「領土・主権展示館」をご存知だろうか。北方領土、竹島、尖閣諸島の資料を展示する、日本政府の施設である。
同館はそれまで日比谷公園内の市政会館に置かれていたが、1月21日、虎ノ門三井ビルディング1階に移転した。これにあわせて、展示面積は7倍の約700?に拡張され、解説や展示品の充実が図られた。韓国政府がさっそく抗議声明を出したことは、すでに報じられているとおりである。
とはいえ、その首都ソウルにも「独島体験館」が存在する。同じく領有権を主張する施設だが、それと比べ、新しい「領土・主権展示館」はどのような特色があるだろうか。
両者とも見物したことがある筆者が、主張の成否よりも、宣伝技術の優劣の観点で比較検討してみた。
まずは、新しい「領土・主権展示館」を訪ねてみよう。
「播磨屋本店」「領土・主権展示館」。虎ノ門駅を出て、虎ノ門三井ビルディングに着くと、案内板にそう記されている。1階のテナントはこの2つしかないので、迷うことはない。
虎ノ門三井ヒルティンクの店舗案内
隣の播磨屋本店は老舗のおかき屋だが、独特の街宣活動でも知られる。都内で「天皇よ正気か このままでは国民数千万が餓死するぞ!! 警鐘を鳴らせ」などと記されたトラックを見たことがあるかもしれない。それこそ播磨屋のものにほかならない。
その印象があまりに強かったので、「領土・主権展示館」も、なかなか面白いところに入居したものだと感心させられた。
それはさておき、同館に入ると、内閣官房領土・主権対策企画調整室のパンフレット「北方領土」「竹島」「尖閣諸島」3冊と、同館のカレンダーが手渡された。北方領土は茶色、竹島は緑色、尖閣諸島は紫色で統一され、なかなか手が凝っている。
そして最初に迎えてくれたのは、北方領土のイメージキャラクター「北方領土エリカちゃん」の像だった。
「領土・主権展示館」の入り口と、「北方領土エリカちゃん」
「北方領土エリカちゃん」は、ツイッターで「今から皆さんに、北方領土に関するクイズを出すピィ~♪ まずは初級編だピ! 【第1問】北方領土を不法に占拠しているのはどの国でしょう?」など、可愛い口調で身も蓋もない言葉遣いをするシュールなキャラクターとして人気を集めている。写真撮影は自由なので、ここで記念撮影するのもいいだろう。
展示は、手前から北方領土、竹島、尖閣諸島。それぞれ部屋が分かれ、奥には、図書コーナー、2階には映像コーナーも存在する。
たしかに展示スペースは格段に広がり、生活用品の展示や映像資料、ジオラマなども充実している。世界でひとつだというニホンアシカの成獣の剥製がドンと置いてあるのもインパクトがある。
とはいえ、その展示はあまりにまじめで硬すぎるようにも思われた。壁面が文字でびっしり埋まっているので、しっかり読み込まなければいけない。といっても、内容は手渡されたパンフレットとほぼいっしょなので、無理してここで読む必要もない。
お硬い領土問題を扱うのだから、これでいいというかもしれない。だが、意欲のあるものは、公式サイトにPDFでもアップしておけば、勝手にダウンロードして勉強する。こういう施設はむしろ、なんとなく訪問したものこそ引き付けなければ意味がない。
せっかく「北方領土エリカちゃん」のシュールなキャラクターが受けているのだから、クイズコーナーなどもう少し娯楽要素があってもいいのではないか。
同館でもうひとつ気になったのは、外国語の説明がないことだった。衛藤晟一沖縄・北方担当大臣は、韓国政府からの抗議にたいして、同国の関係者にも見てほしいと述べたが、これでは参照のしようもないのではないか。
これにくらべると、ソウルの「独島体験館」は、多くの展示で日本語、英語、中国語のパネルが用意されていて、抜かりがなかった。
同館は、東北アジア歴史財団によって設立され、現在、ソウル駅のすぐ北に置かれている。文字の説明や島のジオラマなどは「領土・主権展示館」と大差ないのだが、なかでも「4D映像館」が特筆に値する。
「独島体験館」のシオラマ
その名のとおり、これは4Dシアターである。かなり狭いものの、一般の映画館のように階段状に椅子が置かれ、映像にあわせてそれが動く。そして3Dメガネをかけると、岩や鳥が飛び込んでくるように見える。
4D映像館の入り口
日本語の説明にいわく、「『4D映像館』では特別に制作された映像と技術を駆使し、東海の一島『独島』を肌で感じられるようにしました」。
映像自体は大したことはないのだが、物酔いするレベルで椅子が激しく前後左右に動くので、まるで遊園地のアトラクションに乗ったかのようだった。孤島の風景に、よくここまでの手間をかけたものだと感心した。
また、同館ではVRスコープも貸し出しており、覗き込むと、竹島のあちこちの映像を立体的に見ることもできた。
たんにパネルを読むよりも、こういう体験型の施設は、来訪者に強い印象を残す。これだけで「そうか、竹島は韓国領か」と思うわけではないものの、記憶にまったく残らないよりマシともいえる。
なるほど、先述したように「主権・領土展示館」にも映像コーナーは存在する。
ただ、それは簡易な椅子が並べられ、映写機で数種類の映像が映し出されるだけだった。会社の研修ではあるまいし、もっとなんとかならないのかと思わされた。案の定、筆者が行ったとき、誰もそこにいなかった。
「主権・領土展示館」の映像スヘース
ほかになにかないかと、奥の図書コーナーにも立ち寄ってみたが、こちらは政府の書類や学校の教科書、そしてなぜか歴史マンガなどが置かれているのみ。棚はスカスカであり、市販本があると思えば、『別冊正論』の「総復習『日韓併合』」や、『WiLL』の「竹島問題100問100答」という有り様だった。
見るひとによっては「面白い」のかもしれないが、なにぶんマニアックすぎる。
ただ、「領土・主権展示館」にも見るべきところがないわけではない。それは、ARの活用である。
ARとは拡張現実のことで、カメラを通じて見える現実の風景に、文字やイラストを重ね合わせる技術をいう。一時大流行した「ポケモンGO」などを想像してもらえばわかりやすいだろう。
ARスホットて専用タフレットをかさした場面
同館では「AR」と表示されたパネルに専用の端末をかざすと、北方領土ではエトピリカ、竹島ではアシカ、尖閣諸島ではアホウドリの3Dモデルが映し出される。数少ない娯楽要素であり、なかなか悪くない。
これは、それぞれのイメージキャラクター、エリカちゃん(北方領土)、りゃんこ(竹島)、アルバ(尖閣諸島)にも対応している。
ただし、この機能は十分に宣伝されているとはいいがたく、わざわざ受付で専用端末を借りる必要がある。これでは不便であるし、3Dモデルにももっとバリエーションが必要だろう。現状では多くのひとが通り過ぎてしまうし、かりに端末を借りても数分で飽きてしまう。
竹島にかんする説明ハネル
いずれにせよ、「主権・領土展示館」は現在のところ、よくある「お勉強」施設の一種であって、領有権を主張する宣伝施設としてはいまいち弱いといわざるをえない。
娯楽の活用をあえて抑制したというのならば見識だが、おそらくはそうでもないだろう。外国語の解説がないところも、なんのためのリニューアルだろうと疑問符が付いた。
このままでは、校外学習や役所の研修などで需要はあるとしても、マニアックなひとびとを除き、一般にはあまり訴求しないのではないか。個人的にはそれでいいのだが、同館はリニュアルしたばかりであるし、展示替えもあるという。今後の展開に注目したい。