【太田 差惠子】田舎の親の「老々介護」で大失敗した50代サラリーマンのヤバい末路 最悪の場合、親子で「共倒れ」する…!

地方出身者にとって、遠方で暮らす田舎の老親のことは気がかりの種でしょう。
遠距離の親が老いていくにつれてどんどん新たな問題が…〔photo〕iStock
久しぶりに帰省して顔を合わせると「あっちが痛い。こっちが痛い」「そろそろ、お迎えが……」とネガティブなことばかり口にする親もいます。
私は90年代から介護の現場を取材し、そのリアルな現実や有益な情報を執筆や講演、NPO活動を通して紹介していますが、少子高齢化が進む日本全国でこうした「田舎の老親の介護問題」に直面する人たちが年々増えていると感じています。
九州生まれ、九州育ちのミチオさん(50代、仮名)もいままさにそんな老親問題に悩まされている1人です。

ミチオさんが進学がきっかけに東京に出て来て30年近くが過ぎたいま、気になっているのは、福岡県の実家で暮らす80代の両親のこと。そろそろ「介護」が現実のことになるのでは……、と恐れていたところ、本当にそのときが来てしまったのです。
ミチオさんは、東京都内で妻と大学生の長男との3人暮らしです。ミチオさんには弟がいますが、弟は婿養子となり妻の姓を名乗っているため、「いずれ、僕が親の介護を担うことになる」と覚悟はあったそうですが……。
2019年秋、事件は起こりました。
田舎の母親から「お父ちゃんが、倒れて動けない」と電話がかかってきたのです。
すぐに救急車を呼ぶように指示して、ミチオさんも飛行機で駆けつけました。
帰省するための交通費もバカにならない…〔photo〕iStock
父親は背中の骨が折れていることが分かり入院。ミチオさんは3泊して、東京に戻りました。
しかし、それから3週間目を迎えた日の夕刻、母親から「先生から退院するように言われた」と電話がかかってきたのです。
「仕事を休んで、また福岡にいきましたよ。そして主治医に話しを聞きに行くと、やっぱり『そろそろ退院を』と言うのです。でも、どう考えても、家に戻るなんて無理だと思いました。病院の医療ソーシャルワーカーにも相談したところ施設入居を勧められました」(ミチオさん)

父親がすんなり高齢者施設に入るとは思えなかったものの、母親が1人で看るには負担が大きすぎます。
かといって、ミチオさんは度々仕事を休むわけにもいきません。「施設しかない」と意を決し、両親に話すことにしました。
しかし、それが大きなトラブルの火種になってしまったのです。
父親の病室で、「この状態で自宅に戻るのは無理。高齢者施設に入居した方が良い」と切り出したところ父親の表情はみるみる険しくなり、 鬼のような形相に……。
「誰が施設に入るんだ」と、父親は怒鳴り声をあげたといいます。
親のためを思っての決断でも「施設」を拒否する高齢者は少なくない〔photo〕iStock
それでもミチオさんもひるまず、「そんなことを言っても、僕は仕事があるから頻繁には来られない。頼むから施設に入ってくれ」と応戦。怒り心頭の父親は腕を振り回し、サイドテーブルに置かれていた湯飲みが床に落ちました。ガシャーンと大きな音がして、看護師が飛んできたそうです。
横に居た母親は泣き始め、「施設なんてかわいそう。私がお父ちゃんを家で看る」としゃっくりをあげながら訴えたそうです。

ミチオさんはお手上げ状態で、再度、主治医に相談。病院側も事情をくみ取ってくれて、父親はさらに3週間入院を続け、何とか10mくらいならヨタヨタと歩けるまでになり自宅に戻りました。
しかし、退院後、静かだったのは最初の1週間だけでした……。
「母親から頻繁に電話がかかってくるようになりました。『お父ちゃんが、トイレに間に合わず床を汚した』とか、『お父ちゃんがあれしろ、これしろと怒鳴る』とかってね」と、ミチオさんは眉間にしわを寄せます。
それからも介護保険を使って自宅にホームヘルプサービスなどを入れましたが、それでもほとんどの時間、両親は2人きりで生活をしています。
ミチオさんはとにかく母親が倒れたら大変だと気が気でなく、結局は頻繁に福岡に帰らざるをえなくなりました。
「携帯に実家から電話がかかってくる度に『またか』とぞっとします。父が何と言おうと、退院のタイミングで施設に入れるべきだったと後悔しています」とミチオさんは話します。

私の経験から言えば、ミチオさんの父親に限らず、ほぼ全ての親が施設を拒否すると言っても過言ではありません。
「施設になど入らない。この家で死ぬ」と言う親の多いこと、多いこと……。
本来、施設に入るか入らないかは親本人が決めることでしょう。子としても、できる限り親の意向を尊重したいと考えます。ですが、命の危険が迫るときや、介護者が共倒れしそうなときには、そう言っていられないときもあります。
下記のような時、離れて暮らす子が親の施設入居を決断することが多いです。
1、 親が1人でトイレに行けなくなったとき2、 親が火の始末をできなくなったとき3、 親が食事をとらなくなったとき4、 介護者までが倒れそうになったとき(離職を含む)5、 「要介護4」となったとき
では、親が拒否しそうな場合はどうすればいいのでしょう。
ミチオさんのところは、ミチオさんが父親に「施設入居」を切り出して修羅場となりました。
親世代は、子の言うことには耳を傾けない傾向があるので主治医から言ってもらうのは一案です。「先生」の言葉には意外なほど従順に従い、「先生が言うなら仕方ない」となる親が少なくないからです。
子の言葉より医師の言葉のほうが効くときがある〔photo〕iStock
主治医から言ってもらっても、その他手をつくしてもどうにもならない場合……、「少しの間だから」とか、「病院のようなところだから」とかウソを言って施設に置いてきたという子もいます。
その後の信頼関係を損なうことになるのでできれば避けたいですが、仕方のないケースもあります。

たとえば、介護をおこなう母親までもが倒れることや、頻繁な帰省で仕事の継続が難しくなってしまうような事態は避けなければなりません。
つまるところ、要介護者も介護者もバンバンザイという選択はめったにないという現実を直視することが非常に大事になってくるのです。
「施設に入れようにも、有料老人ホームに入れるだけのお金はない。特別養護老人ホームは混んでいる」という人もいるかもしれません。
しかし、通常、遠距離介護では特別養護老人ホーム入居は有利に働きます。申し込み順ではなく、必要度合いの高い人が優先されるからです。

保育園の入園と似たスタイルでポイント式になっているところが多く、介護者が高齢だったり、遠方に暮らしていたりすると加点されます。
実際、同居や近居の方に比べると、親御さんがスムーズに特別養護老人ホームに入居されるケースをみることが多いです。申し込めるのは原則要介護3からですが、状況によっては要介護1から受け入れるケースもあり、認知症で「要介護1」の親が「即、特養に入居できた」という人もいました。
現在、病院に入院できる期間はかなり短くなっています。
遠方で暮らす親がけがや病気で入院した場合、早い段階で退院後のことを考えてテキパキと動くことが大切なのです。