【大原 みはる】ネットで自宅マンションを売り出したら、トントン拍子すぎて驚いた話 業者ナシでマンション売却体験記(5)

前回記事はこちら【自宅を「不動産業者と一度も会わずに」売り出せる驚異のしくみ】
不動産仲介業者に頼らない中古マンション売却体験談の第5回は、いよいよ「おうちダイレクト」の「セルフ売却」に物件情報を新規登録し、売り出しを開始してからの顛末である。
運営側から審査完了の連絡をもらった後、いよいよ掲載(売り出し)開始ボタンを押す。初めてのことなので、もちろんワクワクドキドキ感はある。しかし、絶対いけるぞ! という確信はない。
その理由は前回も書いたとおり、ヤフーが運営しているとはいえ認知度は決して高くなく、物件を掲載したとして、実際に成約につながるかどうか半信半疑の面があったからだ。
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筆者の売却理由は自宅の買い替えのためではなかったから、資金面で売り急いでいたわけではない。そのため、順調に売れなくてもそれほど困るというわけではなかった。しかし賃貸マンションへの転居計画は立てていたから、掲載してみて1カ月以上何も音沙汰がないようなら、「実験的利用の終了」と称して「セルフ売却」から撤退することも念頭に置いていた。
というのも、既に訪問査定を受けていた仲介業者の一つから、訪問査定後も熱心に「売り出す決意を固められたらぜひうちに(専任媒介で)お任せください」と継続して声をかけられていたためである。
これに対して筆者は、「両手取引の問題とか、いろいろ気になるんですよね」としきりに牽制したり、「売却を急いでいるわけではないのと、いざ見学を受け入れられる状態にもないので、準備が整ったら仲介を頼むかもしれない」と言い訳しながら引っ張り続けていたのだ。
こうした状況もあり、筆者はいつでも他の仲介業者へ乗り換えられるルートを確保しておきつつ、まずは「セルフ売却」利用を始めたわけである。

そんな二股をかけるようなやり方をして大丈夫なのか、と疑問をお持ちの読者もいらっしゃるかもしれない。だが、全く問題ない。これまた「セルフ売却」ならではの特徴・メリットの話になるが、気軽に始められるだけでなく、いつ利用を止めるかも原則として自由だからだ。
前回も書いたが「セルフ売却」では、初回の見学が入る前に売主はSRE不動産と一般媒介契約を締結する。その期間は一応3ヵ月となってはいるが、これは建前にすぎない。
「本気で売るつもりはなかった」といって新規の見学申し込みが入った直後にあわてて掲載を取り下げるとか、既に確定した見学予約をドタキャンするといった重大なマナー違反さえしなければ、いつでも物件掲載を取り下げて「セルフ売却」の利用を終了(休止)させることができる。サービスの利用(物件掲載)を止めた後は、利用規約で定められた他社並行利用禁止ルールは適用されないので、他社と媒介契約を締結して販売活動を開始してもよいという。
ところが、もしこれが最初から他の仲介業者との専任媒介契約を結んでいたとしたら、これほど柔軟にはいかないようだ。依頼した仲介業者の動きに売主が不信感を持っても契約期間中(3ヵ月)は我慢するしかないという話はけっこう聞くので、途中撤退自由の「セルフ売却」が如何に柔軟な仕組みかが分かるだろう。
このように、当初はあまり当てにせず始まった売却活動だが、実際に始めてみると、見学者が現れないのではないかという懸念は一瞬で吹き飛んでしまった。最初の見学予約の申込連絡が入ったのは、なんと掲載開始してからたったの3日後。実際の見学日は9日後だった。
「セルフ売却」では価格変更も容易と聞いていたから、筆者としては、最初は実験という意味も兼ねて他の仲介業者の査定額を根拠に、AIが勧める売り出しおすすめ価格を300万円以上も上回る、少々強気の値段で売り出したつもりだった。そんな我が家に、こんなに早く興味を持ってくれる人がいるとは……と最初は少々驚いた。

