徴用工問題で韓国の文喜相国会議長が提案していた「1+1+α(日韓企業+個人による募金)」案が12月18日、韓国国会で発議された。
文議長は発議前、自身を除いた294人の国会議員にこんな手紙を送っていた。
「法案が成案される前にメディアを中心に論争が多くありましたが、法案を読めば私が提案した解決法が被害者を実質的に支援すると同時に韓日関係を改善する端緒になると共感できるでしょう」
しかし、共同発議者となったのは、文議長を含め与野党議員合わせて14名だった。
「来年の選挙を考えてほとんどの議員が及び腰だった」と中道系紙記者は言う。
「文議長が手紙まで送り、呼びかけましたが、結局、同意したのは13人。いずれも来年の総選挙に出馬予定がなかったり、(発議案に)同意しても“被害”が及ばないとした議員ばかりです。話を聞いたある与党議員は、『法案の趣旨には賛同するが、市民団体の反対が強くて、来年の選挙の影響を考えると立場を表明するのは難しい』と話していました」
発議前には、韓国全国の23の市民団体で作られたグループ「強制動員問題解決と対日過去清算のための共同行動」が法案に反対し、国会議員全員に電話をかけたり、FAXや書簡を送るなどの抗議活動を行っていた。また、元慰安婦を支援している「正義記憶連帯」は「日本政府に免罪符を与える『文喜相案』を白紙化すべき」という声明書を出している(12月11日)。
しかし、こうした市民グループが議長案に反対している一方、被害当事者とその遺族たちで作られた「日帝強制動員犠牲者遺族協同組合」は議長案への支持を打ち出している。
発議後の翌12月19日。
「日帝強制動員犠牲者遺族協同組合」は文議長法案を支持する11000名余りの署名からなる「声明書」を文議長に提出した。同組合は2007年、盧武鉉元大統領時代に「徴用工当事者もしくはその遺族」と認められた23万人により作られた組織だ。
これに先立つ11月26日にも同組合の各地域代表など40名あまりが集り、文議長法案を支持することを明らかにしていた。A4用紙2枚に書かれた声明書の一部を抜粋する。
「1日も早く文喜相議長の法案が国会を通過し、被害当事者が亡くなる前に実質的な遺族支援が行われなければならないと強く主張し、どんな否定的な勢力も断固として排斥しこれと闘うことを警告し、重ねて警告します。
被害当事者ではない一部運動圏の市民団体がこれに便乗し、自分たちの生活の糧を継続させようとこの法案に反対している現実に、運動圏の市民団体はここから抜けてもらうよう強く勧告し、被害当事者が彼らを排斥し、以降強く制裁することを明らかにします」
激しい表現で書かれているが、「それだけ市民団体や弁護士との溝が深いということ」だと前出記者が解説する。
「組合と、被害当事者を支援する市民団体や代理人となっている弁護士は今や“場外戦”を行っています。
組合には名指しで市民団体や弁護士を非難する人も多く、声明書にもあるように、『(市民団体や弁護士は)自分たちの生活手段がなくなるから、どんな法案がでてもすべて反対する。当事者である私たちは生きているうちに補償されれば名誉回復できると思っている』という声が出ている。市民団体や弁護士が要求し続けてきている『日本政府からの謝罪と補償』とは温度差があります。
文議長案には積極的に賛成の意思を表明していくと言っており、反対しているのは直接の被害者ではなく市民団体や弁護士だとはっきりと公言し始めている。これは異例です。
被害当事者も遺族も高齢化が進んでいて、ともかく1日も早い解決を望む声が強い」
世論も概ねこの法案に賛成しているという結果も出た。
発議後に行われた世論調査では、賛成するが53.5%、反対が42.1%という結果もでており(世論調査会社「韓国リサーチ」)、また、積極的に募金するとした人は54.3%だった。
発議後、被害者側の賛否も衝突する中、法案が立法化にこぎつけられるかどうかに関心が移っている。
韓国国会内では、処理しなければならない選挙法改正案などの法案が山積みの状態で、果たして来年の5月に終了する今の第20代国会内で立法化が可能か懐疑的な声もでている。
肝心の青瓦台(大統領府)では20日、定例の記者へのブリーフィングで否定的な見解を示したと伝えられたが、「被害者第一という点を強調しているだけで必ずしも否定的ではない」(前出記者)という声もある。
文議長は22日、国会議長のホームページにこう書き込んだ。
「日本の謝罪は政治的なもので、首脳間の合意や宣言に盛り込まれる」
24日の日韓首脳会談では、果たしてこの問題を巡りどんな話が往来するのか。
そして、「被害者ファースト」を掲げる文在寅大統領は、被害当事者たちの声を聞くのか、それとも、市民団体の声を優先するのか。選択が迫られている。
(菅野 朋子)