日本郵政の元凶は「多すぎる郵便局」と考える、これだけの理由

高齢者を言葉巧みにだまし、詐欺のような契約を結ばせた者は褒めたてられ、その一線を越えられぬ者は「お前は寄生虫」などイビり倒される――。

どこぞの振込詐欺グループの話ではない。かんぽ生命の営業現場の日常風景である。おじいちゃん、おばあちゃんが絶大な信頼を寄せる「郵便屋さん」がなぜオラつく半グレのようになってしまうのかといえば、トップのコワモテぶりが影響している。

日大、ボクシング協会、JOCなど、風通しの悪い組織を恐怖とパワーで束ねる「ドン」という人種が、実は日本郵政にも存在している。この人は「影の社長」なんて呼ばれるほどの権力を有し、天下のNHKにカチ込んで、放送を差し止めたなんて武勇伝もまことしやかにささやかれているが、何よりもすごいのは、監督官庁である総務省のトップからこっそりと行政処分案を聞き出してきたこと。表の世界のトップが、影のフィクサーが裏ではポン友だった、という漫画『サンクチュアリ』(小学館)を彷彿させるようなことが現実に起きていたというわけだ。

では、トップから現場まで脱法・違法行為が当たり前となっているこの組織を、どうすればカタギへ更正させることができるのか。民営化が失敗なのでやはり国営化すべきと、崩壊寸前の社会主義国家のような主張をされる方もいらっしゃるが、立派な大新聞の社説などを見ると、経営体制の総入れ替えなどをして、組織のあり方を根本から変えるべきという意見が多い。

「経営体制の刷新と企業統治の改善がすべての前提になる」(朝日新聞12月19日)

「リーダーシップのある新たな経営陣を起用し、体制を立て直す」(日本経済新聞12月21日)

「顧客本位の営業姿勢を徹底するには、一から出直す覚悟が必要だ」(読売新聞12月19日)

ただ、これはぶっちゃけあまりピンとこない。立派なジャーナリストのみなさんがおっしゃることにケチをつける気はサラサラないが、その程度のことで変われるのなら、そもそもこんなハチャメチャな組織になっていないはずだ。事実、住友銀行、三井住友銀行でリーダーシップを発揮して、「ラストバンカー」などとうたわれた西川善文氏でさえ、周囲が情報を上げないなど”裸の王様”と化して失意のまま日本郵政を去っている。

郵便局の数を大幅に減らす
リーダーシップや組織風土の改革という「ふわっ」とした話が通用しないのなら、どうすればこの組織を変えることができるのか。

みなさんいろいろな考えがあるだろうが、個人的にはこれ以上ひどいことにならないうちに、郵便局の数を大幅に減らしていくしか方法はないのではないかと思っている。

「出た! 弱者切り捨て! 郵便局がライフラインになっている過疎地の人間は死ねということか!」といきり立つ正義のネット自警団の方もいらっしゃると思うが、一応最後まで話を聞いていただきたい。

どんな辺境であってもそこで生活している人がいる限り、郵便局がある社会が「理想」であることは言うまでもないが、一方で今の日本は急速に進む「人口減少」によって、行政サービスでさえ縮小しているというシビアな現実がある。

現実を直視せず理想に固執する組織が、数合わせのための不正行為とパワハラに蝕まれていくのは、これまでもさまざまなブラック企業が証明しているのだ。

「ユニバーサルサービス」というものは、それを提供できる人手があってこそはじめて機能する。人が減っているのに、サービス網だけを広げたままだと、現場の負担は雪だるま式に増えていく。そのようなブラック労働が横行する中で、それでもなおサービス網の維持に固執すると、今度はどうなるかというと、不正に走る。詐欺でもデータ改ざんでもなんでもやって、サービス維持のために課せられたノルマをクリアしようとするのだ。

このような負のスパイラルに郵便局も陥っている可能性が極めて高い。過疎地の高齢者にユニバーサルサービスを届けるカネをつくるため、高齢者を食い物にするという本末転倒なことが起きているのがその証左である。この破たんしたビジネスモデルを見直すのは、すべての元凶である「郵便局」を、人口減少に見合う数へと整理・統合するしかないのだ。

