適応障害の先生に「明日、授業できる?」 現役中学教員が語る「管理職の能力が低い学校はどう壊れていくのか」

ブラックな労働環境、厳し過ぎる部活動、なくならないいじめ………。子どもの成長を支える学校を巡って、ニュースではさまざまな問題が取り上げられています。実際に働いている教員は、どのような思いを抱いているのでしょうか。

本記事は、公立校の中学教員に「一般教員として感じている“学校の問題点”」を語ってもらう連載企画。今回は「管理職のミスによって起こる学校崩壊」について、Aさん(仮名)にインタビューしました。

●事例:管理職の人事ミスで、新人教員が2年足らずで病休

A:まず「20年後、公立中学校がヤバいことになるかもしれない」という話をしたい。

前にも話したけど、「教員志望者が減る→採用倍率の低下」という動きがあって、今後、教員の質が維持できるのかという問題がある。

20年後というのは、今の20代が40代になる頃だよね。今の管理職(教頭、校長)は高倍率を突破した“選ばれた人たち”で比較的能力があると思うんだけど、低倍率で入ってきた若い世代が管理職に就いたときどうなるのか。しかも、教頭の仕事なんてすごく大変だから、やりたがらない若者が増えている。でも、管理職がないと学校は回らない。イヤイヤ管理職に就くケースも増えていくと思うんだよね。

そういう状況で、校長、教頭の質が維持ができなくなったら……という。

―― 管理職がうまく学校運営できないと、どういうことが起こるの?

A:俺が聞いた事例を紹介しようか。「管理職の人事ミスから、ある学校で英語の授業ができなくなった」という話。

名前は伏せるけど、これは英語の新人教員Xさんから聞いた話。その人はある年の4月、ある学校に赴任。3年生の副担任をしながら、ベテランの先生について授業の仕方を学ぶ予定だったそうなんだけど、英語教員4人のうち1人がすぐに病休に入ってしまって、Xさんは急きょ2年生の授業を受け持つことになったらしい。

―― 3年の副担任なのに、授業は2年生?

A:4月の人事でつまづいて、管理職がうまくまとめられなかったんだろうね。結局、管理職は「新人教員を2年生の副担任に変更する」という判断をしたそうだ。年度途中に担当学年を変えるというのは、普通に考えたらありえない対応。

そのせいで新人教員は夏休み明け「自分は2年生、3年生どちらの学年会議に出ればよいのか」が分からなくなり、管理職に聞いたら「俺も分からない」、3年生の学年主任は「あなたはもう2年生の担当」、2年生の学年主任は「私たちは何も聞いてない」と。職員室で一人ぼっちになってしまったらしい。

●適応障害の診断書を持っていったら「明日、授業できる?」

A:次の4月、新年度になったら英語の教員はまた4人に増員されたものの、管理職はまたおかしな人事決定をしてしまい、妊娠している教員に一学年持たせたそうだ。

当然、その先生は出産が近づくと産休を取得。新人教員のXさんはその埋め合わせとして、また年度途中で担当学年を移るように指示されたという。産休取得の2週間前と時間がないうえに、引き継ぎも何もされていなかったと聞いてる。Xさんはそこで心の限界が来てしまって、病休を取得したって。

―― 産休と病休。残りの英語の先生、2人だけになっちゃった

A:英語の授業は自習続きになってしまったけど、新しい教員は何カ月も見つからなかったらしい。実はその学校、2年間で何人も病休が出ていたそうだから、警戒されてしまったのかもしれない。

Xさんが適応障害の診断書を持っていったら「明日、授業できる?」と聞かれたって。よほど困ってたんだろうね。

●「神戸教員いじめ事件」のような教員間のトラブルは珍しくない?

A:とまあ、管理職の能力が低いとこういうことが起こるわけ。

ニュースになった神戸の教員いじめ問題(※)も、管理職がマズい事例の1つだと思ってる。校長が「やられてるやつの気持ちを考えろ。処遇案件だぞ」としっかり言える人だったら、あんな大事にならなかったんじゃないかな。

※神戸の教員いじめ問題:神戸市立東須磨小学校の教諭4人が、後輩である男性教諭にいじめを行っていた問題。「羽交い締めで目にカレーをこすりつけられる」「車内に飲み物をこぼされる」など多岐にわたるハラスメント行為があったという。なお、一部報道では「いじめ」ではなく、「暴行・暴言問題」「教員間暴力」などといった表現が用いられている。

ただ、あの件に関しては、もう1つ“構造的な問題”が気になっていて……。

―― というのは?

A:あの被害者教員はもともと「初任者」としてあの学校に入ってるんだよね。「試用期間の正社員」みたいなものなんだけど、教員の場合は“試用期間”が1年間続く。その間は校長が「この人、教員に向いてないな」と思えばクビにできる。

だから、他の教員に対して反発しにくい。職場の雰囲気を乱すダメなヤツだと思われたら、マズいから。それで我慢していたら、職員室のカーストが一番下になってしまって……というケースだと思う。

―― ああいうレベルの職員間のいじめって、珍しくないの?

当然、日本中の学校のことを知っているわけではないけど、ああいう問題は全国各地で起こっているんじゃないかなあ。俺だってヒドいことをされた経験があるもん。明日必要なプリントのデータがいつの間にか消されていて、困っていたら他の教員から「お前、愛されてるなあ」と言われたり。

加害教員たちはかなり厳しい処分が下りそうな流れだけど、そしたら他の学校にも影響が出るかもね。例えば、懲戒免職になってその処分が前例になったら、けっこうな数の教員のクビが飛ぶかもしれない。

(続く)

※本企画は、現役教員の声をそのまま記事化したものです。実際の労働環境などは自治体、学校などによって異なる可能性があります。