「たっくん早く帰ってきて」「たっくん愛してる」
事件から1年以上が過ぎた今も、母親は亡くなった息子にLINEでメッセージを送り続けている。
昨年7月、大阪・堺市でバイクを運転中の大学4年の髙田拓海さん(当時22)を乗用車であおり、死亡させたとして殺人罪に問われた元警備員、中村精寛被告(41)の控訴審判決が11日、大阪高裁であった。樋口裕晃裁判長は同罪の成立を認め、懲役16年とした1審の大阪地裁堺支部の裁判員裁判判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。あおり運転で殺人罪が適用されるのは異例のこと。
昨年7月2日夜、堺市の府道で高田さん運転のバイクが、中村被告の乗用車を左後方から追い抜いた。これにブチ切れた中村被告は約1キロにわたり、ハイビームにしてパッシングを繰り返し、クラクションを鳴らし続け、車線変更をしてバイクを追い回した。中村被告の車は時速100キロに達し、減速した後、バイクの真後ろから故意にぶつけた。その弾みでバイクは転倒し、ガードロープの支柱に激突。中村被告が運転席でつぶやく様子が、ドライブレコーダーに残されていた。
「はい、終わりー」
それはまるでゲームを終えたかのような軽い口調だった。裁判長はこれを「自身の一連の行動が終わったことを自らに語りかけたもの」と判断した。
1審判決では「死んでも構わないという気持ちで追突した」と未必の殺意があったと認定したが、弁護側は「殺意はなく、殺人罪は成立しない」として1審同様、殺意の有無を争っていた。
「どう考えても『バイクが転倒して終わった』としか捉えようがないのに、中村被告は公判で『これで自分の仕事や人生が終わったと思い、落胆して言った』と主張した。実は中村被告は事件当日の夕方、飲食店で同僚と酒を飲んでいた。検出量が酒気帯びの基準値に達しなかったため、立件は見送られたのです」(捜査事情通)
判決後、大阪市内で開かれた記者会見に臨んだ高田さんの母親(46)は「あんな人に追い掛けられて、殺されたのが悔しい。いつ見ても反省しているような顔はしていない。裁判官の話を聞いている時も首をかしげたり、よそ見をしていた。(懲役16年の判決は)やっぱりうれしいものではない。どこかでもっと重くして欲しいという期待もあった」と時折、声を詰まらせ、あふれる涙をぬぐった。
高田さんは母子家庭の3人きょうだいの長男で子どもの頃から家事を手伝い、妹と弟の面倒を見ていた。
「ただただ拓海に会いたくて、笑っている顔が見たいです。今までずっと支えてくれてたので、毎日つらいです」(母親)
いつでも拓海さんが帰って来られるようにと、母親は毎晩、夕食を作ってテーブルに並べている。