典型的なブラック企業のスタイル
会計検査院の「日本郵政グループの経営状況等について」(平成28年5月)という報告書を読むと、現場が大変なことになっているのではないかといったことがうかがえる。これによると、日本郵政グループの従業員数は、特別会計時代の2002年に約27万人。それが14年には約22万人にまで減少している。

しかし、人員がじわじわと削られているのに、郵便局の数はほとんど変わっていない。報告書内の記述を引用しよう。

『日本郵便株式会社法施行規則(平成19年総務省令第37号)により、いずれの市町村(特別区を含む。)においても、一以上の郵便局を設置しなければならないとされていること、また、過疎地においては、19年10月から24年9月までは19年10月時点の郵便局ネットワークの水準を、民営化法改正法が施行された24年10月からは同月時点の当該水準を維持することを旨とすることが規定されていることなどから、郵便局数は14年度末の24,752局から19年度末の24,540局に僅かに減少した後、おおむね横ばいで推移しており26年度末には24,470局となっている』

この傾向は最近も変わっていない。日本郵政のWebサイトによれば、18年3月31日時点のグループ従業員数は19万3910人。一方、郵便局の数は2万4033となっている。つまり、02年から16年間で郵便局の数は3%ほどしか減っていないのに、グループ従業員は30%も減っている計算だ。

人はガクンと減っているのに、昔と変わらぬ高いサービスを提供せよ。この「無理」を「現場のがんばり」で乗り越えようとさせるのがブラック企業である。

「ブラックとかじゃなく、地域のインフラなのでもうからないからと簡単にやめられるわけがないだろ」というお叱りもあるだろうが、日本の人口はこの16年でおよそ100万人以上も減っている。02年に比べて宅急便などのサービスも飛躍的に充実し、高齢者の中にもネットやスマホを使いこなす人も現れた。簡易保険に代わる金融商品も山ほど登場している

これだけ時代が変わっているのだから当然、郵便局のニーズも減っているはずなのに、「2万4000」という数が変わらない。収益も減るのにこの巨大なサービス網を維持していくという「無理」を、果たして誰がツケを払うのかといえば現場、そう、かんぽ生命の販売ノルマを課せられた人たちだ。

数が増えたように見せる「粉飾テク」
ご存じのように、郵政民営化の基本的な考え方は、ユニバーサルサービスということで過疎地などにもあって、あまりもうけを生まない郵便事業を維持するために、金融・保険で稼いで金を突っ込むという構造である。

しかし当然、金融・保険も人口減少の影響を受ける。若者が少ないので新規契約者はなかなかつかまらない。だから、かんぽ生命のノルマかけられた人々は「二重契約」などのインチキに走った。1人の高齢者に契約を解除させて、無保険期間をつくって再び契約をさせれば、「新規」になる。人口減少社会の中で、数が増えたように外形的に見せる「粉飾テク」と言っていいだろう。

このような問題を解決する方法は究極的には2つしかない。日本の人口を増やすか、郵便局の数を減らすかである。残念ながら日本の人口減少はもう食い止めることができないので、後者しかない。ユニバーサルサービスをうたう以上、現在の郵便局を死守しなくてはいけないという原理原則は分かるが、それを死守するために高齢者への組織的詐欺行為、若者への陰湿なイジメなどが加速度的に増えていくことを踏まえると、果たしてどちらが社会へのダメージが深いかを考えなくてはいけない。

これこそが、郵便局は減らすしか道がないと筆者が考える理由だ。

総務省の郵便局活性化委員会の「諸外国の郵便サービス」(平成30年12月7日)によれば、日本の面積約37.8万平方キロメートルと近いドイツ(約35.7万平方キロメートル)の郵便局は1万3000局である。ドイツは日本よりも4000万人ほど人口が少ないことを差し引いても、2万4000局は明らかに多い。