筆者はもともと、広くインターネットを通じて情報を拡散し、不動産の買い手を探す方法(いわば空中戦)は、リアルな顧客を抱える仲介業者が次々と見込み客を見学に送り込む地道な方法(いわば地上戦)と比べ、やや非力ではないかと考えていた。
そもそも「セルフ売却」の認知度が今一つである上に、物件はYahoo!不動産にしか載らないから売れにくく失敗する、ということが不動産売却ノウハウのまとめサイトでけっこう書かれていたからだ。
しかし、見学予約の連絡を入れてきたSRE不動産の営業員と話すうちに筆者は認識を改めた。筆者が売却活動を行った当時、「セルフ売却」物件は、ヤフーが運営する不動産情報サイト「Yahoo!不動産」のほか、住宅情報サイト大手のSUUMO(リクルート)とLIFULL HOME’S(LIFULL)にも転載されるようになっていたためだ(このことをヤフーはきちんとアピールし、ネット上の誤情報についてはきちんと訂正を要請すべきだと思う)。
本気で家を探している多くの人は、様々な売り出し物件が載っているこうした不動産ポータルサイトをたびたび見て、地域や駅名、間取りや価格などで検索しながら意中の物件を絞り込んでいく。購入検討中の人から見れば、その中の1件が筆者の自宅で、売り方がたまたま「セルフ売却」だったというだけなのである。
このように、「セルフ売却」物件も、ひとたびポータルサイトに載せてしまえばマンションを探している多くの人たちの目に触れ、問い合わせを受ける可能性が出てくる。買い手候補からの問い合わせ窓口(=買主側仲介業者)はSRE不動産に独占されるが、両手取引のために問い合わせがブロックされることはなく、すべて売主に伝達される。だから、通常の一般媒介や専任媒介と比べて売却機会を逃すことにはならないのだ。第4回で触れた「セルフ売却」がSRE不動産による新たな「物件囲い込み」のしくみだ、という批判がナンセンスなのはおわかりいただけるだろう。
そんなことが頭の片隅をよぎりつつも、掃除と片付けで慌ただしい1週間が過ぎ、ついに初めての見学者を我が家に迎えることになった。この方は我が家をたいそう気に入ってくださり、後日さっそく購入申込があった。何というご縁だろう。もっとも、価格については筆者が掲載していた売り出し価格から5%程度の値引きを申し入れてきたのだが。
5%と言えば、不動産の値段であれば100万円単位だ。これまで家を売ったことのない筆者は、正直ここまでの値引きの申し入れがあるとは思っていなかった。そもそも物件の見学申込を入れてくる人は、一応この値段(売り出し価格)でなら買ってもいいと考えていて、資金計画的に無理な物件はわざわざ見学しに来ないだろうと思っていたからだ。

もちろん、買い手だって1円でも安く手に入れたいに違いない。冷静に考えれば、仲介業者と相談し、売主との駆け引きとしてダメ元でとりあえず値切ってみよう、というのは当たり前のように行われていることなのだろう。
「セルフ売却」の場合、一般的な仲介業者に任せたときと異なり、価格や売却スケジュールを決定する主導権は完全に売主にある。したがってSRE不動産の営業員も基本的には「双方の希望価格に乖離がある以上、先方の希望価格にご納得がいかなければ、値引きには応じないと断ってもいいですし、値引き幅を縮めた新価格を先方に提案しても構いません」いうスタンスを貫いていた。
しかし、営業員はこう付け加えるのを忘れなかった。
「お断りした場合、今後、今回より高い値段で売れるかどうかはわかりません。最初のご縁を大切にするのもありだと思います」
SRE不動産としては成約を出したいに決まっているので、一般的な仲介業者より緩い言い回しではあるが、なるべく売主が納得してくれればと思っての発言だったのだろう。
筆者としては、「セルフ売却」で売主と買主の間に入るSRE不動産は、あくまで買主側仲介業者であり買主の味方である、という意識をうっすらとではあるが頭の中に持っていた。ただ、SRE不動産としても買主利益(値引き)ばかりを追求すると成約につながらない。営業員は絶妙のバランス感覚で仕事をしているな、と感じられた。
なお、そうしたやりとりはともかく客観的な数字だけでみると、それなりの値引きを含んだ買主の希望額ですら、実は「おうちダイレクト」の推定成約価格を300万円以上上回っていた。
また、他の仲介業者から先に入手していた査定価格水準と比べても遜色ない数字で、仲介手数料を払わなくてよい分を考えれば、間違いなく入手した査定額のなかでもトップレベルの高値であることは確実だった。だから妥結しても問題ない、という結論が早々に出せた。

