【時任兼作】ヤケクソ「解散総選挙」の是非で、安倍首相と菅官房長官に「隙間風」 強行派の安倍、慎重派の菅

税金が投入された公的行事である「桜を見る会」に関する安倍首相への追及は、12月9日の臨時国会閉幕で一段落した。だが、その数日前まではまったく様相が異なっていた──。
「解散・総選挙の準備に入った。(総裁)4選がないというのはブラフだ」
ある政府関係者は、安倍晋三首相が繰り返してきた「4選はない」との発言を完全に否定した。

首相は11月15日夜、東京都・丸の内の日本料理店「和田倉」で日枝久・フジサンケイグループ代表と会食した席上、「桜を見る会」について「ちょっとずさんだった」と語る一方、同会の前日に開催された夕食会は「私にやましいことはない」と述べたという。
また首相は、来年の開催を中止する旨述べたものの、「再来年は開く」「自分が(首相として)いるかいないかは別にして」と付言。総裁4選については明確に否定し、「党則で(連続3選までと)決まっている」とした。
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前出の政府関係者が続ける。
「腹の底では、別のことを考えていたはずだ。本音は、『夕食会はまずかった』『このままでは政権が持ちそうにない』『この際、解散・総選挙に打って出て、4選だ』というものだ」
永田町筋も同様の見方をする。
「今回はまずいと痛感したのだろう。やはり後援会の招待者が多かったのは、問題だ。公私混同どころか、税金を使って有権者にアピールしているようなもので、公職選挙法に反する疑いがある。招待者の名簿を早々に廃棄したことや、昭恵夫人に招待枠があったこと、招待者の中に反社会的勢力やマルチ商法で問題となった人物らがいたことなども由々しいと言わざるを得ない。
それから前夜祭。出席者がおのおの5000円をホテルに直接に払った、自分たちは食事をしていない、乾杯の際の飲み物はタダなどとしているが、あまりに不自然だ。国会ではいつまでも追及が続くだろうし、国民も認めないだろう。で、こうしたことを一気に吹き飛ばしてしまうために解散に出ようとしている」

もっとも、したたかな計算も働いているようだ。永田町筋は、こう付け加えた。
「いまなら勝てるとの判断もある。まだ野党がまとまらないからだ。民主党政権時のウソと混乱が、国民の記憶に焼き付いている点も有利に働くと踏んでいる」
そして、霞が関。役人らは異口同音に、こう口にする。
「選挙になるだろうが、首相は4選を見越して構えている」
政官界の大勢は解散・総選挙に決しつつあるかにみえた。
ところが──。
いきなり菅義偉官房長官がトーンダウンし、解散反対の意思を鮮明にしている。
「いま解散するのはまずい」
首相も自民党中枢も解散へと傾くなか、ひとり異を唱え始めたという。
前出の政府関係者は、こんな解説をする。
「公明党の動きを懸念してのことだ。菅原(一秀)や河井(克行)の件で、公明党は菅グループに対して厳しい目を注いでいる。それに加えてカジノだ。菅が横浜や大阪のカジノ誘致に暗躍していることが、公明党、とくに支持母体の創価学会婦人部の不興を買っている。
いま解散・総選挙となったら、公明票は期待できない。河井、菅原はもちろん、ほかの菅に近い議員の多くも当選が危うい。だから強硬に反対している」

実際、菅原、河井両氏に対する創価学会の不興は著しいようだ。別の永田町筋が語る。
「(ふたりは)とにかく行状がひどい。これじゃあ応援ができない、そもそも反省が足りないなどといった批判の声が聞こえてきている」
まずは菅原氏。菅長官を支持する議員の勉強会「令和の会」をまとめ役として立ち上げ、その見返りに経済産業相の座を射止めたともいわれるが、そもそもその媚び具合に嫌悪感が募っている。加えて、抱える数々の問題もマイナスに働いた。秘書給与ピンハネ疑惑、秘書の酒気帯び運転と事故、「視察」と称する愛人とのハワイ旅行……。
最終的に、週刊文春に報じられた有権者買収疑惑が決定打となり、経産相は辞任したものの、その後だんまりを決め込んでいるため、嫌悪感はいや増している。
一方、菅長官を囲む「向日葵会」を発足し、当選同期にもかかわらず菅長官に恭順の意を示して法相に抜擢された河井氏も数々の問題を起こしている。秘書に対する暴行疑惑、パワハラ疑惑、さらには警察容認のもとでのスピード違反……。
法相辞任のきっかけとなった、公職選挙法違反疑惑への関与もいただけないようだ。妻の河井案里参院議員が選挙の際、運動員に法定の上限を超える報酬を支払ったというものだが、これを主導したのは河井氏とみられている。辞任後は頬かむりをしているため、やはり創価学会の不評が高じている。
「菅原は媚び、河井はふんぞり返っている、いずれも鼻持ちならない、政治家の器ではないと(創価学会は)みている」
別の永田町筋は、そう指摘した。おりしも、秋元司衆院議員の事務所に東京地検特捜部の家宅捜索が入り、さらに事態を悪化させた。創価学会婦人部がかねて問題視する、カジノに絡んだ収賄容疑での立件を視野に入れての捜査だからだ。菅氏の苛立ちは倍加したという。

菅氏が公明党や創価学会の動向をこれほど気にするのも無理はない。前出の政府関係者が言う。
「近年の自民党の選挙は、公明党ひいては創価学会に依拠する部分が大きい。そもそも小選挙区制のもとでは、接戦となれば公明党の動きが勝敗を左右しやすいところにもってきて、議員が泥臭いどぶ板選挙を避けるようになった。手堅く、かつある程度の票数が期待できる公明票なしには、なかなか選挙は勝てない。その現実を菅はひしひしと感じている」
11月28日、東京・赤坂のふぐ料理店「い津み」。安倍首相はめずらしく公明党の山口那津男代表と2人で会食をした。解散・総選挙への瀬踏みとみられた。
しかし、月が替わると、野党の追及を凌ぎ切ったとの安堵感が自民党内には広がった。安倍首相もひとまず、「森友・加計問題」の際と同様、このまま素知らぬ顔で政権を継続する腹を固めたかにみえた。
とはいえ、解散・総選挙説は依然、くすぶっている。
「(解散は)話題に上らなくなった時にするものだ。そもそも、安倍首相がこのまま総裁選の任期の2021年まで選挙なしで行くとは思えないし、来年の東京五輪前後は状況からすると難しいことを考えれば、そんなに先延ばしはできないのではないか。格好の解散理由を模索している向きもある」
あるベテラン議員はそう語る。解散はつねに首相の胸先三寸で決まるものだが、安倍首相は女房役・菅官房長官の懸念と異論をどうさばくつもりか。2020年の政局への影響が気になるところだ。