄の撤回も議会では超党派で評価されていることだろう。
筆者は、GSOMIA破棄撤回の時に、カナダで行われたハリファックス・セキュリティー・フォーラムという米国の超党派の複数の議員を含む米欧の安全保障関係者を中心とする会議に出席していたが、アメリカの専門家たちは、軒並み、韓国のGOMIA破棄撤回を歓迎した。
しかし、今後の日本の対韓政策は、安倍首相が韓国のGSOMIA延期を「戦略的」と評価したのと同じ意味で、より戦略的であるべきだ。
特に、先のNYT、WP両紙ともに、日本側が今回のGSOMIAと、輸出管理強化は別の話であるという姿勢をとっていることにも関心を寄せている。
しかも、匿名の日本政府高官の発言で、日本政府は貿易管理をめぐる当局間の協議再開には応じるものの「一切妥協はしない」方針が伝わり、今回の韓国のGSOMIA延長について「ほとんどこちらのパーフェクトゲームだった」という情報発信は、まったくもって「戦略的」ではない。
これにより、徴用工問題などでの韓国政府のさらなる妥協が得にくくなるし、そもそも日本の戦略目標が何なのかわかっていないことを、各国に発信している。
日本の戦略目標は安倍首相の発言のとおり「日米韓の安全保障協力関係の強化」による自国の安全と地域の安定であり、その対象は北朝鮮だけではなく中国とロシアだ。
中国の尖閣諸島周辺と南シナ海での「力による現状変更」には、日本は直接の脅威を感じている。
7月の中ロ空軍共同による竹島周辺を含む日本海と東シナ海の上空での「合同長距離パトロール」は、日米韓分断を狙うことの共通利益が中ロにあることを示している。
米国政府も、2017年の国家安全保障戦略や2018年の国家防衛戦略などで、中ロ両国を「地域の国際秩序に挑戦する修正主義勢力」と明確に規定するようになった。
地政学的にみれば、軍事的にも経済的にも、米国に迫る勢いのある中国との間の干渉地帯となっているのが韓国である。
中国の同盟国の北朝鮮とは異なり、米国と同盟を結び、米軍が韓国に駐留していることは、日本の安全保障への多大な貢献であり、日本の防衛コストをとても安価にしている。この事実を冷静に考えて韓国に対応すべきだろう。
例えば、もし、韓国が米国との同盟関係を弱体化させて在韓米軍を縮小するだけで、中露朝対日米韓のバランスが大きく変わり日米側に不利になる。
よしんば、在韓米軍が撤退することになれば、たとえ、米韓同盟が維持されていても、日韓の軍事的緊張が高まるリスクもあり、それだけでも日本の防衛コストが上がることになる。
ましてや、朝鮮半島全体が中国やロシアの影響下にはいるようなことになれば、日本の防衛力は根本から考え直さないといけなくなり、常識的には多大な軍事力が必要となる。今後の日本にそのような財政負担がのしかかれば、経済にも深刻な影響となる。
歴史をふりかえれば、明治期の日清戦争および日露戦争は、いずれも、朝鮮半島が清およびロシアの影響下に入ることで、日本の安全保障が脅かされることを防ぐために開戦している。日本の地政学的な位置は当時とは変わってはいない。
安倍首相が今回の日韓GSOMIA破棄の回避を戦略的だと評価したように、今回の韓国の決定は、日本の安全保障にとってとても良い決定だった。
日本の今後の政策もより戦略的であるべきだ。
日本政府が、今後、国内の嫌韓感情にひきずられて、韓国との協議に前向きな姿勢を見せない場合は、米国側の安全保障関係者からの不興を買うだけでなく、中朝ロに決定的に有利にし、第二次世界大戦および朝鮮戦争後、日本の平和に寄与してきた地域の構造をみすみす変えてしまう。
日本の防衛にとって、日米同盟が死活的に重要なように、米韓同盟も死活的に重要なのだ。
日本の今後の韓国政策は、国内の嫌韓勘定への一時の人気とりへ誘惑に打ち勝ち、冷静な政策をとる必要がある。
そのためには、日本の生存・繁栄のための大戦略の中に対韓政策を位置づけ、その理屈を日本国民が共有できるような、日本政府による戦略的なコミュニケーションが必要となるだろう。