日本でも“初”の感染者が!「新型コロナウイルス」の本当の恐さ

中国・湖北省武漢市にある華南海鮮市場が“発生源”とされる「新型コロナウイルス」が猛威を振るっている。1月20日現在、武漢市の衛生当局が発表した最新の感染被害は、発症者198人、うち死亡者3人。現地報道によると北京市や広東省にも広がっており、国外でもすでに2人の感染が報告されているタイをはじめ、香港、シンガポール、台湾……などでも感染の疑いのある事例が相次いでいるが、日本でも先週「初」の感染者が確認された。

厚労省によると、感染したのは神奈川県に住む中国籍の30代男性で、武漢市に滞在していた今月3日から発熱し、6日に日本へ帰国。男性が移動の際に解熱剤を使用していたため、空港のサーモグラフィが感知せず検疫所をすり抜けたと見られている。男性は帰国後すぐに医療機関を受診したものの、病状が改善しなかったため10日に入院。14日に保健所に報告があり、翌15日に遺伝子検査により感染が確認されたという……。

男性はすでに回復し退院したとされるが、「新型コロナウイルス」と聞いて思い出されるのは、2002年に中国・広東省を皮切りにアウトブレイクし774人の死者を出したSARS(重症急性呼吸器症候群)や、2012年にサウジアラビアなどで発生し850人が犠牲となったMERS(中東呼吸器症候群)だ。

「ヒトからヒトに感染した明確な証拠はない。感染が拡大することは考えにくいが、ゼロではないので確認を急ぎたい」

16日に緊急会見を開いた厚労省の担当課長はこう話したが、果たして、武漢市発の「新型コロナウイルス」はどれほどの脅威となり得るのか? 元厚労省医系技官で医師の木村盛世氏が話す。

「現在、出ている報道を見る限り、毒性や感染力はそれほど強くないのではないか。ただ、厚労省は早々に、ヒトからヒトへの感染リスクは低く『感染が拡大することは考えにくい』と説明していましたが、現時点でそんなことはわかるわけがないですし、危機管理の基本で最悪の事態を想定して対応していかなればいけない。夫婦で発症したケースでは、夫は発生源と見られる海鮮市場で働いていたが、妻は市場との接触を否定しているといいます。

武漢から帰国し日本で最初に感染が確認された男性も海鮮市場には立ち寄っておらず、肺炎の可能性のある父親との濃厚接触(※家族間や職場の同僚とやり取りといった比較的密接な接触)で感染した疑いが強い……。つまり、ヒトからヒトへの感染が否定できないということです。中国はSARS禍のときも、感染者の初確認からWHO(世界保健機関)への報告まで3か月を要するなど、情報隠蔽と取られても仕方のない対応をしてきた国。中国のSNSには感染が広がっていることを示唆する書き込みも見られ、公式発表を鵜呑みにできない面もあるのです」

◆水際作戦ではなく、封じ込め対策が問題

現在、中国版Twitter「微博」に投稿した感染を訴える書き込みが次々と削除されるなど、中国当局による情報統制も強まっている。すでにアカウントごと閉鎖されてしまったが、武漢市在住と思われる人物が「発熱した患者が病院に溢れていた」ことや「『外来患者は受け付けていない』と診療を断られた」などと告発するつぶやきもあった。

17日には、WHOなどにも助言を行っている英公立研究大学「インペリアル・カレッジ・ロンドン」の感染症研究グループが「1月12日の時点で1723人が感染している可能性がある」とする試算を発表するなど、早期の収束を危ぶむ声があるのも事実なのだ。木村氏が続ける。

「現在、厚労省が『水際作戦』と称して行っているのは、空港の検疫所に注意喚起のポスターを貼って、サーモグラフィで入国者の体温をチェックすることくらい……。ですが今回、感染者の男性が事前申告をせずに解熱剤を飲んで防疫態勢をすり抜けていたように、帰国した人たちは一刻も早く家に帰りたいので未申告の人も多い。頭痛や生理痛のクスリを飲んでいる人なんていくらでもいますし、仮に感染していても潜伏期間中に入国してしまえば、水際で食い止めることは不可能なのです。

問題なのは、入ってきた後の封じ込め対策をまったく考えていないこと。今回、国内初となった男性患者は帰国から感染確認まで9日も要しています。この間に男性が、免疫機能が落ち抵抗力の低い患者が多い三次救急病院や高齢者施設に立ち入っていたら感染が一気に拡大していた可能性もあった」

◆2015年に38人の死者を出したMERS

「封じ込め」に失敗した例として真っ先に名前が挙がるのが、2015年に38人の死者を出したMERSの感染拡大を許した韓国だ。MERSは2012年9月に英国・ロンドンで初めて確認され、「発生源」とされるサウジアラビアをはじめ、イランやオマーンなど中東全域に広がったが、2015年に“飛び火”した韓国で爆発的に感染が拡大。国を挙げた感染症対策が講じられていなかったことや、医療従事者の危機意識の欠如もあり「院内感染」が横行した。「渡航医学」にも精通するナビタスクリニック理事長で医師の久住英二氏が話す。

「今回、国内で初めて感染が確認された男性は、病院の大部屋に入院していたと聞いています。MERSが韓国で感染拡大したときは、病院の対応が杜撰だったと批判する声が大きかったが、日本でも、感染症患者を大部屋に入院させるようなあり得ない対応をしている病院は多い……。

日本ではガン患者がいる病院に感染症患者が入院していたりするケースが多々あるが、ガン患者は免疫力が落ちており、感染のリスクが大きいので、海外の医療機関ではガン患者がいる病棟には感染症患者は立ち入ることさえ許されません。

個室の入院費用は高いので患者側からすれば安く抑えたい。病院側からすればベッドを空けておきたくない……というのが理由ですが、今のようなやり方を続けていたら、強毒性の感染症が入ってきたときに院内で感染爆発が起きる可能性は高い」

中国では1月24日から「春節」の大型休暇が始まる。休み期間中、延べ30億人が移動するとされ、日本へも観光客が殺到すると予想されている。「新型コロナウイルス」の“発生源”である武漢から成田空港への直行便は週15往復。関空直行便は11往復発着している。

7月には待ちに待った五輪が始まるが、外国人観光客が激増している今こそ、効果的な感染症対策を打っていく必要があるだろう。

<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/AFP/アフロ 時事通信社>
※週刊SPA!1月21日発売号より