移住の夢と現実、住んで実感 愛媛県内各地に「お試し住宅」

愛媛県内への移住を検討する人が、一定期間その土地に住んで暮らしを体験できる「お試し住宅」の取り組みが広がっている。県によると、2019年10月までに14市町で開設され、毎日新聞の調べでは同12月に新たに西条市が運用を始めた。移住希望者の不安を解消して定住につなげる狙いで、利用者の評価も上々だ。
内子町役場から車で約30分の山間部にある、人口約300人の同町石畳地区。住民が町に寄付した木造平屋建て住宅を「移住体験用」に改修し、18年度に開設した。利用対象者は町に定住を希望し、集落の自治会活動に参加できる人。家賃は月1万円(敷金は家賃3カ月分)で、最長1年間住める。
19年2月からこの住宅を利用する山田浩徳さん(36)と妻由季さん(38)は、長男歩太(あゆた)ちゃん(3)、次男遥太(はるた)ちゃん(2)を連れて東京都内から引っ越してきた。出産を機に、子どもと過ごす時間を増やし、自然の中で子育てをしたいと移住を希望した。浩徳さんは勤めていたイベント映像会社を辞め、炭焼き職人を目指して地区の職人の下で研修しており、由季さんは在宅で翻訳の仕事を続ける。
由季さんは「特に若い人が移住に向けて生活の基盤を整えるためにも、こういう住宅があるのは大きなメリット」と評価する。浩徳さんは「体験できるなら絶対にすべきだと思う。地元の人たちも移住者も、お互い納得して移住するのが一番良い」という。ただ、短期間限定のお試し住宅もあるため、「本当に根を張ってその土地でやっていけるか判断するには、少なくとも四季を通じて1年間体験できたらいいと思う」とも話した。

内子町には同町五百木に11年度に開設したお試し住宅もあり、これまでに4世帯8人が利用し、2世帯3人が移住したという。
一方、近年移住者が増えている今治市・大三島の「ラントゥレーベン大三島」は、「滞在型農園施設」として地元住民と交流しながら農業も体験できる。16~18年度は、入れ替わりはあるものの全16戸が埋まる状態が続き、3年間で6世帯が移住した。同市大三島支所の担当者によると、移住前に農業の知識をつけようと暮らす人もいるといい、「農業の難しさや向き不向きも分かる」とお試し住宅の意義を語る。
お試し住宅は各自治体の他、NPOや地元住民団体が運営する場合もある。県は、市町がお試し住宅を開設する際には、整備額の半額以内を補助する事業を設けている。県地域政策課の担当者は「自分のイメージにあった暮らしができるかを確認するためにも、体験して現地のことを知ってもらうことは大事。その後の定住にもつながる」と説明している。【花澤葵】