米中の圧力・侵略から日本を守る海上自衛隊応援構想

たかなみ型の護衛艦(海上自衛隊のより)
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政府は先月18日、シーレーン(海上交通路)を通る船舶の安全に関する情報収集のため、防衛省設置法の「調査・研究」の目的で、「P-3Cオライオン」哨戒機2機と護衛艦「たかなみ」を中東に派遣した。
この措置に対して、立憲民主党や共産党などは反対した。その理由が「派遣地域が危険だから自衛隊の安全が確保されない」というものである。
元自衛官の筆者には、このセリフは偽善に聞こえる。
自衛隊発足以来、立憲民主党など左翼政党の「先祖」に当たる社会党や共産党は国会論戦や街頭デモなどで自衛隊を敵視し続けてきた。
今日の左翼政党も何ら変わらないスタンスだ。自衛官だった私はそれを肌で感じる。
そんな自衛隊を憎む左翼政党が取ってつけたように「自衛隊の安全が確保されない」と言っても「屁理屈」にしか聞こえない。
腹の中では「派遣前にこれだけのアリバイを国会で作っておけば、海上自衛隊員に不測の事態が発生した場合にも『それ見たことか、俺たちは反対したじゃないか』と政権を攻め立て、政局に大打撃を与えられる」と算段しているに違いない。
左翼政権の別動隊(「市民」と自称)も海自の中東派遣反対デモで「自衛官の命が心配」と、偽善の台詞を口にした。
護衛艦「たかなみ」の隊員が、日本国民のために命懸けで中東に出発するその日も、「市民」団体は海と陸から抗議の声を上げた。
彼らのシュプレヒコールは、日本の商船・タンカーの護衛のために命懸けで中東に向かう海自隊員たちにとっては“罵声”としか聞こえなかったはずだ。
この「市民」たちは、日々使う乗用車・電車や電気がどこからもたらされているのか知っているのだろうかと疑いたくなる。
我が国の海洋事情を地政学的に俯瞰すれば、領海および排他的経済水域の面積は世界第6位、領海および排他的経済水域の体積は世界第4位となる。
我が国は、この広大な海域および深度水域を守らなければならない。
輸出入を合わせた日本の貿易量は、年間9億トン以上である。この内99.7%を船、残りを航空機が運んでいる。
全世界の海上貿易量が約55億トンであるが、世界の「70分の1」の人口比の日本1カ国だけで世界の貿易量の「6分の1」を占めていることになる。
これすなわち、我が国の「生命線」は海なのである。
それゆえ、日本の繁栄の基盤であるシーレーン(海上交通路)の安全確保は日本存立のための「最重要課題」なのである。シーレーン防衛にあたるのが海上自衛隊である。
マハンは「シーパワー理論」で、「“島国”のアメリカが世界を支配するためには、アメリカに繁栄・富をもたらす大商船隊が必要で、同時に大商船隊そのものとシーレーンを防護する任務の世界最強の海軍力が不可欠である」と説いた。
その理論に基づき、大商船隊と大海軍力を建設した米国は、パックス・アメリカーナと呼ばれる世界覇権態勢を確立した。
パックス・アメリカーナの実態は、極論すれば「米海軍が世界の海洋を支配していること」だ。
近年、中国の台頭で、それが脅かされつつある。
大陸正面を砂漠や山脈・ジャングルなどに囲まれ、事実上“島国”の中国もマハンのシーパワー理論を採用し、国を富ませて14億人を養うためには「海に出る戦略」を採用し、大海軍力の建設に邁進している。
米中の覇権争いは、太平洋を舞台に両国の海軍力強化競争が勝敗の行方を左右するといっても過言ではなかろう。
そこで、米海軍が最も頼りにしているのが旧帝国海軍(米海軍と死闘を演じた)以来の伝統を引き継ぎ、「精鋭」で鳴る海上自衛隊である。
我が国の外交・安全保障は日米同盟が基軸であるが、それを実質的に支えているのが海上自衛隊なのである。
