宮城県が観光振興の安定財源確保のためとして導入を目指していた「宿泊税」。導入に向けて議論が続いていたが、肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染拡大を理由に村井嘉浩知事は2日、県議会に提出していた関連条例案を取り下げる異例の対応を取った。地元の宿泊事業者からは安堵(あんど)の声があがったが、観光振興財源の確保の方法は今後も議論を呼びそうだ。
議案取り下げ
「議会の途中で議案を取り下げることはあってはならないが、新型コロナウイルスの影響でキャンセルが続き、宿泊事業者に心理的負担をかけることはできない」
村井知事は苦渋の決断に至った理由をこう述べた。今後の方針については「全くの白紙」と強調した。県議会側も村井知事の申し出を承認した。
また、仙台市も宿泊税導入を見据え「市交流人口拡大財源検討会議」を設置し、本年度中の方針取りまとめを目指していたが、同様の理由で先延ばしにする見通しだ。
今回の県の議案取り下げについて、同県気仙沼市のホテル経営者は「感染拡大の影響で業界全体が宿泊税どころではなくなっている。撤回は当然だ」と受け止めた。このホテルも2月24日からの1週間で約150件の宿泊キャンセルが発生していた。
観光財源の確保
村井知事はこれまで、将来的な観光財源確保の重要性を訴え続けてきた。
「今後急激に定住人口が減り、少子高齢化が進むことが予測される。第3次産業中心の県経済を維持していくためには交流人口に頼らざるを得ないというのは誰もが理解していることだと思う」(2月10日定例会見)
県の試算によると、県人口は今後25年間で約50万人減少する見通し。一方、社会保障費は令和5年度には本年度に比べ100億円以上増大することが予想されている。
県が今回示した宿泊税案は「1人1泊の宿泊料金が3千円以上は一律300円、3千円以下は課税免除。修学旅行生も免除。課税期間は令和3年4月から5年間」というものだった。
宿泊業者は懐疑的
一方、宿泊業者からは導入に懐疑的な意見が以前からあった。県の観光統計概要によると、平成30年の県内宿泊観光客は約940万人で、そのうち約3割が県内居住者。このため「県民から宿泊税を徴収し観光振興に充てるのは矛盾している」との指摘だ。加えて昨年の消費税増税、復興事業の縮小による宿泊者数の減少というタイミングの悪さもあった。
また、仙台市の宿泊業者からも疑問の声が上がっていた。秋保温泉で旅館「緑水亭」を経営する高橋明浩社長は「県と市の議論が不足している。温泉地ではお客さまに入湯税も負担してもらっている。宿泊者が減少している中、なぜ宿泊業に新税を導入するのか」と懐疑的だった。
思わぬ形で一転、白紙となった宿泊税の導入だが、観光財源の確保は恒久的な課題でもある。気仙沼市のホテル経営者は、宿泊税議論が再燃することも視野に入れ、「これまで議論があまりに拙速だった。宿泊業界と行政が足並みをそろえることが重要だ」と県に注文をつけた。
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【宿泊税】 ホテルや旅館などに宿泊する人が課税対象で、東京都、大阪府、京都市などで導入されている。東北地方ではまだなく、導入すれば宮城県が初めてだった。県は平成23年の東日本大震災以降、国の東北観光復興対策交付金や復興関係基金などを観光施策に投入してきたが、同交付金は令和2年度の終了が見込まれている。県は平成30年に「県観光振興財源検討会議」を設置し、同会議は今年1月に「宿泊行為への課税が適当」との報告書をまとめ、県に答申した。
【記者の独り言】 関連条例案が取り下げられた宿泊税。ただ、これまでの議論の中で争点となる問題は浮かび上がった。気仙沼市のホテル経営者は「被災地の宿泊業者は再建費のローン返済に追われている者もいる」とも明かしている。一方で、県経済発展のための観光振興政策の財源確保は今後も重要な課題の一つとしてあり続ける。今回の取り下げを課題再考の機会と捉え、被災地の事情など県の特性を踏まえた慎重な議論を期待したい。(塔野岡剛)