鈴木直道・北海道知事は“次代の総理”か“官邸の駒”か? 新型コロナ対応で見えた「政治センス」

ちぐはぐ続きで批判が相次ぐ安倍政権の新型コロナウイルス対応とは対照的に、評価を高めたのが北海道知事の鈴木直道だ。感染者数が全都道府県の中で最も多く収束は見通せないが、「一斉休校」や「緊急事態宣言」など、“政府の動きに先立って手を打った”と喝采を浴びる一方、菅義偉官房長官との関係の近さから“政権の観測気球を放つのに利用されただけ”という見方もある。どちらが正しいのだろうか。
「政治判断の結果責任は私が負う」
3月8日現在、北海道内の感染者数は101人でクルーズ船での感染者を除いて国内最多。国内の死者6人の半数は北海道だ。
50代の公立学校の教員の感染を公表した2日後の26日水曜日午後、鈴木知事は緊急会見を開き、約1600校に及ぶ小中学校の1週間休校を道内自治体に要請。28日金曜日には「緊急事態宣言」を発表して、週末にあたる29日、3月1日の外出を控えるよう道民に呼びかけた。
経済的影響が大きくなったことを受けた次の週末(7日、8日)には「大勢の人が集まる場所への外出を自粛」という表現に修正して行動制限の度合いを緩めたが、「政治判断の結果責任は私が負う」と言い切る力強い言葉に、SNSを中心に支持が集まった。
官邸が打つ手の“実験台”にされた?
一方、地元の北海道新聞は、政府内に感染者数が拡大する北海道に着眼して行動を制限するプランが浮上していた点を踏まえ、「知事は政府からの正式な打診を受ける前に〈緊急事態宣言〉と〈外出自粛要請〉を発表し、29日の安倍晋三首相への緊急要望をセットにして機先を制す狙い」だった、と読み解いた(2月29日付)。
国が強権で感染封じ込めに乗り出す事態になれば、都市が封鎖された中国・武漢とイメージが重なってくる。観光を売り物にする北海道を襲う最大のピンチを、先進モデルを示す好機に――。財政破綻で人口が急減していた町を“課題先進国の課題先進都市”としてその解決モデルを示す町と位置づけた、夕張市長時代の“勝ちパターン”と重なる。
鈴木の「休校要請」の翌日に政府は全国の自治体に休校を要請し、鈴木の「緊急事態宣言」のあとに新型インフルエンザ等対策特別措置法改正に向けた動きは本格化した。
菅義偉官房長官ら政府中枢との近さから「官邸の言いなりではないのか」との批判は常にあり、「官邸が打つ手の実験台にされたのではないか」という趣旨の皮肉も出る。
ただ、政策の選択はそれほど単純ではない。政府内には常に複数のシナリオが同時に浮上し、あるものは選択され、あるものは捨てられる。テーブル上の選択肢から政治的に有効な情報をキャッチして即座に反応する――その“反射神経”に鈴木の特徴がある。
都庁職員時代から備わっていた“反射神経”
現在の情報感度を感じさせる逸話がある。
まだ夕張市に派遣された都庁職員だった約10年前のある日、政権を担う民主党幹事長(当時)の小沢一郎も来るパーティーが札幌市内で開かれる、と耳にした鈴木はするすると伝手を辿り、その会場にもぐり込んだ。
市職労経験のある夕張市幹部は「僕も連れて行ってくれませんか」と鈴木に頼まれたことを記憶している。
「連合や道内自治体の労働組合が中心になった集まりだから、東京から来た鈴木にとって知らない連中ばかり。いいのかと訊ねると、『いいんです、できればその人達も紹介していただけませんか』と言い出すから、この男は何を考えているのだ、と思ったものです」
さらに会場に入ると、鈴木は連合北海道の会長も紹介してもらい「私は政治家志望なんです」と自己紹介して売り込んでいた。こうして中枢に貪欲に食らいついて反応しては有利なポジションを一歩一歩と獲得していくのだ。
1600世帯から意見を聞き取り、報告書を完成
当時、夕張市の財政破綻から3年が経過し、政府は地方財政健全化法の改正にあわせ、再建計画の見直し時期にあたっていた。
ここで鈴木は、一市民として参加する市民団体に諮って全世帯アンケートを企画した。企画だけでなく、自ら走り回って地方自治を学ぶ学生の力も借り、市内に住む全世帯の4分の1にあたる1600世帯から意見を聞き取って報告書を完成させた。
挙句の果ては民主党政権の総務副大臣、渡辺周に持ち込むことでニュースに仕立て、忘れられかけていた「夕張問題」に再び脚光を集めることに成功する。
その行動力は夕張市民の間で語り草になった。
国とのパイプを源泉にした“情報感度”
昨年まで続いた夕張市長時代も、庁議でしばしば「国の管理下団体なんだから国の動きを常に注視してほしい」と幹部職員に口癖のように述べていた。
かつて、地方のリーダーといえば片山善博・鳥取県知事(当時)ら国との対決姿勢を前面に打ち立てる姿を売り物にしたが、鈴木の現在にそうした影はまだ薄い。
あえて挙げれば、5日に開かれた全国知事会にオンライン参加した鈴木も、政府が進める新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正について、「私権の制限は最小限にすべきだ」と釘を刺した。翌日の知事会から国への要望にそのまま取り入れられた。
とはいえ人口減少がさらに深刻化した現在は、地方の自治体は予算や人材といったリソースを持つ国への依存度を深めなければ立ち行かない。
国とのパイプを源泉にした鈴木の“情報感度”は武器になる反面、頼りすぎれば首長としての存在感は薄まる。新型コロナウイルスへの対応をめぐる危機管理はその難しいバランスが問われ続ける政治家にとって、注目の第一ラウンドといえる。(文中敬称略)
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ノンフィクション作家の広野真嗣氏が、鈴木直道知事の実像に迫った「 令和の開拓者たち 鈴木直道 」は、「文藝春秋」1月号および「文藝春秋digital」に掲載されています。
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(広野 真嗣/文藝春秋)