新型肺炎「長期化すると…」 クルーズ船やホテルのキャンセル 各地で懸念の声

新型コロナウイルスによる肺炎の拡大で中国から海外への団体旅行が一律停止された27日、外国クルーズ船の寄港回数全国トップ3を占める福岡、長崎、沖縄各県の観光関係者や、百貨店などから長期化を懸念する声が上がった。
<新型肺炎 武漢へのチャーター機派遣延期>
中国の春節祭が起源のイベント「長崎ランタンフェスティバル」が開催中の長崎市では、中国・天津から同日予定していたクルーズ船「コスタ・セレーナ」の寄港が中止となった。乗客約3800人の大半が中国人観光客で、長崎市中心部の菓子店長は「この時期は中国人観光客にどら焼きなどがよく売れるが、今年は全く駄目だ」とこぼす。
国土交通省の2019年速報値によると、長崎港の外国クルーズ船の寄港回数は178回で国内3位。2月9日までのイベント期間中は7回入港が予定され中止の連絡はないが、市の担当者は「影響が今後も続くかはなんとも言えない」と話す。
コスタ・セレーナは28日の博多港寄港も中止した。利用者の9割が中国人団体客で、同日も乗船客を受け入れるはずだった福岡市博多区の飲食施設「KISS福岡」の牧山強社長(56)は「影響は長ければ半年以上になることも覚悟しなければ」と困惑。約1000席のフードコートは2~3月も予約で埋まり、従業員のマスク着用など感染対策を取っていたが「おそらくキャンセルになる」といい、状況によって一時営業休止も検討する。
19年の寄港回数が251回で、博多港(205回)と入れ替わり首位となった那覇港を抱える沖縄県でも懸念が広がる。同年の外国人観光客約293万人のうち中国人は約4分の1。中国人観光客にも人気のある第一牧志公設市場の粟国(あぐに)智光組合長は「外国人観光客は政情などが大きく影響するので、一国に依存しないようにバランス良く誘客すべきではないか」と訴えた。
博多港には27日、クルーズ船が寄港した。だが福岡市内の百貨店の担当者は「26日ごろから中国人が好む化粧品の売り上げが激減している」と打ち明ける。1月は前年同月に比べて好調だったが「2月以降、免税売り上げの2割減は覚悟している。中国の団体客だけでなく、東アジア全体で観光が停滞しかねない」と顔を曇らせた。
国交省九州地方整備局の担当者は「九州は中国発着ツアーが大半を占めるため、他のクルーズ船の予約のキャンセルも相次げば、影響は少なくない」と指摘する。【中山敦貴、青木絵美、久野洋】
「早く終息してくれるのを待つだけ」
東海地方でもホテルや観光ツアーで中国人観光客からの予約キャンセルが相次いでいる。
中部空港(愛知県常滑市)近くのホテル「東横INN中部国際空港」の1、2号館(計約2300室)では23日ごろから連日、中国から解約のファクスが殺到。「毎日数え切れないほどのすごい量」(同ホテル)という。特にピークの2月1日は、全体の約8割が中国人団体客で満室だったが、解約が続いている。鈴木留美支配人は「春節で一番の稼ぎ時だったのに悔しい。マスクなどで従業員の健康を守り、早く終息してくれるのを待つだけ」と落胆を隠せない。
また、東海地方屈指の観光地、岐阜・飛地方に向かうバスツアーも打撃を受けている。岐阜県高山市の濃飛乗合自動車(濃飛バス)によると、26日に予定されていた「白川郷ライトアップ」を見るツアーで、中国人観光客計13人がキャンセルした。白川郷は、世界文化遺産に登録され、年間約8万1000人の中国人観光客(香港、台湾除く)が訪れるなど人気が高い。ライトアップは残り3回あるが、影響が続く可能性がある。同社宣伝販売課の楢木孝之課長(47)は「これ以上事態が悪くならないことを期待したい」と話した。
一方、名古屋市中村区のドラッグストアでは、先週からマスクを買い求める中国人観光客が増え始めた。現在は並べてもすぐに品薄になる状態が続く。店長は「普段の売れ筋は化粧品だが、土日からマスクの購入が増え、普段の何十倍も売れている。仕入れても全く追いつかない」と驚く一方、「(団体旅行停止が)長引けば中国人客が減り、販売にも影響が出るのではないかと心配だ」と話した。【岡村恵子、沼田亮、細川貴代】
名古屋市、日中両国語で注意喚起のポスター作製
愛知県では、県健康対策課が27日、電話相談窓口を設置。同日午後5時までに175件の電話が寄せられた。同課によると、感染患者の入院先や立ち寄り先などの問い合わせが多かったという。大村秀章知事はこの日の定例記者会見で、「過剰に心配せず、せきや発熱などの症状が出たら、マスクをして速やかに医療機関を受診して」と訴えた。
県内企業5社が武漢に進出しているが、現在は中国の大型連休・春節に合わせ休暇中。出張を自粛し、在宅勤務に切り替える企業もあるという。
また、名古屋市は同日、対応を協議する臨時会議を開催。中国人旅行客への情報発信に力を入れることを確認した。
市は、注意喚起のポスターを日本語と中国語で新たに作製、観光客が多く訪れる名古屋城などに掲示したが、ポスターには相談窓口の電話番号は掲載されていない。市内各区の保健センターで相談を受け付けているが、市の担当者は「中国語を話せる職員が限られている。新情報も中国語で発信したいが、時間がかかる」と対応の難しさを明かした。
岐阜県や三重県でも27日、緊急会議を開くなど対応に追われた。愛知県は健康対策課(電話052・954・6272)、岐阜県は保健医療課(電話058・272・8860)などで相談を受け付ける。【竹田直人、野村阿悠子、岡正勝】