多人数を集めて講義をするのではなく、マンツーマンで指導を行うパーソナルトレーニングの流れが、金融教育にも起きてきている。2018年6月にサービスを開始したbookeeは、「お金のパーソナルトレーニング」を提供するスタートアップ企業だ。設立メンバーはサイバーエージェント出身者が中心となり、ライザップのトレーナーなども参画している。
「ライザップなどで、パーソナルトレーニングの市場は広がっている。ダイエットでいえば、糖質を抑えてタンパク質を取れば理想の体になることは分かっている。しかし、どうやってそれを実行するかが課題。bookeeでも、フォローアップして実行できるようにすることが特徴」。フィデリティが行ったDCセミナー2019に登壇した、bookeeの辻侑吾COOは、サービスの特徴をこう説明した。
ダイエット同様、金融教育でも「習慣化」が重要だと辻氏は強調する。「習慣がポイント。朝必ず歯を磨くように、習慣としてお金について考えることを身につける。そのために、スマホアプリを使ったデイリーのコーチングと、週一の対面コーチングを行う」
ターゲットは、20~30代の独身女性
bookeeのターゲット層は、20~30代の独身女性だ。年収は300~600万円の人たちが多いという。もともとの想定では、600~1000万円の高年収女性が中心になると考えていたが、サービスを開始してみると、より年収の低い層からのニーズが高かった。
「年収が高い独身女性はバリバリ仕事をする。あまり将来への不安を抱えている人が少ない。お金がなかったら働いてなんとかするという、男性のような考え方だ。年収がもう少し低い層は、安定的な仕事をして、仕事のサイクルを変えずに将来の不安も解消したいというニーズがある」(以下、発言は辻氏)
対面でのトレーニングは、銀座、丸の内、表参道、池袋のシェアオフィスWeWorkを利用する。「通いたいと思ってもらえるおしゃれな環境でトレーニングを実施することが重要。立地デザインだ」。今後、新宿や渋谷のWeWorkへの展開も予定している。
商品を勧められるのではなく、自分で選べるようになりたい
金融教育ニーズの根源は、将来のお金の不安にある。さらに、資産を増やしたい、投資をやってみたいという人が増加している。辻氏は背景として、「年金受給年齢の引き上げ懸念」「働く女性の増加」「働き方改革」を挙げた。
金融庁レポートの「老後2000万円問題」は、従来からくすぶっていた年金制度への不信に波及した。現在は65歳から受給開始となる年金だが、制度維持のために受給年齢が引き上げられるのではないかという懸念は根強い。もらえる年金は減っていくだろうというのは、若年層の間では共通認識になってきており、自分で対策するための知識を得たい人が増加している。
働く女性の増加も理由の一つだ。従来、資産運用は夫に任せる層が一定数あった。しかし独身率の増加とともに、夫任せにはできなくなってきている。「自分の資産は自分で形成したい。そのために預貯金だけでなく投資もできるようになっておきたい」
さらに働き方改革も影響している。企業が残業時間の削減を進める中、「残業代は減るけれど、収入アップの見込みは少ない。どうやって生活をキープするか」という観点から、資産運用に目が向けられている。
そんな背景から、学びたい内容も変化してきた。お金に関するレクチャーというと、「どの商品を買えばいいか教える」といった投資アドバイスを連想しがちだが、誰かに言われたままに投資をするのではなく、自分で理解して投資先を選べるようになりたいと考える人が増えているという。
「従来は、確定拠出年金の商品選びでも、バランス型がいいですかアクティブ型がいいですか? という質問が多かった。しかし、この中から商品を選ぶのにどういう知識を身に着けたらいいのか、バランス型、アクティブ型の違いはどこか、といった質問に変わってきている」
約30万円の料金にどのくらいの価値を見出すか
bookeeは、女性向け無料セミナーの告知は自社Webで行っているが、パーソナルトレーニングの料金体系については公開していない。辻氏によると、料金は約30万円だ。
「パーソナルトレーニングのマーケットプライスなので、そんなに高いものではないと思うが、金融機関の人に言うと驚かれることが多い」(辻氏)
教育プログラムの内容は、家計管理、銀行口座管理、税金、保険、住宅ローン、資産運用、NISA、iDeCo、仮想通貨といったもの。金融教育大手のファイナンシャルアカデミーが作成したカリキュラムを、マンツーマン向けにカスタマイズしたものを使っている。特別高度な内容が含まれているわけではなく、一般的な内容だ。お金についての書籍を読めば、書かれていることに大きな違いはない。
それでも30万円を払って、パーソナルトレーニングを受ける価値はどこにあるのか。辻氏は、単なる知識ではなく投資の実行をサポートすることにあると説明する。「iDeCoやNISAなどの名前は知っている、本などで知識も得た。でも次の一歩に踏み出せない、という方が多い。行動に変えていくときに伴走する。怖かったものができるようになる」