カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業をめぐる汚職事件の東京地検特捜部の捜査は3日、衆院議員、秋元司被告(48)を追起訴したことで区切りを迎えた。政権の目玉政策に絡み、贈賄側の中国企業が他の衆院議員らにも幅広く政界工作を図っていたことが判明した今回の事件。「政」と「業」の癒着に切り込む端緒となったのは、秋元被告が「財布代わり」(関係者)にしていた芸能関連会社の口座だった。
■元秘書の会社
この会社は東京都千代田区の「ATエンタープライズ」。秋元被告の「金庫番」だった豊嶋晃弘・元政策秘書(41)=収賄罪で在宅起訴=が平成29年6月まで代表取締役を務め、同月以降は別の元私設秘書が代表。2人はいずれも秋元被告の政治団体の会計責任者で、秋元被告も一時顧問を務めていた。
秋元被告は逮捕前、AT社について「(22年の参院選に)落選したころに、収入源として顧問についていただけだ。社の経営にも当然口出しもしていないし、彼らがどういう事業をやっていたのかは一切知らない」と説明していた。
関係者によると、特捜部は秋元被告周辺の捜査を進める中で、AT社の口座に、秋元被告の複数の支援企業から資金移動があることを把握。昨年末、汚職事件の関係先として家宅捜索した東京都内の大手パチンコチェーンもそのうちの一つだった。同社とAT社の間にはコンサルタント契約があったが、特捜部は当初、金額に見合う実態がなく、その総額約400万円は「実質的な政治献金」にあたるとして、昨秋以降、同社関係者を聴取するなど政治資金規正法が禁じる政治資金収支報告書への不記載罪での立件を視野に捜査を進めていたという。
秋元被告をよく知る関係者も「AT社は収支報告書に記載できない資金を入れる財布だった。収報に記載されたくない支援者もいれば、秋元被告が記載したくない資金もあったのだろう」と明かした。
■不透明な入金
特捜部がAT社の口座を丹念に調べる過程で、29年9月1日に仲里勝憲被告(47)=贈賄罪で追起訴=のコンサルタント会社から不透明な200万円が振り込まれていたことが判明する。仲里被告はIR事業参入を目指していた中国企業「500ドットコム」の顧問として紺野昌彦被告(48)=同=とともに活動していた人物。これが今回の事件の端緒となった。
200万円は29年8月、「500」社が那覇市で開催したIRに関するシンポジウムで基調講演した講演料名目で振り込まれたもの。仲里被告は、秋元被告がIR担当の内閣府副大臣に内定したとの情報を把握し、当初の50万円から200万円に増額したことなどを供述したという。
一方、秋元被告の私設秘書の給与がAT社から支払われていたことも判明。AT社の口座を、秋元被告が実質的に管理していたことを示す証拠とみて特捜部は200万円を秋元被告への賄賂と認定し、10年ぶりの現職国会議員の逮捕、汚職事件としては17年ぶりの逮捕につなげた。
■「情報集まる」
事件をめぐっては、「500」社側から別の衆院議員5人側がそれぞれ現金100万円を受け取った疑いがあることも明らかになった。外国企業からの献金を禁じた政治資金規正法違反に当たる可能性もあったが、金額が少ないことなどから立件は見送られた。
ただ、特捜部は今回の捜査で、関係先として数多くの場所を家宅捜索し、資料を集めている。昨年12月25日の秋元被告逮捕当日、秋元被告の「500」社本社視察に同行していた自民党の白須賀貴樹衆院議員(44)や、同党の勝沼栄明(しげあき)前衆院議員(45)の事務所を捜索したほか、大手パチンコチェーンや、秋元被告がマカオ訪問時に視察した大手カジノ事業者の日本法人なども捜索したことが判明している。
ある検察OBの弁護士は「特捜部にはかつてないほど情報が集まっている。今回の事件も昨夏に手掛けた秋元被告の支援者を摘発した詐欺事件がベースにあった。さらなる事件の端緒も見つけているかもしれない」と指摘した。