「ミニ四駆」の生みの親 タミヤ社長が語るプラモデルの未来

プラモデルという言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。昭和から平成初期にかけて、プラモデルは少年たちにとって必須のアイテムだった。零戦や大和、ミニ四駆、ガンダムに胸を熱くした人たちも多いだろう。しかし最近は町にプラモデルを売っている店はほとんどなく、子どもたちの間で流行っているという話も聞かない。果たしてプラモデルというコンテンツはもう時代遅れになってしまったのか。

それを知りたくて、5月8日から11日まで、静岡市で開催された「第58回静岡ホビーショー」を訪れた。世界最大級のプラモデル、ラジコンなどの模型ホビーの見本市といわれる「静岡ホビーショー」を主催するのは静岡模型教材協同組合だ。同組合の理事長にして株式会社タミヤの社長でもある田宮俊作氏(84)がITmedia ビジネスオンラインの単独インタビューに応じた。

ミニ四駆の生みの親である田宮社長は、世界で高く評価されている日本のプラモデル業界を草創期からけん引してきた。現在ミニ四駆は日本だけでなく東南アジアなど海外でも高い人気を誇っている。田宮社長にプラモデルの現状、そして令和時代を迎えた日本のプラモデルの「未来」を語ってもらった。

子どもの7割がプラモ未経験!?
――まず教材協同組合の理事長として伺います。今回のホビーショーでは新しい試みとして小中学生、高校生を招待されたそうですね。

かつて男の子の通過儀礼といわれたプラモデルですが、今の子どもたちは7割以上が作ったことがないどころか、触ったこともないといいます。だったらホビーショーに招待し、存分に見て、触ってもらおうじゃないかと思い、企画しました。これは

静岡県の川勝平太知事の発案です。

川勝知事が2018年のホビーショーに初めて見えた折に、「田宮さん、これは学生に見せなきゃだめだ」と言ってくれました。ただスペースも狭く、混雑した会場に学生や生徒を呼ぶのは困難で、やるからには会期を延長して招待日を作ろうということになりました。会期延長には費用も掛かりますが、そこは県もサポートしてくれました。

結果、小中学生、高校生を招待したのは大成功だと思っています。プラモデルがどのように作られるのか、原材料はどんなもので、どのように射出成形されるかを見せ、さらにその組み立て方から遊び方まで見せました。子どもたちがもう目を輝かせてプラモデルに食いついている。僕らもうれしくてね。子どもたちがプラモデルを取り囲んでいる姿なんて、何年ぶりかと(笑)。引率してきた先生たちも楽しそうでしたね。

結局、招待日は5月8日の1日だけでしたが、静岡県内から5200人の小中高生が集まってくれました。これは来年からもやっていきたいと考えています。

――近年、インターネットやSNSの普及で、こうした見本市は減少しているということですが、静岡ホビーショーは盛況ですね。

今回新しく設けた小中高生の招待日を別にして、4日間の会期のうち、2日間が代理店、小売店を呼んでの商談会、あと2日間が一般客への公開日になります。今回の入場者数は8万人以上になるでしょう。プラモデルの国際見本市としては毎年2月にドイツのニュルンベルクで開催されるシュピールヴァーレンメッセが有名です。ただこれは国際玩具見本市で、その一部でプラモデルの展示が行なわれているわけで、プラモデル、ラジコンに限った見本市としては静岡ホビーショーが世界で一番大きいかもしれません。

かつては米国や英国でもプラモデルの見本市が開かれていましたが、もう無くなってしまいました。僕は31歳から米国を回っていましたが、もうプラモデルメーカーそのものが米国では無くなってしまいましたからね。

シュピールヴァーレンメッセにタミヤは51年前から出展していますが、近年はメッセそのものに出展する企業が減り、会期も短くなっています。タミヤはプラモデルのブースでは一番大きいのですが、メッセそのものは退潮をしているという感は否めませんね。

減少するプラモ見本市
――なぜ見本市が減っているのでしょうか?

インターネットの影響もありますが、私は見本市の開催者の知恵が足りないからだと思っています。入場料が高かったり、もっと人を呼ぶ工夫も必要ですし、メッセそのものの開催意義を考え直す必要があると思います。

プラモデルは近年小売店が減って、メールオーダーが増えているといわれますが、やはり実物を見てみたい、触ってみたいという欲求が顧客にはあると思います。そのためにも見本市は必要でしょう。

またホビーショーの商談会の期間中、タミヤでは小売店の皆さんにタミヤ本社に来てもらって、ホールで懇談するパーティーを行っています。普段接することができない小売店の方たちの生の声を聞けるのは、何ものにも代え難い価値のあるものです。

