38歳女性が「組合で恋愛結婚」で大成功した理由

「組合婚」をした人にお話を聞きました(イラスト:堀江篤史)
別時期に同じ会社に入社し、お互いが会社の組合の担当になったのが出会いのきっかけ。組合の年長者の方にいい人がいないか聞いたところ夫との仲を取り持ってくれて交際に発展。昨年1月に結婚。婚活時代、一生懸命『晩婚さん、いらっしゃい!』を見て参考にしていました。特筆すべき結婚ではないですが、過去の私のようにどなたかのヒントになれば幸いです。
本連載の出演申し込みフォームにこんなメッセージが入ったのは今年9月のことだ。簡潔で感じのいい文面であるが、筆者はとりわけ気に留めていなかった。しかし、担当編集者のYさんが「組合」というワードに注目。古めかしい組織と思う人もいるかもしれないが、つながり作りには意外と便利かも、と感じたらしい。
そういえば、筆者の知人(老舗出版社勤務)も一緒に社内の組合活動をしていた女性と結婚した。同じ会社という強力な共通点はありつつ、業務外の課題に取り組む過程でお互いの人間性を知ることができたのだろう。組合婚、いいかもしれない。
東京・西新宿の高層ビル内にある土佐料理の店に来てくれたのは、メッセージをくれた上村由里さん(仮名、38歳)。ダンガリーシャツにざっくりしたグレーのニットを合わせて、大きなオシャレ眼鏡をしている。快活で若々しい印象を受ける女性だ。現在の大手IT企業に就職したのは7年前で、それまでは長く居酒屋で働いていたという。
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「高校を卒業してからずっと同じ店で働いていました。朝まで営業している居酒屋です。常連客からお酒をいただいたり、仕事が終わった後にスタッフ同士で飲みに行ったり。365日、飲んでいました。仕事はすごく楽しかったので体力が続けば永遠に続けたかったのですが、生活が不規則すぎて体を壊してしまったんです」
仕事に夢中で、男友達はいたけれど恋愛に発展することはなかったと振り返る由里さん。お店を泣く泣く辞めた後、ハローワークを通じて規則正しく休みが取れるデスクワークの仕事を探した。その1年後、もともと不仲で別居していた両親が離婚。母親と由里さんの楽しい2人暮らしになったが、母親からはしだいに結婚を急かされるようになった。
「『あなたがお嫁にいかないと私が再婚できない』と毎日のようにせっつかれました。朝、『おはよう』の代わりに『結婚しなさい』と言うようになったのです」
会社内でやったら完全なセクハラであるが、親子関係ならば仕方がない。「早く結婚しなさい」「子どもはまだなの」などと言う資格がもしあるとするなら、その人を育てた親しかいないのだ。
由里さんには母親の「強制」に従う素直さもあった。婚活サイトに登録し、婚活パーティーには10回以上参加。しかし、思わしい結果は出なかった。
「サイト上でやりとりをしても誠実ではない印象の人が多かったです。婚活はお互いに条件から入って相手を見るので、会話をしても人となりがわかりにくいとも感じました。ご飯に一緒に行った人も何人かいますがピンときたことはありません。そのうち、見ず知らずの人とゼロから関係を作ることに疲れてしまいました」
では、由里さんはどんな「人となり」の男性を望んでいるのだろうか。
「父がモラハラ気味で、母も強く言い返す人だったので、子どもの頃から夫婦ゲンカばかりを見てきました。私も母と似ているところがあって理屈っぽいほうだと思います。そんな私の話も聞いてくれて、穏やかで声を荒らげない人が好きです」
本質的ではあるが、婚活の「条件」にはしにくいポイントである。その条件ではプロフィール検索をかけにくいからだ。その頃、由里さんは会社で組合の委員になることが決まった。
「同じ職場で誰かがやらなければならなかったのですが、先輩の女性社員が断ったので私が引き受けることにしました」
この決断が由里さんに良縁をもたらすことになる。組合活動を通して、一回りほど上の女性社員と親しくなった由里さん。婚活疲れもあって「誰かいい人いないですかね」とこぼしたところ、「探してみようか」と言ってくれ、後日に「上村くんはどうかな」と持ちかけてくれた。その男性こそが現在の夫である直樹さん(仮名、34歳)である。
直樹さんは社内でも別の拠点にいるため、由里さんは面識がなかった。一方でその先輩社員は彼をよく知っている。恋人の有無や由里さんへの印象まで聞いてくれた。愛情と忍耐力がなければできることではない。組織への奉仕の精神が求められる組合だからこそ、こんな先輩と出会えたのかもしれない。
「先輩の聞き取りで、彼には同棲している彼女がいるけれどお互いに気持ちは離れていてシェアハウス状態になっていることがわかりました。きっかけがあれば引っ越すつもりもあることまで聞き出してくれたんです」
男女関係ではなくなっても同棲を続けているという男性は、女性からするといい意味で「くみしやすい」タイプだと思う。筆者の分析だが、女性とフランクに付き合えるタイプで、基本的にモテる、だから婚活市場には出てこないことが多い。由里さんはまさに「掘り出し物」を先輩から紹介してもらったのだ。
直樹さんはあるバンドのファンで、その年の秋にライブに行く予定があった。先輩はすかさず「由里さんも連れて行ってあげてくれない?」と提案。デートが実現した。由里さんはかつてない好印象を受けた。
「私が何を言っても受け止めてくれるんです。『僕はこう思うよ』と言いつつ、否定はしません。彼も私がふざけたりするのが面白かったようです」
話し始めると年齢差は気にならなくなり、すぐに交際が始まった。先輩による手厚いフォローはその後も続く。直樹さんに対して、「由里さんと付き合うなら真剣に付き合ってあげてね」「(その後の進捗は)どうなの?」と折に触れて聞き続けてくれたのだ。その影響もあったのか、交際して3カ月後には直樹さんからプロポーズ。2018年の初めのことである。
由里さんと直樹さんには今のところ子どもがいない。不妊治療までは受けるつもりがないことは結婚前に同意を得たと由里さんは振り返る。
「結婚したときが37歳。すぐに妊娠したとしても高齢出産です。リスクもあります。子どもは作ってあげられないかも、とはっきり言いました。彼は『できたらできたでいいし、いなければいないでも構わない。無理をするつもりはない』とのこと。彼はお兄さんお姉さんにそれぞれ3人ずつぐらい子どもがいて、おいっ子めいっ子に囲まれているのでお役御免だと思っているようです」
今、由里さんは穏やかな直樹さんとの平和な毎日を過ごしている。家に帰ると夫がいることが「いいな」と感じるのだ。
「母との2人暮らしも楽しかったのですが、母は毒舌なのでグサッと胸に刺さるような言葉を言います。私のためだとはわかっているのですが……。夫はとにかくマイルドな人なので、今までケンカをしたことはありません。2人ともインドア派で、休日はそれぞれが違うゲームを部屋の中でしたり。結婚したからよかったのではなく、夫と結婚したからよかったと思っています」
結婚しなくても1人で生きられる時代である。「よりいい条件」だけで結婚相手を選ぶことの意味は薄れているとも言える。由里さんのように「人となり」を重視して、一緒にいて安らげるパートナーを探したいのであれば、身近にいる尊敬できる先輩などに相談することが早道かもしれない。類は友を呼ぶ。よき人を信じることによって、よき人を紹介してもらえることは少なくない。