東京五輪期間中のテロ対策で爆発物探知犬の育成急ピッチ

東京五輪・パラリンピック期間中のテロ対策として、ダイナマイトなどのにおいを嗅ぎ分ける爆発物探知犬の活躍が期待されている。五輪以降も大規模な国際イベントや会議があることから爆発物探知犬への需要は高いものの、日本全国でまだ約60頭。供給が追いついていないのが現状だという。大会に向け、育成が急ピッチで進められている。(久保 阿礼)
「もう少し、荷物の方に注意を向けてごらん」―。「東京コミュニケーションアート専門学校ECO」(東京・江戸川区)では、週1回のペースで爆発物探知犬の訓練が行われている。講師を務めるのは、約65年のキャリアを持つ訓練士の森脇和男さん(84)。ベテランの指導の下、ドッグトレーナーを志す11人の学生が犬と一緒に熱心に訓練に取り組んだ。
スーツケースや5つの瓶などにダミーを無作為に入れ、訓練は始まる。学校で飼育するエリカ(雌、5歳)=ベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノア=はハンドラー(操縦士)と一緒に荷物の周りをゆっくり歩き回り、爆発物のにおいを検知すると「お座り」や「伏せ」の姿勢で異常があることを知らせる。森脇さんは「犬が興味を持つように、人間も一緒に考えながら訓練することが大切です」と話す。
同校では2018年4月から一般社団法人「日本警備犬協会」と協力し、東京五輪・パラリンピックなどの大規模なイベントで活躍できる爆発物探知犬の育成を行っている。犬の育成期間は1~2年。人なつっこい性格のエリカは訓練途中だが、一人前になれば民間の警備会社などに送られ、活動を始める。
学生は2年間で約1800時間の授業を受け、必要な知識を身につける。前田七海さん(20)は「小さい時から犬が好きでした。犬と一緒に社会に役立てれば」。今春卒業予定で、その後は日本警備犬協会で働く。
爆発物探知犬は、人間の数千万から1億倍という嗅覚を生かし、1980年代ごろから主に欧州でテロ対策用に育成されてきた。国内では東京税関が02年4月、サッカー日韓W杯で訪日するフーリガン対策として初めて導入。72年ミュンヘン五輪、96年アトランタ五輪では爆破テロが発生しており、今大会でも探知犬は重要な役割を担うことになる。
国土交通省では昨年12月、五輪に向け、東京駅構内で爆発物探知犬の実証実験を行った。JR東日本や東海、地下鉄の東京メトロで導入を決めている。
ただ、爆発物探知犬の供給は追いついていない状況だ。関係者によると、全国に約60頭いるが、都心部の駅で警備する場合、1駅で約20頭が必要。人混みへの適応力や高い選別能力も求められる。大会に向け、爆発物探知犬の要望は多く、関係者は「何とか大会に間に合わせたい」と話している。
東京五輪・パラリンピックでは、爆発物探知犬の他に警察犬もテロ対策に活躍しそうだ。
各都道府県警察では特殊な訓練を積んだ警察犬を捜査などで活用。最近では特に高齢者が行方不明になるケースが多く、出動回数も増加傾向にある。
警察犬の役割は主に〈1〉足跡などのにおいから追いかける足跡追及活動〈2〉においで物の区別をする臭気選別〈3〉行方不明者らの捜索活動―など。日本警察犬協会によると、シェパード、ドーベルマン、コリー、エアデールテリア、ラブラドールレトリバー、ボクサー、ゴールデンレトリバーを警察犬の指定犬種としている。警察犬は直接警察が飼育する直轄警察犬(約160頭)、民間などに委託する嘱託警察犬(約1200頭)に分かれる。
警察犬も爆発物探知犬と同様、臭気選別の訓練を行うが、犯人を威嚇してほえたり、凶器奪取の訓練もある。捜査員の「ウバエ」の一言で犯人に襲いかかり、「マモレ」では金品を奪われないよう周辺を警戒する。「トベ」では障害物をよじ登ったり、越えたりする。逮捕に向けた動作は探知犬にはない役割だ。
日本警察犬協会では「五輪に関わる嘱託警察犬の出動要請には積極的に協力する」としている。