2017年に日本でも広がりを見せた「#MeToo」運動から、SNSなどによるセクハラ被害を告発する動きも活発化している昨今。ふだん言動に注意を払っているものの、どこからがセクハラになるのか不安……なんていう人は多いだろう。1月~3月は送別会などお酒の席が増える時期だが、緊張がゆるんでうっかり失言してしまう危険に怯えることもある……。
30歳男性である筆者の最近の経験では、飲みの場で職場の女性から「今日は胸が大きく見える服を着ちゃって、太って見えるから失敗した」と言われ、どう答えたとしてもセクハラになるような気がして反応に困ってしまった。このような“個人のパーソナリティやセクシャルな話に対してどう反応すればいいかわからないとき”には、どのように対応すればいいのか。インターネット上のトラブルや名誉毀損に明るい、港国際法律事務所の最所義一弁護士に話を伺った。
◆“かわす”のが無難だが、セクハラ発言かどうかは状況次第
「セクハラに該当するかどうかは、その発言が出された場所、状況などの事情を含め、総合的に判断されます。そのため、問題とされた発言のみを切り取って、セクハラに該当するかどうかを個別的に判断することは困難です。ただし、セクハラと誤解されたくないという場合には『人それぞれだと思う』、『分からない』、『職場で話す内容じゃないし』などといった、まともに相手にしない“かわす回答”を行うべきだと思います」(最所弁護士)
「かわす回答」に窮した筆者は、自身の“かわしボキャブラリー”の少なさが問題でもあったようだ……。ただ、かわす回答ばかりではコミュニケーションが成り立たないのでは? と、疑問に思ってしまうこともあるが、最所弁護士にはこう切り捨てられた。
「そもそも、セクハラと誤解されるような発言をしなければ人間関係が円滑にならないという職場環境自体、すでに“環境型セクハラ※”が疑われる状態になっているのではないかと思います。それとは別に私が強調したいのは、あくまでも言葉それ自体を切り離してセクハラだと判断することはできないという点です」
※環境型セクハラとは、労働者の意に反する性的な言動により、その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること
ただ、環境型セクハラが横行している職場だとしても、シンプルな侮辱発言は一発アウトだ。
「言葉自体が侮辱表現に当たるような場合には、余程の事情がない限り、その発言自体、認められません。たとえば『ブス』『ブタ』『バカ』『ハゲ』といった、社会通念上も許容できない発言を行えば、それ自体でアウト。職場で女性に対して『ブス』『ブタ』といった発言を行えば当然にセクハラですし、部下に対して『バカ』『ハゲ』と発言すれば即刻パワハラです」
また最所氏は、「そもそも女性からそのような発言がなされてしまう職場環境自体を疑ってみる必要がある」と語る。
「仮に職場において、女性の体型が常に問題とされているような状況があったとした場合。女性が発言する前に『最近太ったんじゃない?』といった発言があったとか、男性同士の会話で『女性は痩せてないと駄目だよね』といった会話がなされていたとすれば、すでに“環境型セクハラ”が疑われる状態に陥っている可能性があります」
◆他人からの“不愉快のサイン”を見逃さないことが重要!
社会通念上アウトではない言葉であれば、そこまで気にしなくていいようだ。とはいえ、特に男性側はセクハラに対する認識が甘いことも多いという。
「男性側がセクハラ発言に対して麻痺していることは多々あります。女性のほうは無理をして話に合わせてくれている場合が多く、それを男性側が『大丈夫』だと勘違いしている場合があります。女性が不愉快に感じれば、必ず何らかのサインを出しています。『もうセクハラですよ~!』と笑いながら言っているからといって、受け入れているわけではありません。それを単なる冗談とか場を盛り上げるために言っていると思わないこと。
また、『この人だから言っても大丈夫だろう』というのも大きな間違い。たとえ直接の受け手が気にしていなかったとしても、周囲には仕事上のストレスになっていることだってありますから」
相手を傷つける言葉でなければむやみやたらに気を使わなくてもいい。だが、たとえお酒を飲んでいたとしても、他人への気遣いを忘れずにコミュニケーションすることは必要だ。
【弁護士 最所義一】
神奈川県弁護士会所属。東大農学部卒業後、病院勤務を経て、中央大学法科大学院修了。ITと医療分野に詳しい。ネット上での誹謗中傷、名誉毀損問題に取り組んでいる。
<取材・文/すずきおさむし>