東京五輪を初め、「新しい時代」を象徴する2020年がいよいよ幕を開けた。一年の初めにふさわしい企業経営者のインタビューをお届けする。多額の債務を背負い、債務超過で倒産寸前だったメガネ製造販売チェーンの「OWNDAYS(オンデーズ)」を30歳のときに買い取り、10年足らずで再建を果たした田中修治社長だ。
2018年に書き下ろした自伝的小説『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』(幻冬舎)はベストセラーとなり、若手のビジネスパーソンから圧倒的な支持を集めている。また、1月3日、4日、5日にはテレビ朝日で三夜連続の新春スペシャルドラマ「破天荒フェニックス」(主演・勝地涼)も放送中だ。
田中社長は起業家が日々実践すべきことに、「失敗を研究すること」を第一に挙げる。その理由として「成功はいわばアートのようなもので再現性はない。一方で失敗はサイエンスに近く、研究することに意味がある」と答えた。
成功した企業の戦略を学ぶ以上に、倒産した会社がなぜそのような道をたどったのかを検証する姿勢――。これこそが「起業家が成功する条件」なのだ。ITmedia ビジネスオンラインでは「あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る」を連載し好評を博したが、これに引き続く形で「気鋭の経営者が語る『失敗の法則』」を始めた。
第1回「『人生の“選択”には意味がない』――倒産寸前の会社を再建した『破天荒フェニックス』、OWNDAYS田中修治社長の経営哲学」では、OWNDAYSが海外に進出する際に何を大切にしていたのか、なぜ日本企業の海外進出はなかなか奏功しないのかを聞いた。田中社長インタビューの後編となる第2回目では、OWNDAYS再建時に大切にしていた考え方に迫る。聞き手はマネネCEOで経済アナリストの森永康平氏。
成功事例の共有には意味がない
――当メディアでも取り上げた、企業存続のための教訓を紹介する書籍『倒産の前兆』(SBクリエイティブ)について「勝ちに偶然の勝ち有り。負けに偶然の負けなし。成功するパターンはいくら学んでも再現できないけど失敗は管理できる」とTweetしていましたが、どんな感想を持ちましたか?
僕にとって失敗の研究はライフワークなんですね。読む本も失敗系の書籍ばかり。『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(ダイヤモンド社)などですね。難しかったけど原書も頑張って読みました。歴史物もかなり読みますね。それこそ、ローマ帝国がなぜ失敗したか。世界的に覇権国家ができては没落していく、という歴史も本を通じて学びました。
国家も企業も人間も、失敗のパターンってある程度はきちんと把握できると思うんです。一方、成功を再現することは難しい。多くの失敗は歴史や他者に学ぶことによって回避できる。だけど、成功は再現するのがとても難しいんです。
一言で言うと「成功はアート、失敗はサイエンス」といったところでしょうか。自分自身の今までの人生を振り返ってみても、うまくいったケースには、あまり汎用的な答えがありません。自分の環境を見ながら、その都度考えてやっていくしかない。一方、「失敗のパターン」というのは確実に存在するんです。特に企業経営においては、点を取りにいくんじゃなくて、いかに失点をせずに打席に立ち続けられるかが重要だと考えています。
小説を出してから、よく企業再生のコツを聞かれるんですけど、企業の再生にコツなんてありません。お客さまと社員の声を真摯に聞き、謙虚に真面目にできることをただ愚直に一生懸命やっていくだけ。「商売」というのは真面目に一生懸命やっていればうまくいくんです。ただ、それを会社全体に浸透させることがとても難しいんですね。
そして、その真面目な努力を皆で継続して続けていくことは、それ以上に難しい。商売というものは、どんな業界でも良いものを競争力のある価格で売ればうまくいく。ただそれ以外の部分に、失敗のワナが至るところに潜んでいる。それをいかにして避けるかが重要なんだと思います。
「カリスマ店員の極意」に再現性はない
―――企業を経営していると、人材採用が非常に難しいポイントになってくるかと思いますが、その辺りは?
そうですね。人を採用するときも、この人を採用したらどういうメリットがあるかというよりも、「この人は採用したらヤバいなっ」ていう人をいかに採用しないか。ここを重要視しています。1人ヤバい人が入社すると困ります。その人が財務・経理やシステムなど、会社の根幹を担う立場にいると致命傷になりかねない。
僕の場合、鍵になるポジションの採用は全て自分で面接をしています。会社が大きくなると会社のコア部分の採用も、誰かに任せるようになってしまう企業が多い。それで、いざ問題が起きると「そんな人がいたのか。誰が採用したんだ!」と怒る社長もいますが、どれだけ会社が大きくなっても、社長の仕事は人材採用が全てと言ってもいいと思います。それくらい失敗を避けるためには採用が大事なのです。
――自身で面接をする際、何を基準にしてヤバいかどうかを見抜くんですか?
言葉にはできない空気感があるんですよね。危なさというか。例えば、何十代で、何社転職していて、どこの媒体から来ていてとか……採用に関わるデータを集めて分析すると、一定の条件が出てくるんです。なので、システマチックにデータをもとにした部分と、長年の経験で培った勘を合わせながら判断しますね。
――確かにデータを基に判断することは重要ですね。採用について聞きましたが、顧客や社員に対しても何かデータや特別なルールを用いて運営していることはありますか?
