岡山市のシンガー・ソングライター、ORi―ZURU KAORIさん(48)が、2018年7月の西日本豪雨で殉職した広島県警の警察官2人を題材に追悼歌「トワノトリ」を制作し、ライブなどで披露している。KAORIさんは「(西日本豪雨で大切なものを失った)多くの人に歌詞を重ねて聴いてほしい」と話している。
鳥取県米子市出身で01年から音楽活動をしているKAORIさんは、これまで東日本大震災や、06年に鳥取県内のJR伯備線で保線作業員3人が亡くなった事故の追悼歌を制作してきた。西日本豪雨の際は、友人が倉敷市真備町地区で被災。物資での支援を呼びかけたり、自ら直接届けたりした。その中で「自分にできることは音楽しかない」と考え、追悼歌制作を決めた。
豪雨の際、広島県警呉署の警部補、山崎賢弘さん(享年29)と晋川尚人さん(同28)は帰宅途中に土砂崩れに遭遇し、立ち往生した車の誘導中に亡くなった。その自らの命を顧みない勇気ある行動を報道で知って胸を打たれたKAORIさんは、19年3月に同署を訪れて「2人を主人公にした歌を作りたい」と熱意を伝えると、署長らから「ぜひ作ってほしい」と声をかけられた。遺族には手紙を書いて許可をもらった。
「警察官だから当たり前と思われているかもしれないが、彼らも普通の生活をしていたことを伝えたかった」と、山崎さんや晋川さんの日常の姿を想像して曲の出だしに<白いシャツ 黒い靴 背中で 行ってきます>と詞をつけた。多くの人に寄り添う曲にしたいと、<あなたのお陰で助かった命がある><もう一度その手で にぎり返して 気高く生きろと>など前向きなメッセージも添えた。
6月にレコーディングを済ませて遺族に音源を渡すと、ある遺族は一周忌法要でかけてくれたという。9月末にホームページ(http://www.ori-zuru.net/html/shop.html)でCDを発売すると、「被災した地元住民で合唱したい」というメールとともに購入する人もいた。
KAORIさんは依頼があれば可能な限り公演するつもりといい、「彼らが命をかけて教えてくれたことを、これからもつないでいきたい」と話す。制作費を除いたCDの売り上げは、すべて被災地のために寄付するという。【戸田紗友莉】