世界文化遺産に登録された百舌鳥・古市古墳群のある大阪府藤井寺市で、遺跡の上に建てられた大型物流施設の取り組みが注目を集めている。企業側は立地の良さに着目。発掘調査の期間を含めた長めの工期をとって計画を立てた上に、展示スペースを設けて出土品を一般公開した。行政も評価する「遺跡に優しい開発」の実態とは。(藤崎真生)
ネット通販大手のアマゾンなど約10社が入る物流施設「レッドウッド藤井寺ディストリビューションセンター(DC)」。甲子園球場2・1個分に当たる約8万3000平方メートルの広大な敷地は、弥生時代から室町時代にかけての集落跡「津堂遺跡」の中にある。
5階建ての建物に入ってすぐのエントランスに、赤茶色や青みを帯びた灰色の土器約20点が整然と並んでいた。透明な床面には、集落跡が幅約2・4メートル、奥行き約3メートルにわたって模型で復元されている。
施設を手がけたのは、香港にグループ本社を置く物流不動産会社「ESR」。この地を選んだ決め手は、アクセスの良さだった。広報担当のマーケティングオフィサー、横山智子さん(45)は「高速道路のインターチェンジに近く、近畿2府4県に展開しやすい」と説明する。
一方で藤井寺市は百舌鳥・古市古墳群の古市エリアにあり、開発をすれば遺跡を掘り当てる可能性が高い。市教委によると、平成元~30年度に行われた建設工事に伴う試掘・発掘調査は約2900件。年間100件弱という計算になる。
物流施設ほどの大規模造成となれば、何かが出土するのは確実だった。発掘調査の間、着工を待つことになる。それでもESRは立地条件を優先した。
発掘調査は27年5月から約5カ月間行われ、古墳時代の集落跡や、古墳時代から飛鳥時代にかけての灌漑(かんがい)用水路とみられる溝などを確認。とりわけ集落跡は地面に穴を掘って柱を建てた「掘立柱(ほったてばしら)建物」が15棟以上見つかる成果があった。古市古墳群の築造時期と合致するとみられ、施設近くにある「津堂城山古墳」との関係性も注目される。
併せて多くの土器も発見され、その量は破片を含めて整理用箱約230個分に及んだという。
調査結果を受け、ESRは「文化的な遺産を残すことは企業の責務」として、出土品の展示スペースの設置を決めた。施設本体は27年12月に建設が始まり、29年3月に完成している。
今夏、ESRは7~8月の平日、展示スペースを一般公開した。従来は予約を受けて対応してきたが、百舌鳥・古市古墳群の世界文化遺産登録を記念し、夏休み限定の企画として行ったという。
大阪府や愛知県などから考古学ファンら約60人が訪れるなど好評だったため、ESRは予約なしでの公開を12月27日まで、平日午後に続けることにした。横山さんは「企業が積極的に文化を守り、地域との共生を意識することは重要」と力を込めた。
藤井寺市教委文化財保護課の新開義夫さん(51)は「出土した遺物を現地で肌で感じてもらえることは、非常に意義のあること」と話している。
■出土品は「落とし物」
レッドウッド藤井寺DC以外にも、遺跡を保全しながら企業が開発を行った例が、全国にはある。
アサヒビール博多工場(福岡市博多区)では、敷地内の前方後円墳「東光寺剣塚古墳」が壊すことなく整備された。ショッピングセンター「オークワロマンシティ御坊店」(和歌山県御坊市)では、建設の際に見つかった「堅田遺跡」の出土品が展示されている。
文化庁によると、遺跡の存在が知られている土地は全国に約46万カ所あり、年間9000件程度の発掘調査が行われている。
発掘調査の根拠になる法律が、文化財保護法だ。遺跡がある場所で工事を行う場合は、各自治体の教育委員会に工事内容や図面などを届け出る必要がある。偶然遺跡が見つかった場合も、計画などの届け出が求められる。
これ以外に、藤井寺市は「遺跡の範囲内でなくても500平方メートル以上の開発なら事前に届け出ることが必要」などと、独自に規制している。
土器や銅鐸などの出土品は、遺失物法に基づいて「落とし物」とみなされ、一時的に警察の管理下に置かれる。現物の代わりに「埋蔵物発見届」を警察に提出し、持ち主が現れなければ、国や都道府県などのものになる。
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【プロフィル】藤崎真生(ふじさき・まお)
取材を通じて「遺跡と開発」に興味を持つように。平成27年に兵庫県南あわじ市で「松帆(まつほ)銅鐸」が見つかった際は、現地で取材に当たった。記者になる前は建築関連の仕事をしていたため、納期が重要な業者側の気持ちも理解できる。