――海外からも多くの客が足を運んでいると聞きます。

今年は世界20カ国近くの国から、バイヤーがホビーショーを訪れました。もともと、シンガポール、台湾、韓国、インドネシアなどの東南アジアの国々からは熱心に来てくれていたのですが、最近ではドイツ、米国、フランス、英国などからも商談に見えます。訪れたバイヤーはみんな「本当に来て良かったです」と言ってくれます。静岡ホビーショーに来ると、何か得ることがあるのだと思います。その「何か」は人によって違いますけどね。静岡ホビーショーが「世界のホビーショー」となりつつありますね。

最近感じるのは、ユーロ圏では経済が強い国だけが生き残っているということです。オランダやベルギー、ギリシャに加えてスペインなどでは、取引先がなくなってしまいました。代理店も全てなくなってしまった。プラモデル産業の中でもグローバル化がこれだけ進んでいるということです。僕は「グローバリズムの失敗」だと思っています。ユーロ圏は文化も言葉も違いますから、全ての国が生き残るのは難しいのでしょう。

平成は「ゲームに負けた時代」
――静岡ホビーショーのもう一つの魅力として、日本中のプラモデルファンが作品を持ち寄って展示する合同展があるとお聞きしました。

これは30年前から始まった催しなのですが、見本市会場の一部を使って、モデラーが自分の作ったプラモデルをサークル単位で展示するというものです。今年は293サークル、約1万点の作品が展示されました。この展示会の良いところはコンテストではなく、誰もが自分の作りたい作品を作って、展示できるところにあります。この展示会も海外から参加するサークルが増えていて、国際的なイベントになっています。すごい熱気ですよ。

――会場を拝見しましたが、確かに大きな盛り上がりを見せていました。これまで昭和、平成とプラモデルは子どもたちにとって必須のアイテムでしたが、令和という新時代、プラモデルはどうなっていくと思いますか。

これからのプラモデルがどうなっていく、なんて大それたことは言えないのですが、僕は年頭のあいさつでも「平成はゲームに負けた時代だ」と言ったのです。平成の後半はゲームに負けっぱなしでした。

令和の時代はプラモデルがゲームにぜひ打ち勝って欲しいと思いますよ。確かにゲームは面白い。でもプラモデルにはゲームにはないアナログさがあって、それが大きな魅力なのです。私は常々言っているのですが、日本のモノづくりはプラモデルから始まると思います。

今の子どもたちは7割以上がプラモデルを作ったことがないと言いましたが、プラモデルを作ることによって、カッターやドライバーの正しい使い方を知り、組立説明書をきちんと読む能力を身につけるわけです。そして何よりもプラモデルを作ることで「ああ、四駆ってこうなっているんだ」「自動車ってこういう構造になっているんだ」と実物を知ることができる。

最もアナログなプラモデルを作ることで、モノづくりの基本が身につくんだということを、ぜひ知って欲しいですね。アナログなプラモデルでヴァーチャルなゲームに対抗するんです。

「ミニ四駆」誕生の舞台裏 最初は「鳴かず飛ばず」
――ここからは模型メーカー、タミヤの社長として伺います。国産プラモデルは18年に60周年を迎えました。タミヤと言えばMMシリーズの戦車や、1/350の戦艦大和、1/32の零戦といった印象が強いのですが、ミニ四駆のシリーズが現在は大きな部分を占めていると聞きます。ミニ四駆やラジコンは自動車の会社ともコラボレーションしていますね。

トヨタ自動車さんや本田技研工業さん、マツダさんともコラボしています。子どものころからクルマの名前を覚えてもらう。それが日本の自動車業界の方針なのです。今日もトヨタさんの自動車を展示していますが、若者のクルマ離れにも一役買ってくれればいいと思いますけどね。

おもちゃというのは完成されているものですが、先ほど申し上げた通りプラモデルは自分の手で組み立てるものです。プラモデルを作ると自動車の構造もイメージできるようになりますね。

――事業的にもミニ四駆が占める部分は大きくなっているのですね。

確かに現在、戦車や飛行機といったスケールモデルというジャンルはなかなか厳しい。でも車は好調です。ミニ四駆はスケールモデルではなくて、モーターで走らせる四輪駆動の車です。デザインは実車をデフォルメしたものもありますが、ほとんどが架空のデザインです。それをコースで走らせてスピードを競う。

ミニ四駆の最初のキットを作ったのはもう30年以上前です。当時、実際の車で四駆ブームがありました。アウディのクワトロが話題になり、四駆専門の雑誌も出ました。「これは四駆の時代が来たかな」と思い、だったら子ども向けにも価格が安い「走る四駆の模型」を作ったらどうかということで、ミニ四駆というものを考えたのです。

当時ラジコンカーでも四駆の商品が出ていましたが、子どもたちは高くて手が出せませんでした。送信機だけでも1万円以上、全部含めると2万円以上はしましたので。だからみんな指をくわえて見ていたのです。そこで「子どもでも手に入る四駆は何だろう」と考えて作ったのがミニ四駆でした。もともとタミヤでは昭和40年頃にスロットレーシングカーを作って世界で売った実績がありましたから、走る車の模型を作るのはお手の物でした。

