2020年に発行か? 中国が「デジタル人民元」に抱く、危険な野望

年末から年始にかけて、世界を揺るがすような大きなニュースが続いた。

まずは北朝鮮。2019年末を期限として米国からの妥協を引き出そうとしたが空振りし、次にどんな挑発行為をしてくるのかに注目が集まった。結局、年明けすぐに金正恩委員長が核や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験再開を宣言したという報道が国営メディアであったが、米国がレッドライン(超えてはいけない一線)と認識する核実験とICBM発射を北朝鮮が本当に実行したら、米朝の非核化交渉だけでなく米中関係そのものが完全に決裂状態になる。金正恩もそれをよく分かっているだけに、20年の動きに注目が集まっている。

それ以上に話題になったのが、イラン問題だ。米国がイラン核合意から離脱したことを受けて高まった緊張関係の中で、19年はイランが米無人偵察機を撃墜したり、核開発を再開するなどして挑発を繰り返し、12月27日にはイラン側が米軍関係の米国人を爆撃で殺害した。もともとイランに対して、米国人の死者を出すことがレッドラインであるとしていた米国が、報復としてイラン革命防衛隊のソレマニ司令官を爆殺した。これにより、米イラン関係の緊張が高まっているという状態だ。

「第3次大戦が起きるか!?」といった話も出ているが、その可能性は低いだろう。簡単に言うと、それぞれの国内情勢などを鑑みるとどちらも戦争はしたくないからだ。北朝鮮問題でもイラン問題でも主役であるトランプのこれまでの言動を見る限り、ゴタゴタするだろうが戦火を交えることは考えにくい。

このように世界が混迷する中で、筆者はあえて、こうしたニュースを尻目にじわじわと進展しつつある、もう一つの「脅威」に目を向けてみたい。

デジタル人民元、である。

1月6日、麻生太郎財務相は、全国銀行協会の賀詞交歓会に出席して新年早々こんなことを述べている。「中国の台頭に警戒感を示し、中国人民銀行が開発に取り組むデジタル人民元が『国際決済で使われることを頭に入れておく必要がある』と述べた。米ドルで決済してきた日本にとって『きわめて大きな問題だ』と語った」(ロイター通信、1月6日付)

世界の目がトランプ劇場に向けられている中で、中国政府は新たなデジタル通貨を発行する準備を続けている。このデジタル人民元については、今年ビジネス界で大きな話題になる可能性が高い。そこで、デジタル人民元について探るとともに、発行後にどんな「脅威」が待ち受けているのか考察してみたい。

2020年に発行?「デジタル人民元」とは
そもそも、デジタル人民元とはどういうものなのか。基本的には仮想通貨のようなデジタル化された通貨のことだ。中央銀行である中国人民銀行は、14年の段階で、独自のデジタル通貨の発行を見据えて調査チームを立ち上げている。

そして今では、デジタル人民元が20年には発行されるのではないかと言われるまでになっている。1月25日の旧正月に間に合わせるという話があったくらいだ。現時点でもその詳細は公開されていないが、デジタル人民元は仮想通貨で使われるブロックチェーン(分散型台帳)技術を導入するようだ。通貨の売買で値段が不安定に変動する仮想通貨と違い、デジタル人民元は、人民元に連動させることで価格の安定したデジタル通貨として使えるようにする。簡単に言えば、人民元がそのままの価値で「データ」に交換でき、ネットなどで現金と同じように扱える。

今のところ世界にはデジタル通貨を発行している国は存在しないため、デジタル人民元が実現すると、世界初の「国家が発行するデジタル通貨」ということになる。

ただ中国ではすでにネット決済などキャッシュレス化がかなり進んでいる。特にアリペイやウィーチャットペイといったモバイル決済が恐ろしく普及しており、19年は利用者数が6億人を超え、利用額は40兆ドルを超えると言われている。都市部では、98%以上がモバイル決済を使っているらしい。これらの決済では、単なる買い物だけでなく、公共料金の支払いからローンまで利用できるようになっており、人々の暮らしになくてはならないものになりつつある。

