ゴールドカードでも年会費が無料のものもあるなか、プラチナカード、ブラックカードと呼ばれる高級クレジットカードが、存在感を増してきている。注目なのが、ビジネスカードと呼ばれる法人向けのクレジットカードだ。
2016年に国内でサービスを開始したラグジュアリーカードは、プラスチックではなく金属製のカードを使うのが特徴。そして、17年11月に開始した法人向けカードは、前年比3倍近くまで成長しているという。同社の林ハミルトン社長、経営業務本部長の岩瀬太郎氏に聞いた。
――高級クレジットカードであるプラチナカードやブラックカードは年会費が高額だ。ラグジュアリーカードでも、チタンカードは5万円(税抜)、ブラックカードは10万円(税抜)となっている。
林 年会費の額で判断するというより、どのようなメリットがあるかで選ばれている。ラグジュアリーカードの定番は(年会費10万円の)ブラックカードだ。日本では黒がプレミアムのイメージもある。5万円のチタンカードの倍だが、倍以上のメリットが付いてくる。
――申し込まれる方の属性はどのようなものなのか。
林 比較的年収が高い方たちだ。最近では法人需要が高く、中小企業のオーナーが非常に多い。法人カードでは、会社の費用をすべて決済したいと、年間数千万円を使う人もいる。ラグジュアリーカードのゴールドの場合、キャッシュバックが1.5%、商品に交換なら3.3%と還元率が高いのでメリットがある。
――ラグジュアリーカードは2008年に米国でスタートし、海外初進出が日本だ。なぜ日本を選んだのか。日米での高級カード市場の違いはどんなところがあるか。
林 最初から日本を予定していた。富裕層マーケットは、米国、中国、日本が大きい。この3カ国を狙いたい。日本と中国は、いずれも新しいカード事業を始めるのが難しい。中国は外資系ブランドの参入が難しく、日本ではこれまでも外資系がチャレンジしてきたが、簡単には成功できない。
これまでの外資系カード会社は、日本マーケットのニーズが全体的に理解できていなかったのではないか。外資はグローバルでビジネスモデルを展開している。「米国ではできているのに、どうして日本でできないのか」といわれる。日本は、ユニークな国だ。それを理解したうえで、サービスを提供しなくてはいけない。
ラグジュアリーカードでも、米国ではトラベル系の優待が中心になっている。中国では、ウェルネス(健康管理系サービス)が富裕層にとっての課題だ。日本は、ダイニング、グルメにこだわっている国だ。圧倒的に、ダイニング系のニーズが多く、レストラン予約などのリクエストが多い。
――いわゆるプラチナカード以上のクレジットカードでは、レストランや旅行の手配をしてくれるコンシェルジュサービスが特徴だ。ラグジュアリーカードのチタン、ブラックでは?
岩瀬 同じセグメントの他社カードと違って、ラグジュアリーカードでは電話で自動音声応答を付けていない。いちばんイライラするのは、自動音声応答。皆さんお忙しいので、ここにこだわりを持とうと。米国では自動音声応答が入っているが、日本ではここは譲れない。
払った年会費に対してどう元をとるかを皆さん考えるが、コンシェルジュには自身でやらなくてもいいことをおまかせできるところに価値がある。例えば、家族構成を一度聞けば、子どもの年齢などに適したお店を案内する。好き嫌いもアレルギーも、データとして入っている。
ブラックカードとゴールドカードではメールでも依頼でき、24時間以内には返事が返ってくる。コンシェルジュというと恐れ多くて使いづらいと思うが、一人5000円とか3000円の予算で居酒屋の手配を依頼される人も多い。
――メールでのやりとりは評価が高いと聞く。チタンカードでの提供は難しいのか?
岩瀬 メールでのやりとりは書かなくてはいけないので、コンシェルジュの手間がかかり、サービス提供のコストが上がってしまう。チャットサービスなども検討はしているが、なかなか満足いくシステムにならない。
――レストランの予約以外に、コンシェルジュはどのように活用されているのか。
林 例えばホテルのウェイクアップコールを信用できないので、コンシェルジュに電話を依頼するお客さまもいた。家族の記念日を忘れないように連絡をもらい、併せてプレゼントの提案を依頼する人もいた。過去のログが残るので、プレゼントも同じものを贈らないで済む。
岩瀬 つながりやすさに気を配っている。会員専用のアプリからタップして電話をかけられ、会員番号なども口頭で言う必要がない。海外での利用は特に便利だ。条件を伝えれば、宿泊しているホテルの近くでレストラン予約の手配までしてくれる。
――ラグジュアリーカードは金属製というのが大きな特徴だ。なぜ金属製にしたのか?
林 金属製はすごく珍しい。現在、毎日持って歩くものはすごく少なくなった。携帯とクレジットカードと現金くらい。その中でクレジットカードを持つなら、楽しみや喜び、そういうところを含めて、プラスチックよりも満足度、価値観を表示したいという意味で金属製のカードを開発した。
日本では、金属製のカードは、あるとしても招待制のカードだ。一般公開している中で、金属製カードは日本初。金属なので、電波も発生する。決済のときに電波が出たら決済できないなど、製造のプロセスも複雑だ。費用としても圧倒的に高い。日本では製造できず米国でアカデミー賞のオスカー像などを作っているところで仕上げている。
ラグジュアリーカードでは、最上位カードがゴールドだ。ほかのカードブランドとちょっと違う道を歩むということで、ヒエラルキーも含めて変えている。表面に純粋な24金を利用して仕上げている。100%金属だ。
すごく丈夫なので、カードの有効期限も5年間にしている。財布に入れても美しい輝きを保ったまま。家族カードも含めて金属製を提供している。もし紛失しても無料で再発行も行う。
法人向けクレジットカードというと、創業間もない企業では作れないというイメージもあった。しかし、ラグジュアリーカードを含め、昨今の法人向けカードでは、発行する個人に対して与信を行い、法人の銀行口座で決済を行うものが増えてきている。法人の決算書なども不要だ。高額な年会費も、法人ならば経費として処理できるほか、事業用費用をクレジットカードで払えば、ポイントも還元される。こうしたところが、中小企業のオーナーに評価されている。
金属製クレジットカードといえば、Appleが米国で発行を始めたApple Cardが話題を集めたが、国内での提供はこれからだ。初めて金属製カードに触れたが、重さは約20グラムと通常のカードの4倍あり、ずっしりとした質感は明らかにプラスチック製とは異なるものだった。
5万円、10万円という、ほかのクレジットカードと比較するのが難しいほどの年会費は、コンシェルジュサービスを使いこなせるかどうかにかかっている。10万円でも1日あたりに割れば300円程度という計算も成り立つが、「時間をカネで買う」という意識を持てるかどうかが評価の分かれ目となりそうだ。