――子どもをターゲットにしたのですね。

ところが実際に販売してみると、鳴かず飛ばずでした。がっかりするくらい売れない。ジープ好きで有名なアニメーターの大塚康夫さん(編注:『ルパン三世』なども手掛けたアニメーター)にアドバイスしてもらって、コミカルミニ四駆なんて作りましたが、これも小ヒットということころでした。

試行錯誤の末、スピードに特化したら、爆発的に売れました。小学館の『コロコロコミック』とのコラボなどもありましたが、子どもが求めているのはスピードなのだと分かりましたね。それで専用コースを作って、競技会をやるようになった。そうすると子どもたちはスピードを上げるためにいろいろと工夫する。車体のカバーを極限まで薄くして軽くしたり、逆にコーナーで安定性が出るようにシャーシを重くしたり。子どもは遊びの天才だと思いましたね。それで昭和の終わりと平成の6、7年くらいの2回にわたって大きなブームが来ました。

東南アジアで『ダッシュ!四駆郎』が放映
――それはよく覚えています。その頃ミニ四駆で遊んだ子どもたちが現在、30~40代のお父さんになっているわけですね。

そのお父さん方がまたその子どもと一緒にミニ四駆をやっている。父親が子どもにモノづくりを教えるなんて、今はこのミニ四駆くらいしかない。しかも最近はお母さんも娘も一緒になって、家族ぐるみでミニ四駆を楽しんでいるといいます。競技会に家族そろって来ている姿を見ると私はうれしくてしょうがない。

ミニ四駆は、いくつかのブームを経て、現在は安定期に入っています。中心となるお客さんは小学生から30代、40代のお父さんまで幅広い。タミヤではミニ四駆の競技会として「ジャパンカップ」という全日本選手権を毎年開催していますが、それ以外にも大型ショッピングモールや、家電量販店、カーディーラーと組んでミニ四駆のイベントをやっています。子どもたちを集める優良イベントと判断してもらっているからでしょう。

海外でもミニ四駆は好調です。東南アジアは『ダッシュ!四駆郎』のアニメが放映されたこともあって、インドネシアや香港などで人気ですし、最近はニュージーランドや米国からもオファーがくるようになりました。ミニ四駆が世界を席捲(せっけん)している感じですね。

「理想の教材」プログラミングロボット
――今回、モノづくりを通してプログラミングを学ぶ子ども向けの「プログラミングロボット」の展示を見ました。これは新しい試みですね。

もともと静岡模型教材協同組合という名前からも分かることですが、静岡のメーカーにとって、模型の教材は昔から取り組んできたものです。タミヤでも「楽しい工作シリーズ」という子ども向けの教材シリーズに取り組んできました。ソーラーカーやムカデロボットなどはヒット商品で今でも売れています。

今回のプログラミングロボットは、2020年から小学校でプログラミング教育が必修化されることに合わせて企画されたものです。最新のものは教育用のマイコンボードを搭載、PCからコントロールして動かすことができます。このロボットは楽しみながらプログラミングが学べる理想の教材だと思います。最近タミヤが出したキットは1万円程度と少々高いのですが、電子基板が入っています。どれだけ売れるかは分かりませんが、海外のバイヤーからも高い評価を受けています。

――こうしてお話を聞いていると、新しいプラモデルの方向性がおぼろげながら見えてきますね。

先ほども言いましたが、日本のモノづくりの伝統はプラモデルを作ることから始まると思います。ミニ四駆は韓国やシンガポール、香港などでは学校の授業で使われています。ところが日本では残念なことに「特定のメーカーのものは授業に使えない」といわれてしまいます。

プラモデルは子どもたちの教育にも役立つし、想像力を育む。同時に切ったり、削ったり、組み立てたりとモノづくりの基本を教えます。新しい時代に新しいプラモデルの楽しみ方を提供できるように頑張っていきます。令和は「プラモデル逆襲の時代」にしたいですね。

求める人材像は?
――最後に、ユニークな才能ある社員がたくさん在籍しているタミヤですが、現在はどのような人材を求めていますか?

どこの学校を出ているかは全然関係ないですね。とにかく模型やプラモデルを好きな人がいい。最近は自動車会社など他の会社から転職してきた人も活躍しています。

僕は良く新入社員にも「タミヤがイヤになったらすぐに辞めていいよ」と言っています。だってその仕事を面白いと思えない人は、結局いい仕事ができないんです。そうでしょ?

学歴は関係ないのですが、できれば大学は出てもらいたいと思いますね。教養は部下を指導するときに役立ちますから。僕も大学で学んだ一般教養科目はいまだに役に立っています。自然科学論とかね。大学は単位を取るだけのところじゃないんです。やっぱり勉強というものはいいものですね。

(フリーライター 小林昇)