幻の「芋酒」100年ぶり復活 沖縄の泡盛業者「地元の素材で農業振興にも」

沖縄の泡盛メーカーが、かつて沖縄で庶民に親しまれながらも大正末期に途絶えたサツマイモが主原料の蒸留酒「芋酒(ンムザキ)」を、現代の製法で約100年ぶりに復活させた。「イムゲー」と名付け今年8月から沖縄県内を中心に本格販売を始めたところ反響は上々で、来年はさらに数社が製造に加わる見込み。泡盛の販売はこのところ低迷しており、「幻の酒」が救世主となるか業界で期待が集まっている。
沖縄の酒といえば「泡盛」が有名だが、琉球王朝時代は製造が厳しく管理され、上流階級しか口にできなかった。その代わり庶民に普及していたのが芋酒だった。米作りが難しかった沖縄では、17世紀前後にもたらされたサツマイモが主食となり、家庭でも酒造りに使われた。1896年の県の統計によると、泡盛の製造拠点が約270戸だったのに対し芋酒は7500戸以上で造られていた。
だが、1899年に家庭での酒造りが禁止されると、芋酒は大きな打撃を受けた。また、泡盛が増産され安く流通するようになったこともあり、約100年前には離島も含め造られなくなり、その存在も忘れ去られた。
復活のきっかけを作ったのは、県工業技術センター(同県うるま市)で発酵などを研究する豊川哲也主任研究員。約10年前、大正時代の泡盛の製法をまとめた本の中に、芋酒の記述を偶然見つけた。東南アジアに広まる製法が使われていたことに興味を持ち、調べを進めると他にも複数の製法があったことが分かった。

そのなかから現在の泡盛の生産技術を活用できる製法を選び、石垣島の泡盛メーカー「請福酒造」の漢那(かんな)憲隆社長と共同で再現に乗り出した。米を発酵させるところまでは泡盛と同じだが、そこにサツマイモを加えさらに黒糖を加える「3次仕込み」と呼ばれる手法を採用。その結果「サツマイモの甘い香りとさわやかな飲み口の後、黒糖のどっしりとした味が来る」(豊川さん)という風味に仕上がった。
同時に他メーカーにも呼びかけたところ、「多良川」(宮古島)と「久米島の久米仙」(久米島)が手を挙げ、製造を始めた。泡盛の出荷量は2004年の2万7688キロリットルをピークに14年連続で減少。そんななか、イムゲーは請福の製造分(720ミリリットル)8500本が発売約3カ月でほぼ完売するなど人気を集め、販売減に悩む泡盛業界にとって期待の新商品となっている。
請福などメーカーでは、イムゲーの原材料には地元の農産品を使うよう取り決めているが、昔に比べ沖縄のサツマイモ生産は少なく大量生産できない。そのため、イムゲーの価格は泡盛の2~3倍程度と「まだ庶民の酒とは言えない」(多良川)状況だ。だが、請福の漢那社長は「泡盛に並ぶ地酒として定着させたい。地元のサツマイモや黒糖を使うことで、農業振興にもつなげたい」と意気込んでいる。【高橋慶浩】