もっとも、あくまで交渉ごとなので、先方の提示額から多少値引き幅を縮小した数字でどうか、といったん再提案してもらった。このやりとりを2~3回続けると程なく合意に達し、こんなに順調すぎて大丈夫なの?とさえ思うほどのペースで、売買契約締結に向けてトントン拍子に動き出した。
しかしそんな矢先、一抹の不安は現実のものとなる。いざ契約に進もうとした段階で先方の資金計画に支障が発生し結局話が流れてしまったのだ。
この「破談」が確定した時点で、当初の「セルフ売却」利用実験期間の1ヵ月は過ぎていたが、十分に手ごたえを感じていたので、売却活動を再開することにした。価格に合意できた時点で、その後の見学申込が入らないように物件情報の掲載をいったん取り下げていたのを、再び掲載状態に戻したわけである。
ところが再開後の売却活動は序盤と打って変わり、それなりに見学者は来るが、なかなか購入申込には至らない日々が続いた。
以前に日本経済新聞夕刊のコラム「やりくり一家のマネーダイニング」(2019年2月13日掲載)で、「週末ごとに2組以上の内見(引用者注:見学のこと)があれば、1カ月くらいで売れる可能性が高い」という意見を目にしていたので、しばらく見学予約が入らないとヤキモキすることもあった。
それでも再掲載から3週間ほど経ち、ついに2件目の購入申込が入ってきた。やはりこのときも値引きを要請され価格交渉を試みたが、最終的には、最初の「幻の買主」よりわずかに安い額で筆者が売却を決断するかどうかに委ねられた。
ここで価格交渉を打ち切って売却活動を続ける手もあったが、結局筆者は買主の希望価格を受け入れることにした。このころには筆者の転居先が決まりかけていたので、もしこの購入オファーを断れば、我が家はオーナー退去済の空室となる可能性が高く、そうして「売れ残り感」を出すのもどうかと考えたからだ。売買契約を締結したのは、最初の売り出し開始から2ヵ月あまり経った頃だった。
この間、見学を受け入れたのは累計6組。先ほどの新聞記事の「週末ごとに2組」と比べると決して多くはなかった。それなのに2ヵ月で決まったのは、幸いといわねばならない。

もっとも、物件見学の引き合いの多寡は、その時期に中古物件を探している人の総数(年明けから年度末は多いなど時期により変動がある)だけでなく、物件情報サイトでの絞り込み条件(表示価格帯)の関係で売り出し価格をいくらにするかにも大きく影響される。
だから我が家の見学件数がやや少なめだったと思われる点は、必ずしも「おうちダイレクト」という媒体、そして「セルフ売却」という手法自体の良し悪しが理由だったとは限らないと筆者は思っている。
さて、このようにいろいろ紆余曲折はあったが、筆者の「セルフ売却」によるマンション売却体験はこうして幕を閉じた。ただ、本稿をお読みいただいたみなさんは、読後に一つ疑問をお持ちかもしれない。筆者の家はたまたまうまく売れただけで、この体験談は一般論としては当てはまらないのではないか、ということだ。
実は、筆者も売却が決まった直後はそう考えていた。しかし、成約後にSRE不動産の営業員と意見交換する機会があり、筆者は考えを改めた。
ひとくちにマンションと言っても、立地、間取りなどスペックはさまざまである。「セルフ売却」がある意味特殊な売り方である以上、利用に適した物件とそうでない物件があるようだ。そして前者なら、「セルフ売却」がうまくいく可能性は高い。我が家はたまたま「セルフ売却」利用で成功したわけではなく、「セルフ売却」向きの物件だったから成功したと考えられるのだ。

初回に書いた、こんないい方法が世の中で広く知られず、使われないのはもったいないという筆者の思いは、まさにこの点から導き出されたものだ。「セルフ売却」に向いた物件こそ、どしどし自分で売るべきなのである。
というわけで次回は、筆者の体験から見えてきた、「セルフ売却」に向く物件、向かない物件の見分け方について紹介することにしたい。
(つづく。本記事は「おうちダイレクト」の PR記事ではありません)