ワクチン接種で集中投下論、東京と大阪優先の是非 政令市や地方も要求の「争奪戦」 あす緊急事態宣言正式決定

政府は新型コロナウイルスの感染が広がる東京都、大阪府、京都府、兵庫県に23日、3度目の緊急事態宣言発令を正式決定する。収束の切り札となるワクチンだが、感染中心地の大阪や東京への供給を優先すべきだとの議論が浮上する一方、政令指定都市や地方からも供給を求める声は強く、争奪戦の様相だ。
感染地域への優先接種論が浮上したのは20日。東京都の小池百合子知事と面会した自民党の二階俊博幹事長が「火が燃え盛っているところを重点に抑えられるよう、ワクチン確保についてもっと声を上げた方がいい」と発言。小池氏は「そういった助言は大切にしたい」と応じた。橋下徹元大阪市長もツイッターで「重症化リスクの高い地域にワクチンを集中投下すべきだ」と投稿した。
同日の政令指定都市の市長会の会合では「戦略的なワクチン供給が大事だ」(熊本市の大西一史市長)、「政令市には別枠で配分してもらった方がいい」(京都市の門川大作市長)とする要求が相次いだ。
山形県の吉村美栄子知事は「地方は高齢者が多く、重症化のリスクが高い。一概に感染者が多い所からにはならないのではないか」と反論する。
長崎大熱帯医学研究所所長の森田公一教授(ウイルス学)は「長崎も第4波の入り口だが、80%程度の感染は大都市に関連している。地方都市のためにも首都圏など人口密集地域から高齢者と若年層の両方を接種して集団免疫を目指すのがいいだろう。ただ、現状では供給量不足から不可能ではないか」との見解だ。
政府は6月末までに約3600万人の高齢者全員が2回接種できる量のワクチンを配送するめどをつけたと発表。米ファイザー社から5000万回分(2500万人分)の追加供給を受けることでも調整しており、9月中に国内の接種対象者全員分を確保できるとした。ただ、現状の供給量はわずかで、医療従事者への接種も遅れている。
元厚労省医系技官の木村盛世氏(感染症疫学)は「国民が接種を心待ちにする中で、東京や大阪など感染拡大地域から接種した場合、次の優先自治体の選択で紛糾する恐れがある。自治体の首長の発言も有権者へのアピールの要素もあるのではないか」と指摘する。
木村氏は「1人か2人重症者が出れば医療が逼迫(ひっぱく)する地域もある。重症者の広域搬送や、医療人員の派遣体制の整備が前提で、接種の優先順位の議論は時期尚早だ」と語った。