日本郵便によれば、1日の窓口来客数が20人以下の郵便局は3448局。人口減少で利用者は減少していくなか、これまでのような「高齢者詐欺」も禁止されるので、金融・保険のカネで維持することも難しい。つまり、遅かれ早かれ運営が行き詰まるのだ。

ならば、「郵便局」という「器」にいつまでもこだわるのではなく、IT、コンビニ、宅急便など他の民間サービスを活用して、過疎地の郵便局がこれまで担っていた役割を次につないでいくほうが長期的な視点で見れば、はるかに希望があるのではないか。

郵便局を減らさないで済む方法
なんてことをいろいろと言ってみたが、実は郵便局を減らさないで済む方法が一つだけある。が、これは日本人には到底受け入れられない話なので、ハナからあきらめているのだ。参考にそれを言うと、「価格をあげる」のだ。

前出「諸外国の郵便サービス」の中では諸外国の郵便料金が比較されている。各国の封書料金が12年から上がっている中で、日本だけはビタっと据え置きで、しかも最安値なのだ。

『各国では郵便料金の引き上げが複数回行われているが、日本では2014年の消費税増税に伴う値上げを除けば、1994年以降封書の最低料金は据え置かれている』

本来ならば、サービス網を維持するのなら、他の国では当たり前のように行なっている郵便料金の引き上げをすべきだが、「低価格・高サービス」が義務教育のように骨の髄まで叩き込まれている我々日本人には、これが許せない。

日本人の賃金は、先進国の中でも際立って低くて、最近は外国人労働者からもバカにされている、なんて嫌味を言われても「賃金を上げたら日本経済はもうおしまいだ!」なんて天を仰ぐ人たちが社会の大多数を占めていることからも分かるように、我々はもはやサービスの価値を自分たちで上げていくことができないのだ。

価格が低いので、賃金も低い。加えて人口が急速に減っているのに、人口増加時代を生きてきた高齢者が満足するようなサービス網を維持しなくてはいけないので、若い労働者たちは上から「もっと安く、もっと高いサービスを」という支離滅裂なことを命じられる。それができないと殴られたり、「虫けら」と罵声を浴びせられたりする。だから、そういうブラックな現場では働きたくないと敬遠して、人手不足が深刻していく。

このあたりの負のスパイラルは、低賃金でバイトのなり手がいないのに、「24時間営業」や「ドミナント戦略」に執着するコンビニ業界を見れば分かりやすいだろう。

日本郵政は、この国の縮図
万国郵便連合(UPU)が各国の郵便サービス全般を数値化した指標がある。1位はスイス、2位はオランダで、日本は3位だった。その理由が先に、「諸外国の郵便サービス」の中で以下のように誇らしげに紹介されていた。

・郵便サービス品質が高く、他国に優れている

・ゆうちょ、かんぽのサービスも提供することで、国民の多様なニーズに応じている。

最近やたらとこういう話が多くないか。世界一の技術だとうたっていたら、実はデータ改ざんしていましたとか、世界一品質が高い、ニーズが山ほどあると宣伝していた企業、裏でインチキや粉飾していたとか。このような外見を取り繕って、実は裏では「数の帳尻合わせ」に邁進している巨大組織が、今の日本でボロボロ出てきている現実を受け入れて、その原因をもっと真剣に考えていくべきだ。

子どもがどんどん生まれる人口増時代につくったインフラやサービスを、高齢者があふれるこの世界で維持することが、本当に社会にとって幸せの道なのか。どこかで理想と現実の折り合いをつけるべきではないのか。

このあたりの問いかけは、高齢者の「チケット」でメシを食う旧来の政治家からは、いつまで待っても出てこない。ということは、我々社会の方からの動かしていくしかないのだ。

不可能な目標を掲げるあまりパワハラと不正が横行して、新しいリーダーが必要だとトップが代わってもまたしばらくしたら同じような過ちを繰り返す。日本郵政は、この国の縮図のようだと感じるのは、筆者だけだろうか。

(窪田順生)