2019年12月、一瀬邦夫社長直筆の「社長からのお願い」の貼り紙が話題となったステーキチェーン「いきなり!ステーキ」。その運営会社である「ペッパーフードサービス」が経営的に大苦戦する中、「週刊文春デジタル」の取材により、「いきなり!ステーキ」の都内店舗における外国人不法就労が問題になっていたことが明らかとなった。
【画像】1月も高い頻度で不法就労していたことがわかる外国人Xさんの勤怠メモ
2019年12月に一斉に貼り出された一瀬社長の「お願い」 文藝春秋
同社が2月14日に発表した2019年12月期の連結決算は、最終損益27億円の赤字。「いきなり!ステーキ」は店舗数急増で自社競合が起き、既存店売上高は前の期比30%減と低迷した。 今回、外国人の不法就労で問題となったのは「いきなり!ステーキ」東中野店。不法就労を働いていたのはバングラディシュ国籍のXさんだ。Xさんは約1年前から同店で働いていた。
「Xさんは20代前半のバングラデシュ人。日本語学校に通う留学生でした。勤勉で、日本語も上手なうえに気さくな人柄で、スタッフの信頼も厚かった。働き者で、学生ビザの労働時間の上限いっぱいである週28時間、シフトに入っていました。肉の焼き方など調理技術も他の日本人アルバイトよりも上だったと聞いています」(ペッパーフードサービス関係者)
Xさんは2019年10月27日に学生ビザが切れ、店を去った。しかし、辞めたはずのXさんが、なぜか2019年12月末から店舗に戻り、ふたたび働き始めたという。
その経緯を別のペッパーフードサービス関係者が説明する。
「就労が認められていないということは、Xさん本人もオーナーのAさんももちろんわかっていました。その上で、年末年始の人手不足を乗り切るために、オーナーのAさんがXさんに『働いてほしい』と打診したのです。オーナーはXさんの働いた分の給料を、同じ店のアルバイト・B子さんが働いたことにして、いったんB子さんの銀行口座に振り込まれた給料の中から、Xさんの分を取り出し、現金で手渡ししていた。オーナーは不法就労のスキームにB子さんも巻き込んだのです」
Xさんは自分の勤怠状況をメモに書いて店長に渡していたという。取材班が入手した4枚のメモを見ると、Xさんは2020年1月だけでも100時間を超えるペースで働いている。
だが、1月27日になって本部のスーパーバイザーがこの事態を把握した。その後、スーパーバイザーがXさんに事実確認をすると、以降、Xさんは店に来なくなったという。
取材班は2月11日、Xさんに声をかけたが、「手伝っていただけ。お金はもらっていない」と流暢な日本語で答え、足早に去っていった。
翌12日、オーナーのA氏を直撃すると、おおむね事実を認め、こう話した。「自分がやったこととして事実を受け止めて、処分を甘んじて受け入れます。人材の確保は本当に大変なんです。年末年始にかけて、(10月で辞めていた)Xさんの穴を埋めようとしましたが、(新人を雇ったとしても)そんなすぐには焼き手が育たないし、一から教えないといけないということもあり、教育コストもかなりかかるんです。もちろん人手不足ということがなければ、Xさんに声をかけることはなかった。
だからと言って、他の直営店とかに人員のヘルプを投げかけることができる環境も今は整っていません。以前は会議が終わってから(他の店長と)一緒に飲みに行ったりとかして情報交換をしていたのですが、2019年に入ってから、会社の経営悪化が進んでしまい、どの店舗も余裕がなくなってしまい、自分の店で手一杯という状況なんです」
不法就労の外国人は年々増えているという。だが、雇用者側にも労働者側にも厳しい罰則規定がある。不法就労問題に詳しい広尾パーク法律事務所の尾家康介弁護士が話す。「今回のようなケースでは、雇用主は『出入国管理及び難民認定法』第73条の2第1項1号の『不法就労助長罪』に抵触する恐れがあり、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金が科せられる可能性があります。不法就労していた外国人は、最も重い場合で、同法第70条1項4号に則り、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金が科せられる可能性があります。刑事罰と退去強制の関係は複雑なので、一概には言えないですが、基本的に不法就労が発覚した場合は刑事罰に問われてから退去強制という流れが多いです」
外国人の法務サービスに特化したコンサルティング会社ACROSEEDの代表で行政書士の佐野誠氏が、近年の不法就労の実態を解説する。
「この2、3年で不法就労が発覚して、自国に強制退去されている人数だけでも、毎年約1万人ほどいます。まさに今回のようなケースがポピュラーな手口なのです。つまり、学生ビザが失効した後に、難民認定申請をしながら日本に在留し、不法就労に及ぶのです。このような外国人は『偽造難民』と呼ばれています。日本の難民認定審査は極めて厳しく、難民申請はほとんど通りませんが、その結果が出るまでの1年から1年半ほどの間、とりあえず日本に在留することができる。
偽装難民を含めた不法就労の問題は、飲食業界で特に頻発しています。日本の飲食業界は、外国人労働者なしでは成り立ちません。数年前までは中国人労働者が出稼ぎのために日本に進出していたのですが、中国の経済発展と『留学生30万人計画』によりここ数年でベトナム人留学生が増えています。
この偽造難民の影響で、本来保護されるはずの本当の難民が不利益を被っています。入管局としても難民と偽造難民の区別は難しい。2019年の日本における難民認定者は20人と諸外国と比べてもケタ違いに少ないのですが、偽装難民の存在が難民認定の門をより狭くするのです」
今回の事態を「ペッパーフードサービス」はどう受け止めているのか。同社広報部に一連の事実関係の確認を求めると、全面的に事実を認め、メールでこう回答した。《不法就労が疑われる状況が発生していることに当社が気付いたのは、当社の本件店舗担当スーパーバイザーが2020年1月27日に本件店舗を訪店した際のことです。(中略)事実確認を行ったところ、A氏がXさんの在留期間が更新されていないことを認識したうえで、Xさんを就労させていた事実が確認されました。このような事実が確認されたことから、当社では、同年2月4日に開催した当社コンプライアンス委員会において、A氏との本件店舗の運営についての業務委託契約を解除することを決定いたしました。(中略)
当社では、昨今、人手不足が社会問題となっていることを踏まえ、店舗サポート体制を整備し、スポット派遣サービスの導入などを含めたサポートを店舗オーナーに対して行っております。ただ、今回、本件のような事態が発生した事実につきまして、当社としては重く受け止めており、今後この様な事が起きないよう、再発防止に努めてまいる所存です》
Xさんへの給料の迂回支払いのために銀行口座を使わせたB子さんには、本部が厳重注意を行ったという。
実は、Xさんは現在、別の焼肉店で不法就労を続けている。「安価で美味しい」が当たり前のようになっている外食産業をはじめ、日本の多くの産業がこうした違法な雇用に頼らなければ立ち行かない。それが現実だ。日本はその構造的な問題に向き合わなければならない時期に来ている。
(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)