性的少数者の子育て支援でNPOが冊子「どんな子か決めつけず見守って」

「らしさ」や「フツー」に縛られない子育てのヒントに――。親や子どもが性的少数者(LGBTなど)であっても偏見にさらされることがないよう、正しい情報や当事者の声をまとめた啓発冊子「にじいろ子育て手帳」が完成した。NPO法人「虹色ダイバーシティ」が、保護者や教育関係者らに読んでもらおうと製作。「男らしさや女らしさを否定するわけではなく、そこに当てはまらない人の存在を認めてほしい」との願いを込めた。
冊子はLGBT当事者と非当事者計約1200人からインターネット上のアンケートで集めた声が基になっている。当事者、非当事者とも、9割以上が日本はLGBTの親が子育てしにくい環境にあると感じている。それが際立つのが、専業主婦家庭が多い幼稚園と、思春期のただ中の中学校。それぞれ半数近くの当事者が性のあり方を巡って嫌な思いを経験しており、1~2割台だった非当事者と開きがあった。
多様性を認め合う対話の場作りに取り組むグループ「lag」代表を務める「しげ」さん(35)は、アンケートの回答や周知に協力した。身体的には女性だが「ほぼ男性」と自認し、5年前に産んだ長男をシングルで育てる。「お母さん」「ママ」。そう呼ばれると「服を脱がされ体を触られるような、耐え難い苦痛を感じる」という。
小さい頃から自身の性に違和感はあったが、26歳で結婚。社会的に望ましい女性像を必死で演じてきた。だが出産すると、育児本を読んでも、長男が通う園の行事に出ても、「お父さん・お母さん」という男女の区別がより顕著になり、耐え難くなってきた。幼稚園である日、将来の夢を「プリキュアになりたい」と発表した男の子をみんなが笑ったのに心が痛み、思い切って「(私を)ママと呼ばないで」と先生や一部の保護者に訴えた。
理解してもらえるのか、孤立するのではないか。今も不安はあるが「自信を持って親として振る舞いたい」と前を向く。子育てをしているトランスジェンダーは性的少数者の中でも少数で、子どもがいじめられないようにと隠している人がほとんどという。「身近に『いない』ものとされるから、なおさら理解が広まらないんじゃないか」。そんな思いから、lagの活動を通して性の多様性を発信している。
虹色ダイバーシティのアンケートでは、当事者125人の子どもの6割以上は、遺伝的な父親が元夫や親族、友人など、自分自身やパートナーでない人たちだった。代表の村木真紀さん(45)は「法律で同性婚が認められていない現状では、産んだ親に何かあった場合、もう一方の親と子どもの関係を継続できなくなる恐れがある」と懸念する。
子育てをする性的少数者たちで作る団体「にじいろかぞく」副代表の青山真侑さん(47)は、ゲイの友人から精子提供を受けて出産し、同性のパートナー(56)と小学2年の息子(8)を育てている。
当初は周囲にカミングアウトしておらず、パートナーは子どもの保育園の送迎や看病で職場を休んだりする時も理由を言いよどんだ。そうしたストレスが重なりうつを発症し、2年間の休職に追い込まれた。その後、同性パートナーシップ制度が各地の自治体で始まるなど徐々に環境も変わり、2人はそれぞれの職場に申告。パートナーは育児短時間勤務が認められるようになった。
幸い、学校の保護者仲間に打ち明けると「夫が職場でLGBT研修を受けたから知っているし、驚かないよ」と言ってくれた。だが、3人で街を歩いていると「パパはどこ?」と聞かれることがある。ランドセルメーカーのウェブサイトは「男の子用」と「女の子用」に入り口が分かれている。「定形外の人は想定されていない」と感じるという。
啓発冊子はA5判20ページで、ウェブサイトからダウンロードできる。当事者たちの体験談のほか、家族の多様性をテーマにした絵本や相談窓口なども紹介。行政機関や医療機関で、自身のセクシュアリティーやそれを周囲に告げている範囲、子どもやパートナーとの法律上の関係などを口頭で説明せずに済むよう、指さしで伝えられる表も付けている。
母子健康手帳を発行する自治体の窓口や健診の場での配布を働きかける予定で、村木さんは「子どものうちに偏見が植え付けられることがないよう、子育てに関わる人たちの理解を広めたい」と話す。
冊子に「周囲の人は、その子がどんな子かを決めつけず、その子が楽しいこと、大好きなことを否定せず、見守ってあげてください」との一文がある。多様性を尊重する世の中は、性的少数者でなくても生きやすいはずだ。【野村房代】