太平洋を巡る米中の覇権争いという戦略環境を考えれば、海上自衛隊に求められるミッションは今後ますます増大することは必至だろう。
その海上自衛隊は、現在、隊員不足(少子化の中で志願者不足)に悩まされ、一方では海外ミッション(海賊対処、災害派遣、後方・復興支援等)が急増し、もはや任務遂行のための訓練さえも十分に行えない程の苦境に直面している。
人手不足は、海上自衛隊だけではない。
日本商船隊を運航する船員は約5万人、うち外国人はフィリピン人70%、インド人6%、そ の他、中国・インドネシア・ミャンマーなどとなっている。
日本人はわずか5%(2600人)。外国人船員の存在を抜きにして日本商船隊は存続できない。
日本商船隊は外国人を採用できるが、国防の任に当たる海上自衛隊の場合は、隊員を外国人傭兵にするわけにはいかない。
明治維新後、我が国もマハンのシーパワー理論に沿い「海国日本」を標榜し発展を遂げた。
四面を海に囲まれた日本国民のメンタリティが海を志向することは極めて自然だった。文部省唱歌には「海」や「われは海の子」など定番が多いのはその証だ。
そんな日本人(特に若者)がいつの間にか、海を遠ざけるようになったのだ。それだけではない、海外に雄飛する気概も失われつつある。
ちなみに、英国海軍に多くの知己を持つ私の友人(海自OBの商社マン)が昨年末の休暇で帰られた折に「英国海軍でも志願兵確保には困っているのですか」と問うたところ次のような意外な答えが返ってきた。
「英国海軍の場合、人手不足という話は、あまり聞かない。志願者には事欠いていないようだ。その背景としては、やはり国民の海軍(あるいは軍そのもの)に対する理解があろうかと思う」
「加えて、軍と王室との緊密な関係も挙げられると思う。私は、英空母プリンス・オブ・ウェールズの就役式を見る貴重な機会を得た。式はチャールズ皇太子(プリンス・オブ・ウェールズ)およびカミラ夫人出席のもと、厳粛かつ盛大に行われた」
「なお、当日12月10日は、同名戦艦がマレー沖海戦において日本軍の航空攻撃により撃沈された日であった。彼らは、あえてこの日を選んで就役式を行ったわけだ」
「私は、軍と国民、それに王室との緊密な関係、加えて伝統の継承といった要素が、忠誠の対象を明確にし、それが英海軍を精強たらしめていると考える」
「『何のための海上自衛隊なのか』『何のために戦うのか』、これらが明確になって初めて若者たちは海上自衛隊を選ぶのではないだろうか」
私は、深く尊敬する商社マンの友人からこの話を聞いて、同じ海洋立国の日本と英国のあまりの違いに言葉を失うほどの衝撃を覚えた。
また、頭の片隅に「ノブレスオブリージュ」という言葉が浮かんだ。
この言葉は、身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳観である。
安倍晋三総理は憲法改正を急いでいるが、英国海軍の有り様を見るにつけ、憲法改正だけでこの国の有り様を変えるのは難しいと言わざるを得ない。
現下の我が国が置かれた状況を考えれば、海上自衛隊の強化・拡充が喫緊の課題だと確信している。
そのために、海自の強化拡充を願う仲間が集まって、「海上自衛隊応援団」についての構想を模索しつつある。
読売ジャイアンツや阪神タイガースの応援団のように、全国横断的に海上自衛隊の応援団を組織したいと考えている。
このような国民的な応援団ができれば、海上自衛隊と国民の間に確固たる連携の絆を結ぶことができるのではないだろうか。
憲法にも記載されていないいわば「庶子」の状態の自衛隊にとって最も欲しいのは国民の理解と声援なのである。
