「英国王室離脱」騒動は日本の皇室制度にも通じる問題

◆エリザベス女王も頭を悩ます…

1月18日、英国王室は、今春からヘンリー王子とメーガン妃夫妻は公務を担わず、「ロイヤル・ハイネス」(殿下・妃殿下)の称号を返上すると発表した。

「王室の主要メンバーから退き、イギリスと北米の間でバランスを取りながら暮らしたい」

ヘンリー王子とメーガン妃の二人が1000万人を超えるフォロワーを抱える自身のインスタグラムで王室を離脱する意向を電撃発表してから2週間。国論を二分するほどの大論争に発展した若い二人の“ご乱心”は、エリザベス女王の裁可で一応の決着を見たようだ。

春以降、ヘンリー王子は英連邦青年大使などの地位を失うが、王位継承順位は6位のままで、サセックス公爵・公爵夫人という呼称も維持されるという。今後、公的資金は受け取らず、二人が住む「フログモア・コテージ」の改修に使われた税金240万ポンド(約3億4300万円)も返還する見通しだが、二人に向けた批判の声は収まりそうにない。在英ジャーナリストの小林恭子氏が話す。

「『史上もっとも甘やかされたダダっ子たち』と切り捨てるメディアもあるが、英国市民が怒っているのは、ヘンリー王子夫妻が王室を離れることを女王サイドに事前に通知していなかったうえ、『王室の中心メンバーから退きたい』と説明していたにもかかわらず、その地位を放棄するわけではないからです。

しかも、彼らは改修費用を返還すると言っているフログモア・コテージを英国の自宅として今後も使い続けるつもりでいる。王室活動費は受け取らず『財政的に独立できるよう働いていきたい』と宣言したのに、これまで税金で賄われてきた警備費は継続して出してもらう考えですし、父・チャールズ皇太子の資金もアテにしている……。

つまり、義務である公務を放棄する一方で、地位や特権は手放さないと言っているに等しく、『勝手すぎる』『どっちに転んでも金持ちのままではないか』と怒りの声が上がるのも無理からぬ話なのです」

◆今後得られなくなる10万ポンドは公費のわずか5%

エリザベス女王が王室メンバーに分配する王室活動費のうち、ヘンリー王子とメーガン妃の二人に与えられてきた10万ポンド(約1400万円)は今後得られなくなる。

だが、これは彼らが使っている公費のわずか5%にすぎない。残り95%は父・チャールズ皇太子のコーンウォール公爵領から得られた利益の一部が充てられているため、小林氏が指摘するように「父親頼み」で資金を確保する腹づもりであることは間違いないだろう……。

「(王室のなかで)ヘンリーの魂は潰されかけていた。そんな生活から彼を救い出せたのは、私の愛があったからこそ。(離脱は)ヘンリーにとって生涯最高の出来事」

20日、タブロイド紙『デイリー・メール』は、現在、カナダに滞在中のメーガン妃が、親しい友人らにこう胸の内を吐露していたと伝えている。同紙はさらに、メーガン妃が「私たち二人はどこにいようとも『王族』であることに変わりはない」と話していたとも報じているが、今回の騒動で多くの英国市民が記憶を呼び起こされたのが、エリザベス女王の叔父・エドワード8世の「王冠をかけた恋」だという。小林氏が続ける。

「エリザベス女王の父・ジョージ6世が王位に即位したのは、彼の兄で英国市民から絶大な人気があったエドワード8世が、米国人女性ウォリス・シンプソンと結婚するため、わずか325日で王位を捨て、王室を飛び出したからです。シンプソン夫人に離婚歴があったことから議会や英国国教会、保守系メディアに結婚を反対されたエドワード8世は、自らの人気を背景にBBCラジオで国民に直接語りかけることで支持を得たいと考えた。

だが、当時のボールドウィン首相に『英国は立憲君主制の国であり、議会の理解が得られない』と反対され王位を捨てたのです。歴史的には『王冠をかけた恋』と称されているが、王位にある者として身勝手で無責任なのは否めません」

ヘンリー王子は自らの母・ダイアナ妃がパパラッチに追跡された末、交通事故死していることから、結婚当初からメーガン妃を守ろうと過熱するメディアを諌める発言してきたことでも知られる。

◆王室にも皇室にも結婚相手のリストが存在

連日のようにバッシングの嵐が吹き荒れるなか、ヘンリー王子とメーガン妃の新しい船出を見守りたいところだが、日本の保守論壇のなかには、英国で起きている一連の騒動が「対岸の火事ではない」という見方があるのも事実のようだ。日本教育再生機構理事長で麗澤大学教授の八木秀次氏が話す。

「ヘンリー王子は生まれながらの王族で、“ノブレス・オブ・リージュ”(貴族は社会的責任と義務を伴う)の精神が備わっているからこそ、英国市民のために危険なアフガニスタンで軍務にも就いています。人気も上々だったのに、メーガン妃との結婚で王子は変わってしまった。

英国の王室も日本の皇室も、ご結婚は表向き自由恋愛の結果だが、そもそも一般人のように恋愛相手は本人たちがよければ誰でもいいというわけにはいかない。

だから、王室にも皇室にも結婚相手のリストが存在するが、リストに載っていない人と結婚したのがメーガン妃であり、婚約手前まで行ったのが秋篠宮子さまのお相手・小室圭さんなのです。

秋篠宮殿下や美智子上皇后さまは今回起きている英国の騒動を他山の石としてご覧になっているのではないか」

◆天皇陛下自らが雅子さまのお体を思って退位を望む可能性

八木氏は、制度そのものに陥穽があるとも指摘する。

「天皇陛下が皇太子時代、皇后・雅子さまを巡る報道が過熱した際、『それまでの雅子のキャリアや人格を否定するような動きがあったことも事実です』とご発言するなど、大変心を痛めていらっしゃった。今現在は、雅子さまが抱えているご病気は落ち着いているようですが、仮に病状が芳しくなくなったとき、天皇陛下自らが雅子さまのお体を思って退位を望む可能性は否定できないのです。

現在の皇室典範では天皇は生前に退位できません。そこで一代に限り譲位を認める特例法をつくって天皇の『生前退位』が実現したわけですが、この前例ができたおかげで、天皇が真に譲位を望んだら引きとめる手立てがなくなってしまった。その都度、一代限りで特例法をつくればいいわけですから」

天皇が日本国民のために祈りを捧げる祭祀王で、日本人の精神的な統治者であるのに対し、英国王は自らの力によって国を支配してきた。成り立ちも歴史も大きく異なる両者を比べるのには無理があるが、皇室ともゆかりのある英国王室の騒動が一日でも早く収まるのを祈りたい。

◆英国王室の名をかたった新ビジネスを立ち上げる?

昨年12月、ヘンリー王子がサセックス・ロイヤル(公爵位)を商標登録しており、二人が王室の威光を借りてビジネスに乗り出すのではないか? という憶測も広がっている。今、英国では31日に迫ったブレグジット(EU離脱)の報道は隅に追いやられ、メーガジット(メーガン妃の王室離脱)の話題で持ち切りだが、エリザベス女王の胸中や?

<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/代表撮影/AP/アフロ>
※週刊SPA!1月28日発売号より