これは中国当局にとってもありがたいことで、モバイル決済の普及により、これまで問題になってきた偽札への対策になるし、政府はデジタルでひもづけられたさまざまな取引情報を吸い上げることで人々のカネの流れも徹底管理できるようにもなる。

しかしそれほど普及した決済システムがあるのに、なぜデジタル人民元を発行しようとしているのか。これだけだと、決済手段が1つ増えるだけにすぎないと思えるが、実はそこには中国政府による“壮大な野望”があると見られている。

ずばり、世界における、ドル覇権の崩壊と人民元の台頭である。

デジタル人民元が広まると、何が起きるのか
デジタル人民元は、中国国内で銀行口座を持つ必要があるドメスティックなモバイル決済と違い、基本的には誰でも持つことができるようになる。国境も関係ない。

実は今、中国を訪れる外国人旅行者が、都市部を中心に、モバイル決済を使えず買い物ができないという現象が起きているという。銀行口座を作れない国外からの旅行者はモバイル決済も基本的には利用できないからだ。そこで外国人にデジタル人民元を持ってもらうことで、インバウンドの消費も取りこぼさずに済む。

この話のように、デジタル人民元を発行する裏には「外国」がある。旅行者のみならず、外国企業との取引や、国家間のやりとりなどにもデジタル人民元を使ってもらいたいのだ。中国政府が推し進めている現代版のシルクロード経済圏構想である「一帯一路」で協力する数多くの国々とも、デジタル人民元でやりとりするよう促すこともできるだろう。中国がインフラ設備で投資をしている国家などに対しても、同様だ。

このように、デジタル人民元が世界で広く使われ、国際化していくと、何が起きるのか。

世界で最も普及している基軸通貨であるドルの牙城が崩れることになるのである。基軸通貨とは、世界で中心的・支配的な役割の通貨で、国際金融取引などで基準として採用されている通貨のことを指す。現在、米国の法定通貨であるドルは、米国の影響を強く受けており、言うなれば米国が国際通貨の動きを握っている状態だ。

中国政府は、デジタル人民元でそこに割って入ろうとしている。デジタル人民元が世界で広く使われれば、ドル支配の影響を受ける必要はなくなるし、中国政府が世界の金融の動きを監視することもできるようになる。

中国が米国の“監視”を逃れるリスク
さらに現在、ビジネスや個人による海外送金のほとんどは、国際間の資金決済システムである「SWIFT(スウィフト=国際銀行間通信協会)」のシステムで行われている。このSWIFTは米国の監視下にあるとも言える。例えば、米政府が企業や個人に経済制裁を課すような場合には、SWIFTを使えなくするといった具合だ。つまり、SWIFTを支配する米国が世界の金の流れを管理しているということになる。

そうした米国の覇権を打ち崩したい中国は、15年に独自で人民元の国際銀行間決済システム(CIPS)を立ち上げている。だがそれよりも、デジタル人民元が国際間で最も使われるようになり、決済などを監視できるようになれば、米国の影響を気にすることもなくなる。現在のような監視状態ではなく、思うがままに動けるのである。世界のカネの流れを手中に収めることも可能だろう。中国はそれを目指している。

そうなれば、中国政府が目指す「2049年までに世界制覇」という目標もグッと近づくのだ。2049年は、中国共産党革命の100周年に当たる年である。

この話は、日本にとっても対岸の火事ではない。例えば今、北朝鮮の核・ミサイル開発が大きな問題になっており、冒頭でも触れたように、直近でも緊張感が高まっている。

現時点では米国などの経済制裁と、国際間での決済のやりとりを見られていることから、北朝鮮は思うように部品などを調達できない。だがデジタル人民元を使えば、中国政府のさじ加減で、問題なく部品調達もできるようになるだろう。デジタル人民元の決済の流れを、米国などは決してチェックすることができないからだ。そうなれば、日本にとっても、北朝鮮の兵力が高まるなどといった「リスク」がどんどん高まっていくことになるのである。

そんな危険性をはらんだデジタル人民元が20年にも発行されると言われている。日本や米国のような西側の国々にとっては、長期的に見れば、最近の北朝鮮やイランの混乱と引けを取らないくらいのニュースかもしれないのである。

(山田敏弘)