「海上自衛隊応援団」が目指す第一は「海自に対する国民理解の醸成」である。様々な手段で国民に海上自衛隊の活躍の様子や現状を広く知らせることである。
国民に海上自衛隊のことが広く浸透すれば、隊員募集に対する協力も得られやすいだろう。
また、隊員が国家・国民の負託に応えて、海外の困難・危険な任務に遠征する場合も、護衛艦「たかなみ」の隊員達が出航する際に浴びせられた「市民」の心なき“罵声” もやむだろう。
むしろそのような「市民」が、進んで自身の子弟を海自隊員として入隊させてくれるかもしれない。
「海上自衛隊応援団」が目指す第2は「国民の『海を愛する心』の回復」である。
全世代にわたり、「海を理解し、海に親しみ、海に挑戦する」マインドを回復させることである。このために、海上自衛隊を最大限に活用することは言うまでもない。
実は、すでに『海に親しむ心』を育む取り組みがなされてきた。それは、公益財団法人 日本海洋少年団連盟(海洋少年団)である。
海洋少年団の歴史は、1924年12月、油谷堅蔵海軍少将、小山武海軍少将、原道太海軍大佐らによって大日本東京海洋少年団が結成されたことに始まる。
1945年6月、第2次世界大戦の激化に伴い一次解散されたが、1951年、連合国による占領終了に伴い、同年5月に少年「海の会」発足し、7月に日本海洋少年団連盟が結成され、今日に至っている。
海洋少年団では、「しつけは訓練の基本」という考えのもと、幼稚園児から高校生までの男女の団員が海を活動の場として、子供の時から海に親しみ、団体生活を通して社会生活に必要な道徳心を養い、心身ともに健康でたくましい人間の育成を目指している。
「海上自衛隊応援団」構想は、まだ「小さな種」の段階である。
その「理念」を確立し「組織を作り」、「活動を始めるには時間がかかり様々な障害を乗り越えなければならないだろう。
しかし、我が国が生き残るためには、その努力が不可欠だと信じている。
「アメリカ・ファースト」を標榜する米国のドナルド・トランプ大統領は、在日米軍経費を4倍の8700億円を負担するよう安倍政権に求めている由。
トランプ氏が「8700億円寄こせ」という。これに対する回答として、私は次の選択肢があるのではないかと思う。
第1案:日米同盟重視で米国に支払う(我が国の防衛を米国に依存する体制を継続)
第2案:自衛隊の拡充強化のために投資する(自主防衛力強化)
そもそもトランプ氏は、日米安保条約の片務性を強調してきた。トランプ氏はさらに、ツイッターで 「自国のタンカーは自国で守れ」 と発信した経緯がある。
日本はそろそろ自主防衛にシフトしていくべき時期ではないのか。
もちろん、筆者としては、年間8000億円の予算を海上自衛隊の強化・拡充のために優先投資すべきだと考える。
筆者が不満・不安・不可解なのは、政府(官邸、防衛・外務省)もメディアも野党も、トランプ氏の要求に対する対応案として、馬鹿の一つ覚えのように「第1案ありき」と考え、第2案(自主防衛力強化)という発想がないことだ。
「骨の髄までアメリカの属国なってしまったのでは」と疑ってしまう。情けないことだ。
「桜を見る会」の審議は必要だとしても、差し迫った国民生命の危機である新型肺炎の流行や在日米軍経費増を求める米国への対処などについて国会でもっと優先的にかつ真剣に論議すべきではないのか。
私は、元陸上自衛官で、陸自に対する愛着は人一倍強いと自負している。
当然のことだが、私の拙論に続いて、「陸上自衛隊を応援しよう」「航空自衛隊を応援しよう」、さらには「自衛隊を応援しよう」という声がJBpressに寄せられ、その運動が展開されることを期待してやまない。
そうすれば、我が国が「自国の安全を他国に依存する」という“ハンディキャップ国家”状態から解脱する道筋が見えてくるのではないだろうか。
筆者:福山 隆