メガネの価格は商品の価値が半分。そしてもう半分は、スタッフが生み出すサービスの対価だと思っているので、ただ単純にモノを右から左に動かしたら売れるというわけではなくて、店舗のスタッフがどれだけ適切に対応できるかがカギを握っています。
店舗スタッフの研修では、成功事例の共有はほとんどしないんです。よくある「カリスマ店員の極意」みたいなものは、ほとんど再現性がないんですね。あんなのは再現できません。売れる販売員は何をもって接客が優れているのかというと、販売員自身のキャラクターとお客さんとの関係性によってきますし、実はこれが何よりも重要なんです。
例えば、かわいい女性店員が、男性のお客さまに「すごく似合います―」って親しげに話しかけて接客したら売れたとします。でも、これを成功事例として文章にして研修しても……おじさんの店員が若い女の子のお客さまに同じ対応をしたら、下手すると
セクハラになりかねない(笑)。メガネ店の場合、お客さまも店員もさまざまな年代や性別が混在するので、成功事例を共有しようとしても、前提条件のパターンがあまりに多すぎるんです。
スタッフにとって最大のストレスは「客からのクレーム」
――顧客対応において前提条件のパターンが多すぎるというのはその通りかと思います。成功事例には再現性がない一方、失敗はパターン化しやすいですね。
逆に当社の場合は、クレームの発生ケースをかなり分析しています。そうすると、クレームに発展するケースにはかなりの部分で共通点があるんですね。例えば「20分後にできると言われたのにできていない」とか「保証の説明がなかった」とか「レンズの度数が合っていなかった」とか。お客さまの怒るポイントの多くは共通しているんです。
それならば、事前にそのケーススタディーを繰り返し学習させて、クレームになるようなミスを起こさせない。失敗はさせない。スタッフの立場から考えても「お客さまから怒られる数が減る」というのは非常に大事なんです。仕事をしている中でお客さまから怒られるのは、スタッフにとって最大のストレスですし、苦痛ですから。
当社では覆面調査員が店舗を年間4回ほど回っています。そうやって、全ての店舗の調査を続けています。
――そうなんですね。どんなところを見ているんですか?
チェックすることはたくさんあります。「何コール以内に出ること」といった電話の出方、新しい商品を入れるときに「これは塗装がハゲてしまう恐れがあるので、暑いところに置かないでください」といったことなど、発見した課題を具体的なマニュアルに加えていくんです。お客さまに対して「このフレームいいですよ」とアピールするだけでは不十分で、将来クレームになる可能性がある部分を先に伝える。特別な接客を求める前に、ヒドい接客をすることをなくしたい。
マックもスタバも吉野家も、大手のチェーン店が優れている点は、特別感動することはない一方で、ムカつく体験をすることもない。これって当たり前のようだけど、あの規模で維持するのは非常に難しいんですよね。個人経営のお店では時々スゴい感動することもある一方で、「2度と行かねぇっ」ていう体験をすることもある。だから、チェーン店を運営する会社において、成功事例の共有には意味がないんです。失敗の共有こそが重要。
OWNDAYSでは「失敗してもいいからやってみろ」はあり得ない。世間では「俺が責任取ってやる」と言う上司がカッコいいみたいな雰囲気もありますが、それは悦に入っているだけで会社にとっては意味がない。お客さまも嫌な思いをするし、怒られた社員も嫌な気分になる。「失敗は経験」といいますが、本当にそうでしょうか? 失敗をしないように最善の努力をしたうえでの失敗は責めないけど、最初から失敗を認める空気を作るのは全然違うと思います。プロなら失敗しないよう、常に最善を尽くさなければいけない。
男の嫉妬は質が悪い
―――「トップインタビュー」というこのサイトでは、働き方について、いろいろな経営者の方に取材をしているのですが、田中社長がこれまでに体験した仕事上の失敗経験と、その経験から学んだことを率直に教えてください。
「男の嫉妬はたちが悪い」ということですね。商売を始めたばかりのときに、1歳年上の男性(当時21歳)を雇っていたんですね。当時の自分は調子に乗っていて、自分の方が年下にもかかわらず偉そうに兄貴分を気取っていました。そしたら、実は裏では自分のことをすごく嫌っていて、いろいろなワナにはめられました(笑)。しかし当時の僕は、その彼が持っている二面性に全く気付けていませんでした。
別の人から聞かされたんですよ。「彼は会社の金を奪っている。社長のことを悪く言っているし、他の社員も辞めさせていますよ」って。会社をつぶそうとしているということなんですけど、当時は「そんなわけがない」と思っていました。でも、証拠が出てきた。それで、その夜に駐車場で問いただしたら、逆上して、「オレはお前が昔から嫌いだったんだよ」って。しかも、その理由が「好きな子をとられたから」っていう(笑)。
―――想像していたストーリーではなかったです(笑)。どうやったら男の嫉妬を避けられますか?
だいたい、男で反感を買う人っていうのは目上の人に礼儀がなっていないんですね。当社では年上の社員には全員「さん」を付けて呼んでいます。当社の役員なんて自分より年上ばかりですし。「命令すること」と「指示すること」は違いますし、「偉そうにすること」もまた違うんですね。
あとは、プライベートを出さないことですかね。金持ちアピールをしない。(ホリエモンこと)堀江貴文さんも「男の嫉妬はこわい」って言っていましたよ。ライブドア事件があったときに、堀江さんに不利な証言をしていた人がいたんですけど、彼がそうしていた理由は「自分だけ堀江さんにご飯に誘われなかった」という理由だったそうです。それ以来、僕はなるべく食事にはみんなを誘うようにしています(笑)。
(マネネCEO / 経済アナリスト 森永康平)