秋田県鹿角市十和田大湯の温泉旅館や住宅が建ち並ぶ地域で11月20日、ツキノワグマに襲われるなどして猟友会員ら3人が重軽傷を負う事故があった。この際、熊の発見から猟銃による駆除の判断までに3時間近くを要し、住宅街での発砲指示の判断が難しい実態が浮かんだ。【中村聡也】
旅館で発見
鹿角署などによると、温泉旅館の中庭に熊がいるのを宿泊客が目撃したのは午前6時5分ごろ。旅館従業員が110番し、鹿角署員11人や、市の要請を受けて猟銃を所持した地元猟友会員4人ら計19人が出動した。
熊は当初は落ち着いた様子だったというが、約2時間半後に敷地北側へ逃走。大湯川を流され、「わかば保育園」付近で姿が見えなくなった。
その後は住宅街を歩いたとみられ、市道で熊を探していた猟友会員の70代男性が背後から襲われ、顔などをけがした。助けようとした鹿角署の男性巡査長も右足をすりむいた。熊はさらに保育園近くの河川敷で、60代男性の2本の指の一部をかみちぎった。
午前8時50分ごろ、鹿角署の50代の男性警部補が発砲を指示し、猟友会員3人が河川敷にいた熊に向かって猟銃で9発を発射。うち8発が当たって熊は死んだ。体長115センチの雌だった。
鳥獣保護管理法は、住宅地での銃の使用を禁じている。だが熊が人里に出没して人を襲うなどの事故が起きたことを受け、警察庁は2012年4月、警察官職務執行法第4条第1項を根拠に「急を要する場合はハンターに猟銃を使用して駆除を命じることは行い得る」との見解を示した。
この通達を受けて県警が住宅街で発砲指示をしたのは、確認できるだけでは、これまでに12年4月に鹿角市の「秋田八幡平クマ牧場」でヒグマ6頭が脱走した際と13年8月に横手市で熊が住宅街を歩き回ったときの2回だった。
北海道では12月1日、帯広市の中心部に体長約1・5メートルの雌のヒグマが現れ、小学校敷地内で同法に基づき駆除されている。
安全を優先
鹿角署などによると、旅館の庭で発見されたときは弾が敷地内の庭石に跳ね返って人に当たる恐れがあるほか、熊が落ち着いていて危険といえないことなどから発砲指示を出さなかった。爆竹などで追い払うことや麻酔銃の使用を検討したが、追い払いは山林までの距離が遠く、麻酔銃は撃てる人が現場近くにいなかったという。また3人が負傷した現場周辺は住宅が建ち並び、水平方向に撃つと人に当たる恐れがあった。
警察官が指示を出したのは、熊が河川敷にうずくまっているとき。猟友会員が高さ2~3メートルの護岸から至近距離で発砲。射角が斜め下で土の地面にヤブが生い茂っており、弾が跳ね返る危険性がなかったと判断した。同署の阿部展久副署長は今回の対応は「適切だった」としている。
経緯を検証
慎重に対応せざるを得ない発砲指示。一方で今年度は、県内で16人が熊に襲われて重軽傷を負い、うち11人が人里で被害に遭った。秋田市添川の住宅街では10月31日、男性が帰宅直後に自宅敷地内で襲われ、大けがをしている。
今回、猟友会員ら3人がけがをしたことを受けて、地元猟友会に出動を要請した鹿角市農林課の大森誠課長は「出没から駆除までの状況を振り返り、早めに対策を講じられなかったか検証したい」と説明する。
県自然保護課の桜田良弘課長は「警職法第4条第1項を根拠とした熊の駆除は現場判断によるため、マニュアル的な決め方ができない。現場でどういう対応ができるのか、県警や市町村など関係者同士で話し合っていきたい」と話した。